130 面白い。気配遮断も使える小鳥か。

 2階は何の変哲もない草原、と見せて地底国…いや、地底遺跡だった。

 崩れた建物が多い。

 草原は網目のように穴が空いており、人が通れる所があれば、通れない所もある。

 草原網目の厚さは10mぐらいあって分厚いので崩れて落ちることはなさそうだが、ロープを結ぼうにも引っ掛ける所がなく、頭だけ出して覗いてみる、ということは無理だった。…飛べないのなら。


 アルはするりと穴を抜けて草原の真下に行くと、いきなり、何もなかった所から現れた小鳥に囲まれた。

 いや、囲まれそうになった所で全部斬り刻んだ。

 探知魔法にもひっかからなかったが、元々危機察知能力は高いし、カンもいい。

 面白い。気配遮断も使える小鳥か。


 アルは久々に歯応えある魔物に思わず笑う。

 結界の足場に乗り、目に魔力を集め、視力強化すると、それでもうっすらと地上から下の遺跡に下りる階段が見えた。

 一応、あれが正規ルートらしい。


 息つく暇なく、今度はムササビのような魔物たちが滑空して…いや、普通に飛んで来た。魔物だからだろう。

 簡易結界足場を次々と展開しながら、斬り捨てて行く。

 背後からは翼の生えた猿。

 鎧を着け槍と盾を持っている。ここでも人間のマネか。

 魔物なら独自の攻撃の方が強いのに、と残念に思いながら、やはり、斬り払い斬り捨てる。


 アルが空間収納レベルを上げていなければ、ドロップ品を落としまくりだっただろう。

 もう勝手に収納してくれる成長具合だった。


 飛ぶのではなく、ピンボールのように簡易結界足場を蹴って、急角度に曲がったり戻ったり、ジグザグ移動したりと、かなりの不規則さで邪魔な魔物は斬り捨てながら移動する。

 このフロアも広い。


 そこそこ魔物を片付けた所で面倒になったアルは騎竜を出し、即座に隠蔽モードにしてから乗り込んで飛ぶ。

 カンのいい魔物が気付いても速さで騎竜には適わない。


 飛び回っていると、やっと3階に下りる階段発見。

 近寄れば遺跡が邪魔で見えなくなっていたので、中々気付かなかった。

 広過ぎる程、広い。どうやら、一フロアが普通のダンジョンの三フロア分ぐらいあるらしい。


 ******


 3階は砂漠フロアだった。強い日差しが突き刺さる。

 アルは少し覗いただけで階段に退避した。

 休憩しようと思っていたのに、あの暑さの中ではイヤだ。こんな時は快適なディメンションハウスに行く。


 少しだけでも暑かったので冷たいハーブティにした。ごくごく飲む。

 別に攻略しなくてもいいのだが、他の冒険者たちの乗用魔道具は気になるワケで。

  あ、そうだ。


「キーコ、キーコバタって他のダンジョンで活動出来る?」


 偵察してもらおう、である。


【可能です。ダンジョンの中なら豊富に魔力がありますから魔法も使えます。キーコバタをマスターの所へ今すぐ転移させましょうか?】


「ああ、よろし…ちょっと待て。ディメンションハウスの中なんだけど、問題なし?」


【はい。マスターの通信バングルがあるので大丈夫です】


 そういえば、転移する場合の目印になっている。


「じゃ、よろしく…と言ってる間に来たか」


【では、わたしはこれで失礼します。ダンジョン温泉宿の方、いつでも使えますので、よろしければご利用下さい】


 アルの今日の宿はまだ未定だからか、キーコはそう薦めた。


「おう、分かった。ありがとう」


 アルは王都の宿も気になるので、まだ未定で。


『マスターわたしのお仕事はなんでしょう?』


 蝶の姿のキーコバタがそう訊く。心なしかウキウキな感じで。


「フォボスダンジョンの3階で、他の冒険者が乗用魔道具を使っていたらおれに教えてくれ。かなり広い砂漠フロアで魔物も結構強いと思うけど、平気か?」


『問題ありません。マスターが転移出来るよう通信バングルを一つお貸し下さい』


「って、蝶の姿で持て…持つ必要ねぇのか。使う時に空間収納から出すから」


 はい、とアルが通信バングルの一つを出して、キーコバタに渡すとすぐ消えた。


『おっしゃる通りです。マスター、役目を果たすためにここから出して下さい』


「じゃ、よろしくな」


『お任せ下さい』


 ディメンションハウスからキーコバタだけ出してやり、砂漠フロアへと送り出した。

 アルは再びディメンションハウスの中に戻り、お茶の続きをする。


 砂漠には『少し涼しい服』は外せないとして、眩しいのでサングラスゴーグルを作ろうか。

 熱中症にならないよう帽子。経口補水液も念のため用意して、すぐ飲める飲み物も増やしておくか。砂塵よけのマントは…動き難いのがなぁ。結界で済ますか。


 攻略しなくていい、と思いつつ、用意を整えて行く自分にアルは笑うしかない。

 何だかんだ言っても冒険したい、冒険者なワケだ。


 さて、行くか、とちゃんと準備を整えたアルは、ディメンションハウスから出て砂漠へ。

 騎竜を出して乗り込み隠蔽をかけ、あまりに熱いのでアリョーシャダンジョンでも使った断熱結界を張った。

 自分を包むように移動しても貼り付いてる結界は、ずっと魔力がいるので普通の結界より魔力が必要だが、豊富な魔力量を持つアルだとささやかな量だ。

 これで砂漠でも快適に移動出来る。


 隠蔽をかけているのでカンのいい魔物しか襲って来ないので、大物は降下して倒して行った。

 ドロップは魔石以外はマジックアイテムが多い。称号持ちのアルだからそこそこのマジックアイテムをドロップするが、一般的な冒険者だと全然出ないことだろう。

 過酷な環境なのに中々厳しいダンジョンだ。


 しばらく、騎竜で砂漠を進んでいると、キーコバタから連絡が入った。


【マスター、乗用魔道具を使っている、使っていた冒険者たちを発見しました。冒険者たちは六人パーティ。男四人女二人。現在、魔物と交戦中ですが、男が一人死にそうです。助けた方がいいでしょうか?】


「いや、キーコバタは隠れてろ。おれが行く」


 バレてマズイのはキーコバタの方だ。

 アルは隠蔽をかけたまま、キーコバタの側に転移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る