第9章・王都フォボス

129 面倒みねぇとさすがに死ぬのでは?

 翌日朝、トモスの街の宿をチェックアウトしたアルは、隠蔽した騎竜でラーヤナ国の王都フォボスに行き、フォボスの冒険者ギルドで高額素材を売り払った。

 高ランク冒険者が多いし、高額素材が集まって来るので大して目立たないか、の判断だが、正解だった。


 それなら放置しまくりだった、飛竜の槍、三日月の短弓、ミスリルの丸盾も売って来ようか。

 商業ギルドでいいのかな?オークションがどうの、とキエンの商業ギルドのトリノが言っていた。

 …あ、思い出した。Aランク冒険者のラーサクが「スゲーもん」と言ってたような……。


 そういえば、三日月の短弓とミスリルの丸盾はアリョーシャダンジョンのダンジョンボスドロップだ。

 使わないアルにとっては価値が暴落しているだけで。何かに利用出来ないか、後でキーコに訊いてみよう。

 飛竜の槍ぐらいなら大丈夫だろうが、どうせならキエンの街のトリノに頼もうか。余計なことを訊いて来ないし。


 しかし、こうもフットワーク軽く動いていると、いずれおかしく思う奴が出て来るだろう。気を付けねば。

 やはり、飛竜の槍はしばらく放置だ。


 王都フォボスは、その王都の中にあり、攻略されている地下型ダンジョンがある。

 ダンジョンは定期的に間引かないとダンジョン内の魔物が外に溢れてしまうものなので、その対策にダンジョンは出入口に砦を作って囲み、ダンジョンへの出入りも規制されていた。


 出入りの規制はダンジョンの出入口を守る警備隊を守るためと、低ランク冒険者には手に余るダンジョンだからだ。

 1階Cランク魔物、2階はCランクからBランク魔物、となっているので、冒険者はCランク以上が入れる。

 階層は10階までだが、1階層がかなり広く、全部、フィールドタイプだった。中級~上級向けダンジョンである。


 1階は荒野フロアだった。

 馬やトカゲ系騎獣を持ち込む冒険者もいる程広いが、魔物のレベルがCランクのため、怖がってしまい役立たずになってしまうことも多い。

 1階でこうなので、2階以降も馬が走れるような道があっても持ち込むに持ち込めなかった。

 …乗用魔道具以外は。


 …ということで、冒険者ギルドで結構、乗用魔道具が持ち込まれると聞いたアルは、少し覗いてみることにしたのだ。

 予定外なので予習なしで。


 荒野なのであるのはサボテンもどきと枯れ木程度。

 緩やかな丘や山になっているので、見通しが良過ぎるということはない。障害物がないと連携の本領発揮であり、集団は暴力だった。


 パンチングガルーラ…カンガルーの魔物で、移動速度がかなり速い。一瞬でトップスピードに乗るので油断大敵だ。

 …とアルは首をねた後で知った。

 他の冒険者がガルーに殴られてふっと飛ばされたことで。


 通称『天狗てんぐ鼻折はなおりダンジョン』。

 思い上がった冒険者の大半がプライドを木っ端微塵にされるらしい。

 その程度で大半が生き残っているのは、Cランクになれば、ステータスが高いので中々致命傷は負わない。ふっ飛ばされた冒険者もポーションですぐ復活していた。


 ガルーの群れに遭遇したので、居合わせた他の冒険者たちと共に逃げ道を切り開く…だったらよかったが、アル一人で殲滅した。

 他の冒険者たちの動きが遅過ぎたのだ。

 三つのパーティがいたのに。

 同じCランクとは言っても、昇格試験がギルドによってバラバラとなると、やはり実力も様々らしい。


「あんたら、引き返した方がいいんじゃね?まだ1階だぞ」


 まずはどんな魔物が出て来るのか歩いて、とアルは歩いていたのだが、そこそこ倒したらバイクに乗るつもりだ。

 この程度も倒せない他の冒険者に移動手段があるとは思えない。


「…分かってる」


「分かってねぇな。…油断してるじゃねぇか」


 アルは一刀のもとに首をねたが、男はランボリングイーグルが突っ込んで来るのに、まったく反応出来てなかった。

 このランボリングイーグル、遊撃が好きな魔物で突然襲って来るのだ、とアルはこれも後で知った。


 さすがに無理だと判断した男、他の冒険者たちだが、退却するにも、モグラの魔物が襲って来て、足を取られ、ミラージュスネークが保護色を解いて絡みつき、アサルトボアが突撃して来る。


(これ、面倒みねぇとさすがに死ぬのでは?)


 アルはしょうがなく、魔物を斬り捨てて回り、力不足の冒険者たちはまとめて影転移で出入口まで送ってやった。やれやれ。


 1階でも結構いいドロップ品…ガルーポケット(ポケット型の小さいマジックバッグ)、防御力アップや素早さアップのマジックアイテム、が出るからこそ、勇んでチャレンジするのだろうが、力不足にも程があった。

 当然、ドロップ率は低いが、10匹に一つは出る感じなのでまぁまぁ…いや、アルは称号でレアドロップ率はバカ高いんだった。まぁ、途方もない数を狩らないと出ないワケではない、ということだ。


 アルと三つのパーティの集団だったので魔物側も見付け易く、波状攻撃で襲って来ていたが、アル一人となると、そこまで多くは襲って来ない。本能で敵に回すとヤバイ、と分かったのかもしれない。


 本当にかなり広いフロアで、アルがバイクに乗って走り回っても、2階へ続く階段が探知に引っかからなかった。

 レベルが上がったことでかなり広い探知範囲になっているにも関わらず、だ。

 20km四方以上あるかもしれない。


 バイクで走る途中、人の気配を捉えて近寄ると、乗用魔道具を使っていた。

 しかし、形はバナナボート…で、深緑色のバナナ型のトカゲ革の中に空気を入れて膨らませて上に乗る仕様で三人乗り。

 推進力は風の魔道具で後方に外付け。50cmぐらい浮いてるので浮遊の魔法陣もどっかにある感じだ。

 これは絶対、過去の異世界人の仕業しわざだろう。


 しかも、このバナナボートモドキ、真っ直ぐに飛ぶだけで、大して速くない。曲がりたければ、乗員が足で蹴ったり魔法を使ったりで、その都合でスピードを出せないのかもしれないが、スピード調節出来るようなものが見当たらないような……思念運転だろうか……それならば、最先端だ。

 こんなのでも、ものすごく高額なんだろうな…と思うと、アルはかなりせつない。


 しかも、三人共戦闘力が割と高い所からしてBランクだろう。

 アルのバイクが『アルにしか作れない』と鑑定様に断言されていた理由が改めてよく分かった。こういった乗用魔道具作製技術はあまり高くないらしい。


 探知範囲に階段が入ったので、アルはその辺の魔物たちを斬り捨てつつ、スピードを上げた。

 隠蔽魔法はかけてなかったが、別に見られても問題ない。


 2階へ続く階段は雨風よけの屋根が付いていたので、分かり易かった。階段幅も天井もかなり広い。

 馬や騎獣を持ち込む場合やマジックバッグがないのに乗り物がある場合を想定しているのかもしれない。

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