番外編52 「君を愛することはない」と言われましたが、どうでもいいですわ。え?もう撤回したいのですか?知りません。わたくしに関わらない所で幸せになって下さい

 以上、タイトル通り。
















 ……。

 ………。

 …………。

 ……などと、一度やってみたくありません?

 最近、長いタイトルの小説が多過ぎなのですよー!

 文庫本の表紙もですが、背表紙なんて、それはもう!もーのすごくちっちゃいちっちゃい字になっていて、装丁の方々の苦労がしのばれますわ。デザインどころか、フォントすら選ぶ余地なんてまったくありませんものね。内心…いえ、人気のない所か、どこかに掘った穴に向かって絶対、絶叫してますわよ。「こんな流行はやり、さっさとすたれろ!」って。


 あら、失礼。

 素人の手記なので、無作法な始まり方はお気になさらないで下さいまし。

 長文タイトルで茶化してみましたが、実は、このお話、体験談ですのよ。

 ええ、わたくしの体験談。

 小説だけではありませんのね?いえ、こういった小説が増えているからこそ、元夫は最初に牽制しておこうと思ったのかしら?どちらが先なのは、どうでもいいことですけれど。


 こういった「君を愛することはない」と初夜の時に言う夫は、妻側の悪評判を真に受けて何かしら勘違いしていたり、他に大事な方がいらっしゃるのに政略で仕方なく、このどちらかであることが多いと思われます。

 どちらでも、よく知らない相手に失礼極まりませんわ。見知らぬ他人に攻撃魔術をぶっ放されるのと、どう違いますの?攻撃に反応して自動展開する防御魔術具を持っているので、攻撃魔術の方がマシかしら。


 そんなことを考えてしまったぐらい、この時点で、なしですわよ、なし!

 こちらから話し合おうとした所で、話し合いになりませんわ。話を聞かない人なんですもの。


 無駄なことはしたくありませんが、使用人たちの手前、わたくし、放っておくことも出来ませんでしたわ。泣き寝入りする気弱な奥様だと思われたら、もう舐められっ放しですもの。貴族であればこそ、人前ではいつでも毅然とした態度でいなければなりませんわ。

 まぁ、途中で飽きたので、「聞く耳すら持たない酷い夫に辛抱強く話し合いを求める妻」という上辺だけの演技もおざなりだったのですけれど、バレなければ問題ありません。


 え?元夫はどのタイプだったのか、ですの?

 後者の大切な人が他にいらっしゃる、ですわよ。

 恋人が平民の使用人でしたから駆け落ちでもしない限り、コソコソするしかありませんわよねぇ。でもって、この使用人、姑息にもわたくしの悪評判を元夫に散々、吹き込んでいたのですわ。

 金遣いが荒くて、使用人にも暴力を振るい、男遊びも激しい、などと、事実無根なことばかり。悪評判の類型とも言えますわ。よくもまぁ、信じますわよね。


 社交界でのわたくしの評判はよかったので気が付くのが遅れましたが、平民に流れている評判が事実、だと元夫は思ったようですの。ロクに調べもせずに。

 いずれ、詐欺師にひっかかりますわよ、と忠告なんて致しませんが、既に遅し、でして。


 そう、その使用人の恋人が詐欺師でしたの。

 今までも儚げで気弱ぶって貴族や裕福な商人のお屋敷に使用人として何とか潜り込んで、そこの若様をたらし込んで…あら、言葉が悪いですわね。まぁ、色仕掛けでオスの本能を刺激することが得意の方だったようですの。ええ、どの方とも身体の関係はさっさと出来上がっていたそうですわ。

 上手くおだてて、持ち上げていても、やがて、どんどん高額な物をねだるようになり、さすがにおかしい、と疑い出した時にはとんずら!

 これの繰り返しだったそうですわ。


 え?何故、わたくしがそんなに詳しく知っているのか、ですか?

 決まってますわ。調べさせましたの。

 少し可愛い程度の一人の平民の動向なんて、普通なら誰も気にしないのでしょうが、彼女は目立つ行動していましたので、その点で調べ易かったようですわ。

 平民には娯楽が少ないので、絶好の話のネタにもされていましたのよ。噂が多過ぎて、どこまでが事実なのか、判明しない所もありますけどね。

 わたくしの悪評判もほんの一時期だけで、この女詐欺師が流したものだともすぐ判明していましたわ。


 それで、その女詐欺師は今、領都の領軍騎士団の方の牢に捕まっていますの。

 元夫、あれでも次期伯爵ですし、他にも貴族の被害者が結構いて、いくつかの街にまたがりますので、各街の警備隊では権限が及ばないのですわ。もちろん、情報の共有はされていましてよ。


 騙されていたと分かった元夫の顔、見たかったですわぁ。

 元夫の恋人が女詐欺師だと分かった後、わたくし、巻き込まれるのが面倒でしたので、色々と口出しして「うるさい女」だと思わせて離婚に同意させて、さっさと実家の領地の屋敷に帰っていましたの。

 いくら政略結婚でも、元夫が不誠実極まりない対応をしていた証拠はちゃんと集めていましたので、実家側も手続きもまったく問題なかったですわ。


 そもそも、この政略結婚の意味も、元夫は誤解しておりましたの。

 わたくしがどうしても、と懇願したからこそ結婚が整った、と。

 実際は元夫の伯爵家の領地と我が侯爵家の領地は隣り合っておりまして、その二つの領地にまたがり大きな街道を作る計画がありますの。交通の要所になるため、莫大な利益を生むことになる。それなら縁を結んでおいた方がいい、ということでしたのに。

 元夫、本当に聞く耳を持たない方ですから、ご自分の都合のいいように誤解するのでしょうね。


 わたくしとしても、侯爵家の娘という自覚はありますから領地の発展は望む所ですし、大金が絡むと身内であった方が上手く行くことが多いのも知っております。ですから、政略結婚にも同意したのですけれど……本当に失礼しちゃいますわ。

 わたくしは兄姉に続いて三子目の末娘。少し年が離れているだけに、可愛がられておりますので、この結婚もわたくしの意向次第でしたのに。

 近くの領地の出身でわたくしとちょうどいい年回りの殿方が、たまたま少なかったのも選択の余地を奪いましたわ。


 しかも、思った以上に元夫はボンクラ…こほん。いい言葉が見つかりませんし、スパッと表現出来る言葉でございましょう?少々、はしたないかもしれませんけれど。


 まぁ、使えない次代と縁を結ぶメリットなんて、まったくありませんし、人柄のいい伯爵も元夫の廃嫡を考えるのではないかしら。前も何やらやらかしていて、いい噂も聞きませんし。


 それにしても、元夫からの手紙が鬱陶しいですわ。

 これも証拠になるので、仕方なく受け取っているのですが、それはもう妄想爆発の「どこの世界のお話?」という代物しろものですの。

 恋人が女詐欺師だと分かった途端、手のひらを返す浅ましさは予想しておりましたが、わたくしにたくさんのプレゼントを贈り、デートであちこちに行ったという妄想話を「思い出」として書き連ねてあり……恋人だった女詐欺師とわたくしを混同してるのかもしれませんが、精神的に問題あり、だとしか思えませんわ。


 ええ、贈り物なんてまったくもらってませんし、デートもしたことがありませんわ。

 そもそも、結婚前に会ったのは片手で足りるぐらいですもの。政略結婚ですから、こんなものかと思っていた、とわたくしが言いましたら、親兄姉が怒ってましたわ。あり得ない対応だったようですね。こちらが侯爵家で格上ですのに。

 まぁ、わたくしの世間知らずさが露呈してしまったのはお恥ずかしい限りですけれど。




 そうして、わたくしは領地でのんびりと過ごしておりましたが、首都ルベンの方は大変だったようですね。何でもドラゴンが出たとか。

 ドラゴンですわよ?伝説ではありませんの?


 噂によると、空獣騎士団の詰め所に他国の錬金術師の方を招いたのですが、ものすごく失礼なことにも団員達で囲んだそうですわ。しっかり武装して。かなり、怖い脅しですわよね。

 幸い、その錬金術師の方、本業は冒険者で、ものすごくお強い方だったそうですの。ドラゴンもその方の従魔、らしいですわ。公主殿にドラゴンで乗り付けて、公主様に文句を言ったそうですの。

 すごく大胆で強心臓の方でしたのね。


 一時は首都ルベンにドラゴンからの攻撃があるかも!と逃げ出す方々が多く、わたくしのいる領地に来る方々も多かったのですが、二週間もすると、その騒ぎも落ち着いたようです。

 ドラゴンは警告だった、という見解が優勢でしたわ。


 まぁ、ともかく、落ち着いて来たとのことだったので、わたくし、首都ルベンへと向かいましたの。領地暮らしはほとんど不便を感じないのですけれど、どうしても本の新刊は中々手に入りませんから。人気作は尚更ですわ。

 その点、首都ならば、新刊は売り切れてしまっていても、図書館があります。大きな図書館ですから、わたくしがまだ読んでない女性向けの小説がたくさんあるのです!こちらも目当てですわ。


 何事もなく首都ルベンに到着。

 新刊の方はあいにくと売り切れでしたが、すぐ増刷されるとのことだったので予約致しましたわ!ほんの数日で受け取れるとのことだったので、このまま首都のタウンハウスにて待つことにしましたの。久しぶりにお友達にも会いたいですし、季節のスイーツも食べたいですわ。もちろん、図書館にも行きますわよ!



 でも、わたくし、誘拐されてしまいましたの。

 元夫のことなんて、すっかーり忘れておりましたわ!

 侍女も護衛もちゃんと連れていたのですけれど、ほら、図書館って書架の高さが高くて見通しが悪いでしょう?一瞬の隙を突かれた形ですわね。わたくしを人質に取られてしまっては、侍女も護衛も動けませんもの。


 え?何だか余裕っぽい感じだとお思いですか?

 それはそうですわよ。

 しばらく前にもう終わった話で、振り返ってこの手記を書いているのですから。

 もちろん、当時は怖かったですわ。人相の悪い男たちに誘拐されて刃物まで突き付けられているのに、冷静で落ち着いてる淑女なんておりませんわよ。


 その人相の悪い男たちに連れて行かれた場所は、図書館内の倉庫のような部屋でしたわ。後から聞いた所によると、図書館職員を買収していて、誰にも会わないよう人払いもしていたそうです。

 そして、元夫がもったいぶって出て来ましたわ。「ああ、ここまで落ちぶれましたのね」と返って冷静になって落ち着きましたの。裏社会の人間とつき合いがある、という噂、事実だったようですね。


「復縁しろ。じゃないと、お前の顔が二目と見られないことになるぞ」


 そんな風に元夫は脅しますが、冷静になったわたくしの頭は動きます。


「まぁ、なんておバカさんなんでしょう!死体と復縁なんて、そんな変態趣味なんか、ありませんわ」


 おほほほほほほほっ!

 堪え切れずに笑い声がこぼれてしまいましたわ。


「護身魔術具を持っていないと、どうして思いまして?」


 わたくし、侯爵家の令嬢ですから、護身魔術具ぐらいは常に携帯しておりますの。侍女や護衛が命をかけても食い下がらなかったのは、これが理由でもあります。わたくしも巻き込みたくありませんので、常々言い聞かせておりましたわ。


 人相の悪い人間が五人、いえ、六人でしたかしら?それに元夫。完全に正当防衛成立ですわ。強力な護身魔術具を使っても当然ですわよね!

 書架の棚がたくさんある場所では使うのに躊躇致しますが、古びた机や椅子ぐらいしかないここなら、まったく構いませんもの。


 自動展開する護身魔術具は腕輪で攻撃魔術には反応しますが、刃物の場合、判断が難しいので別の魔道具で補っていますわ。そうじゃなければ、わたくし、ペーパーナイフすら使えなくなりますもの。

 今回使う魔術具はわたくしの髪飾りの魔術具。

 周囲には結界、その外側全周を風魔法の範囲攻撃。ザックザクと切り刻みますわ。

 手に取らなくても魔力を少し流すだけで起動しますの。もちろん、わたくし以外の魔力には反応しませんわ。侍女やメイドが危なくなってしまいますから。



 本当に強力な護身魔術具なのはいいのですが、切り刻むので周囲一帯が血の海になってしまうのが難点ですわね。壁にも飛び散って真っ赤ですわ。広範囲に【クリーン】をかけるのも、魔力がもったいないですし、は片付けないとなりませんわね。

 伝書魔術の使い魔で護衛を呼び、後片付けもしてもらいましょう。

 これですっきりさっぱり。元義父の伯爵には悪いですが、どうせ、遅かれ早かれ廃嫡でしたし、親族はたくさんいますから、構いませんわよね。




 そして、平穏が訪れたのですけれど、しばらくして、わたくしに執筆依頼が来たのですわ。お茶会でお友達に話したことが、回り回って編集者の耳に入ったそうですの。いつも、楽しませてもらっておりますので、無下にも断れず、こうして手記として書いてみたのですわ。


 そうそう、このお話はフィクションですので、わたくしの素性は詮索しないで下さいませ!

 ……って、ああっ!地名や出来事で特定されてしまいますわね!ちゃんと削除したり修正したりしないといけませんわ!



 あら?『わたくしに関わらない所で幸せになって下さい』とタイトルに入れましたっけ?

 えーと、まぁ、どうやっても関わらない所に、わたくし自ら送って差し上げましたし、幸せを祈ってなんてあげたくないのですが、タイトルを決める時に、少し「いい人」ぶってしまったようですわ!


 おほほほほっ!お気になさらないで下さいませね!

 では、ごきげんよう、皆さま。



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関連話「367 大勢の部下たちがいねぇと、怖くて話も出来ません?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653670409929/episodes/16817330663994919444

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関連話「愛さなくても結構ですわ。政略ですから!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651739059541/episodes/16817330651739481841



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