番外編11 Sランクオネエの弟子の末路

 オカマでも衣装倒錯者でもないのに、何でオネエやってるのか、だって?

 そんなのアタシの勝手でしょ。誰にも迷惑かけてないんだからいいじゃない。

 え、何でアタシが『アタシ』って言うのかって?

 知りたがりねぇ。

 ちょっと「はすっぱ」な言い方の方が親しみ易いからよ。


 ほら、アタシ、顔いいでしょ?スタイルもすらっとしてて自信があるわ。

 でもって、ドラゴニュート、なのはすぐ分からなくても、この爬虫類系の目と少し肌に出てる鱗を見れば、爬虫類系の獣人なのは分かるわよね?

 もー子供に泣かれるのはしょっちゅうだったわよ。


 ドラゴニュートなのは誇りを持ってるけど、この目だけはあまり好きじゃないわ。同じドラゴニュートでもごく普通の目の一族も多いのよ。

 だから、先祖返りだ、族長に相応しい、嫁は厳選しろ、と何だかんだと騒がれて、派閥も出来て大変だったわ。

 アタシが冒険者やってるのは、それも理由よ。

 大きな理由は魔法の才能がかなりあったから。


 ただでさえ、丈夫で長寿で魔力量も多いドラゴニュートの里にいても、アタシの出番なんかほとんどないもの。

 なら、外の世界で色んな人を助けた方がいいじゃない。

 閉鎖的な里にいても息が詰まるし、顔ぶれもほとんど変わらないしね。


 外の世界はすごかったわ。全然違うの。

 時間が停滞しているような里とはまったく正反対で、慌ただしく生きてる。泣いたり笑ったりにも忙しい。


 最初のお嫁さんもよく笑い、よく怒り、よく泣く子だったわ。

 あいにくとアタシとは寿命が違うから死に別れたけど、あの時程、鮮やかな時間を過ごしたことはないわね。

 何百年と経ってしまった今でも、時々思い出して、しんみりとしてしまうの。

「もー!また落ち込んで!」って幻聴が聴こえないかと耳を澄ませてみたりしてね。


 最初ってことは二番目もいるのかって?

 そうよ。アタシを何歳だと思ってるの。324歳よ。

 ずっと一人じゃ寂し過ぎるじゃない。

 子供はいたけど、十五年もすれば独り立ちして、全然、音沙汰もないし!


 でも、お嫁さんは二人だけね。

 だって、もう死に別れるのはまっぴらなんだもの。

 二番目のお嫁さんは流行り病であっという間に。

 アタシが色々持ってる霊薬、病気には効かないのよっ!

 絶望したわ。

 アタシ、魔法は得意でも、回復魔法は適性がないの。だから、色々と役立つ霊薬や薬を買い集めていたのに……。


 ああっ、もう!暗い話はおしまいね!

 それで、本題は何かしら?

 …あら、さすがに分かるわよ。伊達に長生きしてないもの。

 あなたがこともね。害意はなさそうだから、差し障りのない所を話してあげたけど。


 え?どうやってSランク冒険者になったのか、って?

 小国群の一国でスタンピードに遭遇しちゃって、その対処をしたからよ。もう七十年前ぐらいかしらね。

 今思うと、規模は割と小さかったわ。Bランク数体ぐらいで後は低ランク魔物ばかりだったから。

 大きい魔法を連発したから目立ってたんでしょうね。

 魔力?そりゃー足りないわよ。魔力を貯めてあったオーブとMPポーションをガンガン使ったわ。

 しばらく、見たくなかったぐらいだわ。


 はい?ダンジョン二つの攻略とどちらが難易度が上か、って?

 当然、ダンジョン二つよ!それ、冒険者登録して、いきなり、Sランクに昇格した冒険者の話でしょ?だったら、ラーヤナ国のキエンダンジョンとエイブル国のアリョーシャダンジョンじゃない。

 特にキエンなんて50階のフロアボスはノーライフキングなのに、ソロでどうやって、って話よ!

 魔法や魔術の研究を極めた魔導王よ?ノーライフキングって。


 え、普通に倒してた?何、その普通って、どこの普通よ!

 だいたい、何でそんなことを知ってるの?

 …本人に聞いた?新進気鋭のSランク冒険者に?

 っていうか、あなた、そっちの関係者なのね?そうなのね?

 ああっ、やっぱりっっ!普通じゃなさ過ぎるわ。

 あなた、使い魔か何かなの?似たようなもの?

 でも、命令されたワケじゃない?……どーゆーことよ、それ……。


 アタシが気になったのはあなたなのね。Sランクだから?

 ……弱い?アタシが?何言ってるのよ。過小評価し過ぎじゃない?

 そりゃまぁ、そっちのSランクは物理特化みたいだから…え、違うの?魔法もかなり使える?一体、何者なのよ?

 秘密ってあなたねぇ……。


 あ、こら、待ちなさい!こっちにばっかりしゃべらせて~。

 ……はぁ?バカで失礼な弓師の女が殺された?誰に?って、どの弓師の……あっ、ダンジョンに取り残されたあの子のことなのっ?

 スカディの街で?

 ……あっ!こら、ちょっと、待ちなさいよ!


 ――――っっ!アタシの魔法をあっさり無効化するなんて!

 余裕で手を振ってるんじゃないわよっ!!!腹立つわね~。




 ******


【マスター。ちょっとした報告がありますが、今よろしいですか?】


 『こおりやさん』が数時間で終了したその日の夜、夕食後のこと。

 キーコがアルに話しかけて来た。


「おう、いいぞ。どうした?」


【キーコバタの報告によりますと、三日前の生意気な女弓師、スカディの街で殺されたそうです。

 酒場で口論して殺された、誰かと間違えられて殺された、恨んでいた人が追いかけて来て殺された、と色んな噂が飛び交っています。調査を続けますか?】


『いらねぇ。キーコ、あの女をずっと監視してたな?』


 そんなに都合よく情報が入るワケがない。


【はい。先を越されて残念です】


「正解は聞くまでもねぇ、と。殺すなとは言わねぇけど、キーコにそんな無駄な労力を使って欲しくねぇな、おれとしては。おれが心底どうでもいいって思ってたの、分かってただろうに」


【マスターの優しさが分からないバカな女など、滅びてしまえばいいのです】


「そこ?」


 アルは思わずツッコミを入れた。


【キーコバタは言いませんでしたが、あの女は置き去りになった時、マスターを散々罵っていたのです。罵倒の語彙だけは豊富でした。

 砂漠から河原へ転移して気が付いた後、自分の日頃の行いがいい、とかどうとかフザケたことを言ってました。目の前でマスターたちが消える所を見ていても、誰が転移させたか本当に分かっていなかったのです。

 乾いた砂漠から水場に。傷は治しても失った血までは戻らないので、死なないように魔物はほとんどいない、街まで徒歩一時間ぐらいの場所。転移トラップにひっかかったのなら、そんな都合のいい場所に出るワケがありませんのに。マスターの優しさはとても分かり易いのに、とことんバカには通じないのだと学習しました】


 最初はちょっと懲らしめてやろう、程度だったのが、イライラするツボを押されまくった、というワケか。


【マスターの推測通り、口論して殺された、が正解ですが、わたしは感心していて出遅れました。バカ女の言いがかりのことごとくを正論で論破していた女性に。

 亡くなった夫のことを悪し様あしざまに言われれば殺して当然ですよ。店内の誰もが、調査に来た警備隊員も女性の味方でした】


 そんな経緯だったらしい。

 Sランク冒険者のテレスト、どれだけバカ女弓師を甘やかしたんだ。

 亡くなった夫の悪口を言われた女性に、テレストも謝った方がいいかもしれない。弟子の不始末なので。


――――――――――――――――――――――――――――――

関連話*131「ヴィクトルはアタシの孫よ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653011554221/episodes/16817330653124451788


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