快適生活の異世界【番外編】

蒼珠

番外編01 ある日のある夫婦の会話

「異世界転生モノって何でハーレムばっかなんだろうね?」


 妻のAがそう訊いた。


「本当のハーレムの過酷さ残酷さを知らず、単に可愛い美人な女の子たちにちやほやされたいっつーモテない野郎どもの大半に受けがいいから、だろ」


 身も蓋もないことを旦那のBが言う。


「商業的な理由ってこと?」


「ああ。ウケねぇ要素が定番にはならねぇしな。大人数アイドル戦略と同じだろ」


「あー、大人数いればその中の一人ぐらいは好みの女の子がいるってことか。でも、もし、B君が主人公だったらスルーしまくっちゃいそうだね。フラグ折りまくりそう」


「足手まといが出来る、不自由な立場になっちまうフラグも折りまくるだろうな。で、その替わりの試練をチートな奴に与えてみてぇな」


「B君自体がチートじゃん~既に~」


「いやいや。リアルなら強い方だとは思うけど、上には上がいるもんだし、異世界なら武器ありだし、魔法とか不思議な力とか身体能力自体が特別だったりとかもあるだろ」


「B君なら武器や魔法の類いは最初は使えなくてもすぐ体得しちゃいそうじゃない。そんな面白い力なら是非使ってみたいって思うだろうし、そんなにすぐ成果が出なかったとしても根気もあるし」


「そりゃそうだけど、向き不向きってのもあるんじゃねぇの。…あ、転生だったら今と顔が違うんだよな。それはそれで…」


 Bはかなり目立つ女顔の美形な自分の顔が嫌いだった。


「今よりもっとすっごいすっごい超絶美形かもよ?エルフとか妖精とかのファンタジーな種族だったらさ」


「種族全体がそうなら、大して目立たねぇだろうから…」


「いやいやいや。どんな容姿でも目立つでしょ。中身がB君なら前提って言ってもいいぐらいに。忘れた?テレビのドキュメント番組取材で顔隠して出た時だって問い合わせが殺到したどころか、通りすがりの人たちにも『あの番組に出てた人なんじゃ…』って言われまくったことを。それも、ほとんど確信してる感じで」


「何か呪われてるのかなぁ」


「いやいやいや。逃避してるし」


「Aはもし、異世界に行ったら何する?」


 Bはさくっと話を変えた。


「あちこち観光する。異世界ならではの食材とか雑貨とか色々あるだろうし、面白い場所も…って、ああ、まず先立つもの…お金を稼がないとね。身元不明でロクに一般常識のない人を普通の店じゃ雇ってくれないだろうから、やっぱり、冒険者?探索者?どの作品も簡単になれそうだし」


「で、定番、薬草採取とか?」


「うん。それと罠仕掛けてモンスターの討伐依頼も出来そうだよ。まぁ、でも、仕留めた所で大きかったり重かったりしたら持って帰れないだろうから、収納のスキルとかアイテムボックスとかは最低限欲しいなぁ。あ、なら、配送の仕事も出来そう」


「えー?収納系はレアなスキルっていう設定が多いから、そんな便利スキル持ってるだけで悪い奴らや欲深い連中から狙われるんじゃねぇの?

 やっぱ、そこは人の良さそうな人と仲良くなって、その世界のことを教えてもらって、現代知識で金を稼ぐことが出来ないかどうか考えたら?

 中世ヨーロッパが舞台の異世界が多いんで、蒸留技術がまだ確立されてなかったら、酒を蒸留してアルコール度数を上げるだけでも稼げるだろうし、香料や薬になるハーブ類も知られてねぇかもしれねぇし、石けんは材料が揃え難いし、固形で作るのは難しいけど、海の側なら何とかなるかもだし、そもそも異世界なら生物も無機物も生態系自体も不思議いっぱいだろうし、魔法で何とかなるかもしれず」


 後日、前半そのままの行動をすることになるのは、この時点のBは知らない。


「それは魔法に期待し過ぎじゃない?まぁ、召喚された場合は何らかチートなスキルを持ってる作品が多いみたいだけど、リアルな問題、こっちでは害のない微生物やウイルスや物質があっちでは猛毒や害悪になっちゃうとかもあり得るワケで。逆にこっちがあっちの世界に合わずにやられちゃう場合も」


「その辺気にしたら、話が進まないから全力で気が付かねぇことにするのが、創作物を読む上での基本じゃね?モンスターっつー特異な生物がいるんだから、人間だって同じように見えても中身も遺伝子も違ってそうなのに、違う種族とのハーフが結構いたり、大した苦労もせずさっくり子供を作ってたりするのもな。それこそファンタジー?」


「だね~。…あ、そういった環境問題って召喚された場合なら適応するよう何らか配慮があるんじゃないの?まぁ、怪しい召喚ばっかりだけど、言語のスキルは最低限あるのが定番だし」


「で、勝手な理由での召喚ばっかだから、主人公は逃げる、と」


「誰だって逃げると思うけどなぁ。普通に誘拐だし、帰れる方法がないパターンも多いし。召喚された場合、お偉いさんを人質にして即座に送り返してもらう、ダメなら権力握ってって感じ?」


 温厚に見えるAは結構過激だった。Bの妻をやってるだけあって。


「ステータス的に初期状態でも、今の身体能力がなくなるワケじゃなさそうだから不意を突けばやれそうだよなぁ。でも、好き放題ってどう?」


「文明レベルが低いのなら発展させればいい、あっちの世界にはない食材なら品種改良やら魔法やらで作ればいい、だよ。あっちの世界にも知識人や研究者だっているだろうし、帰る方法だって長命なドラゴンや賢者なら知ってるかもしれないし」


「おお、正に好き放題。テンプレ悪徳権力者たちはさくっと処分すると」


「いやいや、人口がまだまだ少ない世界ばっかりのようだから処分はしないよ。魔法だの薬だので洗脳して人様のお役に立つようにするって」


 ある意味、そちらの方が酷いことになる……。


「それは中々難しいんじゃね?ただでさえ、価値観自体違ってそうだし、人の命も軽く扱われる世界っぽいし」


「あくまで方針はね、ってことで。何らかチートな能力もらったり、努力と根性で何とかして無双出来る確率が高くても万能ではないんだし、世界的に見て破格に安全な日本育ち…の割には色々トラブルに巻き込まれてるけど、それでも、時と場合によって足元すくわれそうだし」


「まぁ、何だかんだ言いつつAはどこでも適応しちまうだろうなぁ」


「それは自信あるね。不潔な環境ならし」


「でもって、妙に頭が悪く、どっかの宗教の人気取りかっつー程、無料奉仕、身銭もビシバシ切り、綺麗事ばっかのいい子ちゃん主人公がいたら、きっちりシツケ入れそう」


「あーよくいるよね~。素人投稿の異世界物には特に。プロだとそこまで頭悪くしないのに。飽きるから」


「そうそう。完結せず、次から次へと新作出すとかも素人の特徴。アイディアや設定はいいのに、続かなくなったんだな~って分かるとちょっとせつない」


「たまに思い出したように更新する人もいるけどね。ってことは、完結させてから投稿する人って少ないのかな?」


「じゃねぇの?だらだらとサ○エさん状態になってる小説もあるし、数十話進んでもまだ一日も経ってない小説もあったりするし。少年漫画のバトルも似たようなこと言えるけど」


「いきなり何年もすっ飛ばす展開ももやもやするけどね~。中々話が進まないタイプの人って初期の話は、テンポよくてそっちの方がよかったってこともあるし」


「スゲェいい小説の大半はアニメ化されてるよな。原作が完結してねぇのに漫画化、アニメ化ってのも、どうせ途中で打ち切りかよ、って思うけど」


「作画やキャラデザやシナリオに恵まれなくてってのもあるよね。だいたいは挿絵の人のキャラデザを元にしてるけど、原作の雰囲気とどうも合わないってこともあるし、アニメ化されたことで原作も人気が出たっていう逆もあるか」


「アニメ化も映画も、最近じゃシーズン2以降や続編やスピンオフが当たり前ってのも、長過ぎで途中でついて行けなくなるし。ハリー○ッターとか」


「分かる!子役が可愛かっただけにね。…あ、よく考えてみなくても、ハ○ーポッターも異世界物か。独自設定の」


「それ言ったら創作物のほとんどが異世界物だろ。いくら撃っても尽きねぇ弾丸、よく割れるガラスや瓶、なのに、怪我人が出ず、少数対多数でも団子にならず、押し潰されることもなく、同士討ちもせず、大して魅力のない主人公なのに続々と異性がひっかかり、穴だらけの作戦が何故か上手く行き、だいたいはハッピーエンド」


「ハッピーエンドは許してあげようよ~」


「じゃ、服が破れる、なくなるようなダメージを受けても、男ならズボンだけは残ってる、女なら何故か服のダメージはそれ程ない。どれだけすごい素材なんだか」


「放送、放映出来なくなっちゃうしね。アングルをちょっと考えれば、と思わなくもないけど」


「じゃ、立て続けにトラブルに巻き込まれる辺りもファンタジー」


「そうだよね。ファンタジーの世界に迷い込んでるよね」


「そういや、A、知ってる?完結せず、途中放置の作品って『エタる』って言うそうだぞ。エターナル、永遠に完結しないってことから」


「…何でも略せばいいってもんじゃないと思うの。未完みかんでいいじゃん!」


「食べ物のみかんと語感が似てるから?」


「そうなの?まぁ、ともかく、B君が異世界転生、転移すると、『この人がいるだけで、すべて片付くんじゃないかな』な超チートキャラになりそうだよね」


「ああ、進○の巨人の兵長みたいにか。ないない。おれが超チートだったら、どこか安全な所にこもって物作りか研究してそう」


「あはははは!ありそう!ありそう!でも、B君、困ってる人に気付いたら助けちゃうだろうねぇ。有料で!」


「そこ、大事!タダ程高いもんはねぇしな。その時は払えるもんがなかったとしても、将来払いでキッチリ後日徴収。無料奉仕、滅私奉公は他の主人公に任せよう…っつーか、仕事回してやろっかな。そんなスゲェ聖人のような正義の味方がいるんなら」


「すっごくこき使いそう~」


 あははははは!とこの時は笑って終わったのだが、後日、ある夫婦はこの会話を思い出すことになった。



――――――――――――――――――――――――――――――

注*フィクションです。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る