115 いずれはムキムキに?
シヴァも宴会芸をねだられたので、手持ちの毛皮と羊毛綿とガラスで大人気のイディオスぬいぐるみを錬成して見せてやった。
本来の極上の手触りにはまったく及ばないが、外見は再現出来ている。
大きさは30cmぐらいで、歩くポーズで。
「うおおおぉぉおおおっ!」
「これ、欲しい!欲しいぞ!」
「娘が喜ぶから売って!売ってくれ!」
「よし、参戦!金貨5枚!」
「金貨6枚!」
「ちょっと待て!…イディオス、ぬいぐるみ売ってもいいのか?」
奪い合いで血を見る前に、数を増やしてしまえばいい、作戦である。
『構わんぞ。ただ、高過ぎないか。Sランク冒険者が錬成したっていう特別感?もあってか?』
「シヴァ様がって言うより、出来がいいからでーす」
「驚異のリアルさ!」
「あざーす!イディオス様ぁ~」
「えーい、思い切って金貨8枚!」
「じゃ、金貨8枚と銀貨3枚!」
「待て待て。おれも高過ぎだと思うぞ。イディオスはいくら付ける?」
『金貨1枚ぐらいじゃないか?…あ、シヴァが素材出したか!素材だけで結構高いとしても金貨5枚?』
シヴァは自分で狩ってるので、実質の素材コストは一割…銀貨5枚もない。
「よし、金貨5枚で販売。おれの取り分1枚で4枚はイディオスに」
『我はいらんぞ』
「イディオスの姿だからこそ、欲しがられてるんだから貰っとけ」
『では、それは全部シヴァに。色々作ってもくれてるから代金ということで』
「分かった。…じゃ、欲しい奴、こっちに並べ!一人一つ。ポーズ希望も受け付ける」
「はーい!」
「さすがシヴァ様、太っ腹!」
「よっ!
「シヴァ様、素敵っ!」
「シヴァ様はいつも素敵っ!」
「シヴァ様に、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
そんなノリに苦笑しながら、シヴァはイディオスぬいぐるみを錬成して行った。
たびたび素材を狩りに行っているため、余裕で足りる。
ほとんど行き渡った所で、さすがにおかしく思い始めた奴が出た。
「シヴァ様?魔力、全然平気っすか?」
「見ての通りに」
「スゲー!」
「さすが、Sランクは魔力量からして違う!」
「酒も強ぇっ!」
「Sランクだしなっ!」
「ここ十何年も認定されてなかったしな!」
「ってか、今いる他のSランクってエルフの弓師と獣人?の魔法使いの二人だけで普段はそれぞれ別でパーティ組んでるし、ダンジョンソロ攻略は無理じゃねーの?」
「魔法使いは確かドラゴニュートだぞ。あのタフさと身体能力なら接近戦も行けるかも」
ドラゴニュート…竜人か。
キラキラ宝箱とアイテム交換したAランクのヴィクトルも、ドラゴニュートだ。絶対数が少ないようだから、Sランクの魔法使いは兄弟か親戚かもしれない。
『それでも、シヴァの方が強いだろう。長寿の人間ばかりだな、Sランクは』
「…え?シヴァ様、外見は若いけど、実は何百歳とか?」
「えーショック!」
「ドラゴニュートって人間なの?亜人?」
「エルフは?精霊寄りっぽいけど」
『いや、シヴァの年齢は見た目通りでまだまだ成長途中だ。だが、ステータスを上げ過ぎて普通に年を重ねられない領域に入っている、という話。かつても人間だったのに、何百年も生きる者が何人かいただろう?』
「えー?それ、おとぎ話じゃないんですかぁ?」
「大げさな記録になってるだけかと~」
「イディオス様が知ってるんなら、事実だったんですねぇ」
「ってか、シヴァ様、まだまだ成長途中って……ええっ?」
「じゃ、いずれはムキムキに?…いやぁっ!」
「能力の話だろ」
「シヴァ様、伝説の男になりそうだなぁ…って、既に伝説は始まってるんじゃねっ?」
「おれたちが歴史の生き証人かっ!たぎるなっ!」
「ダンジョン攻略の次は、悪い王族や威張り腐った貴族倒して、シヴァ様帝国を立ち上げることに?」
「ないない」
「だいたい、皇帝自ら戦う国って国として終わってるぞ」
「だよな~」
「何故、皇帝?」
「王様より、シヴァ様らしい?」
「あっ、オレ、王冠装備持ってまーす。見た目の割にしょぼい効果なんで、売るに売れなかっただけとも言うけど、シヴァ様に献上!」
こういったノリは逆らっても無駄なので、シヴァはおとなしく王冠をかぶせられる。もちろん、鑑定はした。
【憩いの王冠…防御力+5、装備していると王様気分を味わえ、ささくれた気持ちも落ち着く、かもしれない】
…本当にしょぼい。
宝石じゃなくガラス玉だ。
「おお~!!」
「似合うっ!」
「でも、何か物足りない…」
「っっ!マントよ!皇帝にはふかふか縁取り付きの皇帝マント!で、金モールで」
紙を出して書き出す冒険者の女。脇から口出す冒険者たち。
「なら、杖も必要じゃね?
「皇帝なら剣でも…って、シヴァ様、既に超素敵な剣をお持ち!」
「出して下さい!」
「あっっ!シヴァ様ならこの理想のマントもちょちょいと作れるハズ!」
「見たーい見たーい!」
『我も見たーい!』
「あー分かった分かった」
マントは赤で金糸銀糸刺繍を入れ、縁取りは毛皮。
スノーレオパードでいいか。で、留め具もオシャレな装飾で肩にも金モール。
デザイン画を見つつ、適当にアレンジしてイメージを固めると、素材を出して皇帝マントを錬成した。
続いて、どうせ、作らされるだろう、と先回りし、皇帝の豪華な椅子、座り心地も追求した逸品を。
謁見の間のように階段と赤絨毯も錬成し、空いてるスペースに設置。これで、簡易謁見の間が出来上がった。
シヴァが王冠と皇帝マントを身に着け、皇帝の椅子に座り、大剣も出して片手に持つ。
「うぉおおおおおおっ!」
盛大に喜ばれた。
「シヴァ皇帝!シヴァ皇帝!」
「シヴァ皇帝バンザイ!」
「バンザイ!」
「バンザイ!」
みんな両手を上に挙げ、大いに盛り上がった。
…うん、シヴァも酔っていたかもしれない。状態異常全耐性があっても雰囲気に。
しかし、大丈夫だ。
神獣たるイディオスも両前足を挙げてバンザイしていたし、この中で一番の常識人だろうダンも同じくだったのだから。
しかし、翌日からは大丈夫じゃなかった。
『黒の皇帝シヴァ』という二つ名が付いてしまったのだから。
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