番外編31 ランチは夜霧の赤いフォックス?
「ああ、お揚げが小さくなっちまった…」
円安ドル高、相次ぐ原材料高騰に伴い、数々の食品が値上げされた。
夜霧のからあげ…かき揚げ?シャケ弁当…いや、ツーブロックの先駆け髪型、しかもまぬまぬ?はぬまん?…は猿の神様か。ハヌマーン。まぬる?そうそう、マヌルネコ!あれ、可愛いよなぁ。ずんぐりむっくりふかふかで。
まぬ缶?…何か違う。まぁ、いいや。懐メロだ、懐メロ。懐メロの歌詞に節約のためにシャケ弁当、とあったのに、今はもう到底節約にはならない。高いよな?シャケ。
シャケ弁当のシャケもどんどん薄っぺらく…こんな薄く切る技術もスゲェけど、更に薄くても火が通り過ぎない絶妙な火加減、さすが味にも料理にもこだわる日本人!
いや、褒めたいんじゃなく、シャケも高くなったなぁ、という話だ。
思えば、ポテトチップスの内容量が徐々に減って行った時から、徐々に原材料の高騰が始まった気がする…というのは大げさか。
ボックスティッシュ、組数が少なくなってるのに、「安い!」と思わず買って騙された、気がした人も多かったことだろう。
紙箱をなくしてコスト削減、小さく軽くなったことで輸送も在庫もより多く運べる持てる、と企業努力にも頭が下がる。
そして、今度はカップうどんのお揚げだ。
赤いフォックスだけは大きなお揚げを維持しているので、頑張って欲しい。
きつねうどんのお揚げは大きい方がいいだろう?
お揚げを箸で押すと、揚げの油と絡まった旨味たっぷりの出汁がじゅわ~と出て来る!それが麺と絡まって何とも言えない美味しさ!
お揚げを食べながらうどんも食べる。それがきつねうどんの醍醐味だろう。反論は受け付けない。
******
さて、こちらの世界にも豆腐がある。
コアによると、かつて召喚された、転生した異世界人の中に料理人がいて、広めたからだ!
それは作り方が簡単で、ある貴族が気に入って早々に魔道具が開発されたおかげである。
それはそれで素晴らしいとシヴァは思うのだが、あいにくと豆腐から派生した料理は全然広まっていない。油が高いからだ。
ラードはボア系、牛脂はカウ系魔物から採れるが、不純物がないちゃんと精製した物じゃない限り、日持ちはしない。
状態保存が出来る魔道具、時間停止のマジックバッグはあるものの、どれもレアで数が少ないため、平民には出回らない。
まして、氷魔法が使えても食品には向かない凍らせ方しか出来ない人も多かったりする。つまり、不純物が多過ぎるワケだ。
では、植物油は?というと、ないワケでもないのだが、良質でたくさん油が採れるものは植物系魔物で、生息域は他の魔物も多数生息し、森の奥地なことも多いため、採取には危険を伴ってしまうのだ!
極々稀にそういった植物油が採れる植物系魔物のテイムに成功し、植物系従魔の仲間を誘致して養殖…牧場化して植物油を採って販売して成功している商人もいるので、平民にも出回っていた。
高いのでしょっちゅうは買えない、いわば「ご褒美食材」として。
ラードや牛脂より生臭くなく、日持ちもして香り高く風味もよく、料理に使えばワンランクアップしてくれるので、人気は高かった。
まぁ、大半の屋台で売っている揚げ物は、日持ちがしないので植物油よりは安いラードばかりで、どうしても値段は高くなるため、手頃な値段の焼き物の方が人気だったりする。
******
ラーヤナ国キエンダンジョンマスターフロア。
温泉宿風自宅にて。
ふと、転移前のことを思い返し、きつねうどんが食べたくなったシヴァだが、まずは豆腐から油揚げを作る必要がある。まだ作ってなかったのだ!
ラードも牛脂も植物油も何でも手に入るが、ここはクセがない良質な植物系魔物油で作るべきだろう。
本当にこちらの食材は美味しい物ばかりだ。
【ねぇねぇ、シヴァ。うどんはわかるけど、『きつね』ってなに?】
従魔になったばかりの子供グリフォン…デュークには馴染みのないものだった。
「お揚げのこと。どんな物かは見てれば分かる。デューク、豆腐は知ってる?」
【しろいやわらかいやつでしょ?おなべでたべた!おいしかった!】
「そうそう。その豆腐を薄く切って水抜きして油でじっくり揚げるのが油揚げ。その油揚げに味を付けてかけうどんに入れると『きつねうどん』。豆腐を分厚いまま揚げて、中が半生なのが厚揚げ、片栗粉を付けて軽く揚げてとろみのある甘酢あんタレをかけるのが揚げ出し豆腐」
【え、ちょっとのちがいでなまえがちがうんだ?】
「そう。日本食は奥が深いワケだ。まぁ、ついでにみんな作るか。それぞれ違って、それぞれいいから」
【わーい!】
…ということで、シヴァはデュークと油揚げ、厚揚げ、揚げ出し豆腐を作ることにした。
ついでに、シヴァはデュークにうどんの打ち方も教える。昔ながらの生地を足で踏むやり方だ。ビニールみたいな加工品はない世界だが、こういった場合はカエル系魔物の胃袋や頬袋がお役立ち。水漏れせず、伸縮性があって丈夫なのである。
カエル系魔物はどこにでもいて、そう強くないので、大半の平民にも重宝されていた。
さすが、器用なデューク。すぐにうどん踏みも打ち方も覚えたのだが……つい笑ってしまった!
黒い鷹頭や黒い羽に小麦粉が飛んで、グレーになってしまっていたので。
【もーわらうし、わらうし~。…って、あれ?なんで、シヴァはぜんぜん『こな』がとんでないの?】
「風魔法でゆるーく操作してるんだよ。これも魔力操作が上達しねぇと難しいみたいだけど」
シヴァは苦労したことがないのでよく分からないが、魔法自体を使い慣れてなかった頃のアカネは加減がよく分からない、と言っていた。
【まほうなんだ。『こな』ってかるいから、かなり、そっとそっと?】
そういったことが分かる本当に賢い子供グリフォンである。
「そう。まぁ、魔法が使えるようになったらチャレンジしてくれ」
【はーい】
そして、生地を伸ばして切ったうどんはさっさと茹でて時間停止のマジック収納へ入れた。
うどんの麺を作っている間に、豆腐の水抜きを魔法でして、低温でじっくりと揚げ、続いて高温カラリと二度揚げをする。
しかし、これでは単なる油揚げ、味を付けたお揚げではない。
出来たての油揚げを軽く茹でて油抜きして水気を魔法で抜き、出汁、醤油、みりん、キラービーの蜂蜜、岩塩で作った濃い目の汁に投入、落し蓋をして十五分程炊いて味を染みさせればお揚げの完成だ!
お揚げのサイズは約7cm四方。丼の七割を覆うぐらいがベスト。
厚揚げは揚げたてそのままで、薬味を載せ、生姜醤油をかけて。
揚げ出し豆腐は定番の野菜甘酢あんかけで。
デュークはまだ人間の大人一人前も食べられないので、きつねうどんも厚揚げも揚げ出し豆腐も少なく盛り付ける。
「はい、では、いただきます」
【いただきまーす!】
シヴァとデュークは手(マジックハンド)を合わせ食前の挨拶をしてから、お揚げから作ったきつねうどん、厚揚げ、揚げ出し豆腐、と豆腐尽くしランチを食べ始めた。
もちろん、ものすごく美味しかったのだが……そのままでも調味料としても万能甘味と言ってもいいキラービーの高級蜂蜜を使ったのは反則だったかも、とシヴァは少し反省した。
あくまで少し。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます