131 ヴィクトルはアタシの孫よ
六人パーティは巨大マンティス…大カマキリの群れに囲まれており、善戦はしていたものの、足を取られるのと怪我した仲間を庇っていて思うように動けてない。
混戦になっているので助けるにも段階が必要だ。
アルは五、六匹ごとに集まっている巨大マンティスをそれぞれ結界で包み、エアカッターで切り刻み、左腕と右足を切り飛ばされて動けない男の側に行き、その周囲を結界で包んだ。
仲間が側に置いたらしく、砂にまみれてはいても手足はあったので、クリーンと浄化をかけ、身体側も同じ処理をして軽く止血程度にヒールしてから、向きに気を付け回復魔法で繋ぐ。
最初は右足、続いて左腕を。
……よし、何とか間に合った。血が足りなくて失神しているが、これだけ高ステータスの剣士ならしばらくすると気が付くだろう。
後は頑張れ、で分断するのに難しい巨大マンティスは冒険者たちに任せたが、後衛職の魔法使いと女の弓師が大苦戦。
防御力アップ、素早さアップのアイテムか何か装備しているので何とか避けてる感じだ。魔法使いは魔力がもうあまりないのか。
更に転がって来るローリングサンドワームが現れ、槍使いと女のメイス使いとハルバート使いも大わらわ、疲れもあるのか、決定打を与えられず、混戦から全然脱出してなかった。
アルはまず魔法使いと女の弓師を怪我した剣士の側に影転移で移動させると、巨大マンティスを斬り捨て、続いてローリングサンドワームの上に跳躍し、こちらは魔力を通したミスリル刀で細切れに斬り刻んだ。
再生能力を懸念して念を入れたワケだが、ほとんど瞬殺だった。まぁ、念を入れるのはいいことだろう。
『さすがマスター!とてもとても強くてすごいです!』
言った通りに隠れていたキーコバタが出て来て、興奮したようにそう褒めた。
…大分、感情が出て来たらしい。
念話なのでアル以外には聞こえないし、まだ隠蔽も解いてない。アルの優秀な探知魔法なら分かるだけで。
『はいはい、ありがとな。キーコバタはまだ隠れてろ』
アルも念話通話で返すと、【チェンジ】でグレーのドラゴンローブ(防御力+20)を羽織り、フードもかぶってから、隠蔽を解いた。
色付きゴーグルをしているので顔は見えない。【ボイスチェンジャー】で声も適当に変える。
「大変だったな。通りすがったんで手出しさせてもらった。乗り物が壊れたのか?」
ゴーカートっぽいが、車輪がなく屋根もない乗り物が二台。
人数からして二人乗りなのに無理矢理三人乗っているようだ。
一台、何かにぶつかったらしく、前が凹んでいる。
「あ、ああ」
「助けてくれて有難う。もうダメかと思った」
「本当に有り難う。君、ものすごく強いな!おれは…」
「名乗らなくていい。こちらも名乗らない。礼替わりにその乗り物を見せてくれ。錬金術が使えるし、魔道具も作るから直せるかもしれない」
「それは願ってもないけど…ここ、全然安全じゃないんだけど…」
「大丈夫よ!あの人、結界魔法まで使えるんだもの」
いまだに結界に保護している女の弓師、ではなく、男の魔法使いがそう言った。
…オネエか。この世界でもたまにいるよな、とアルは遠い目をしたくなった。
「ああ。乗り物の側を結界で囲う。お前たちも一緒に囲うから、休憩でもしたらどうだ」
「それは有り難い!」
「世話になってばかりで申し訳ないな」
「お礼はいらないって言わないでよね。これでもアタシ、Sランクなんだから色々とレアアイテム持ちよ。助けられといて情けないけど」
「いや、それはおれたちがテレストに負担かけてたからで」
「ドラゴニュートのSランク?…だな」
よく見れば、魔法使いは瞳孔が縦長。
服で分かり難いが、首筋は鱗っぽい所もある。
同じドラゴニュートのヴィクトルのようにもっとゴツイかと思っていたが、すらりと細身だった。青い髪を襟元でシャレた金具を使ってくくっており、さぞかし女に騒がれてるだろう整った容姿だ。
…いや、オネエだとどうなんだろう。
「よくご存知で。アタシはテレスト。ドラゴニュートの魔法使いよ。あなたは最近Sランクになったって人かしら?」
「まさか。人違いだ。それより、Aランクのヴィクトルの親族か?雰囲気が少し似てる」
「…ここでヴィクトルの名前を聞くなんて。縁ってあるのかしらね。ヴィクトルはアタシの孫よ」
ステータスを見ると、テレストは324歳か。
孫どころか
長命種は繁殖力が弱い。
だから、Sランクの話を聞いた時、ヴィクトルとも関係あるかと思っていたが、もっと近い親族だった。
「そうなのか。それはともかく、乗り物の側に移動してくれ。剣士の男はまだ動かさない方がいいから、おれが運ぶ」
影転移で剣士の男を乗り物の側に移動させた。熱い砂の上だとヤケドするので、氷魔法で冷やしてから簡易長椅子を土魔法で作って、その上に。
「…呼吸より簡単に影魔法と土魔法を使いこなしておいて、Sランクじゃないって…」
氷魔法は気付かなかったらしい。
「普段は隠してるんだろ。…有り難う」
メイス使いがそう言いながら、剣士の男にマントをかぶせた。
どれもまったく隠してないので、アルは内心苦笑する。
六人全員が乗り物の側に揃った所で結界を張り直した。ドーム型で下側も結界がある空気は通る密閉タイプだ。防音・防臭も追加しておく。断熱にはしない。
『キーコバタ。こっちはいいから、4階に下りる階段を探してくれ』
『かしこまりました!』
暇だったのか、キーコバタは隠蔽したまま張り切って出かけて行った。
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関連話*「番外編11 Sランクオネエの弟子の末路」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659538923368
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