132 罰ゲーム中?
六人パーティたちが日除けの天幕を出し、その下にテーブルセットを出して食事をしてる間、アルは乗用魔道具を両方見ていた。
メンテナンス用にかボンネットのように開くので、内部構造がすぐ見れる。
かなり簡単な作りだったが、それでもポイントや魔力の流れ方が悪かった。無駄が多い魔法陣を使っているので、消して描き直すだけでも燃費効率からして違って来るのだが、まぁ、そこまではしない。
凹んだボディぐらいは錬成ですぐ直る。
内部の部品もそのままあるので、替えるのは劣化しているAランク魔石ぐらいだ。少し加工して無理矢理簡易魔力タンクとして使っているので、既にボロボロだった。
…ああ、テレストの魔力は一般平均からすれば倍以上あるのに、かなり減っているのはこの魔道具を動かしていたせいか。
一般平均は100を越えるのが魔力が多い基準で、テレストは348だった。
まぁ、魔力を溜めるオーブかマジックアイテムも使っていたのだろうが、ダンジョンでこの乗用魔道具を頼りにするのは結構無謀だ。
しかも、定員オーバーで。
Aランク魔石を取り替えたら動くようにはしたが……。
「乗り物は直したけど、Aランク魔石と魔力がないんじゃ動かせねぇだろ。これからどうするつもりだ?」
「…直したって簡単に言ってくれたな。何か複雑なメンテナンスが必要だとかで、いつも点検に出すと一ヶ月はかかるのに」
「はっきり言うぞ。ぼったくられてる。内部は何もしてねぇ。掃除や塗装を直してるだけだな。しかも、そんな直し跡が分かる程雑」
「あんたはそう言えるだけの技術を持ってるってこと?何か証拠でもあるの?適当なこと言ってるんなら承知しないわ…」
アルの技術など凹んだ乗用魔道具をあっさり直したことで十分だろうに。
騙されていたと思いたくないらしく、弓師の女が上から目線で尖った言い方する。
それと、Aランクパーティとしてのプライドか年上としての矜持か何かか。助けられておいて、今も結界で守られているにも関わらず。
あ、こら!とリーダーらしきハルバート使いの男がたしなめる前に、アルの空気弾が、弓師の女の額にヒットして椅子からひっくり返る。
女の5cm前の空気を使ったので十分手加減してあるのだが、防御力が低いらしく、それだけで気を失う。
「自分たちの立場をわきまえろ。ここに閉じ込めたまま干からびさせてもいいんだぞ。おれが介入する前に戻るだけだ」
「申し訳ない!これだけ世話になってるのに、恩をアダで返すようなマネをしてしまって!」
言われた意味が分からない、何が起こったのか?という仲間を差し置いて、真っ先に反応したのはテレストだった。
慌てて椅子から立ち上がって頭を下げる。
オネエ言葉じゃなくても話せるらしい。…当たり前か。
「なぁ、テレスト。何かの罰ゲームの最中なのか?Sランクがいるパーティにしてはお粗末過ぎる。あんた以外の実力はBランクもなさそうなのに、このダンジョンにいる理由は他に考えられねぇ」
権力でどうこう出来ないのがSランクだ。
依頼なら絶対に引き受けない案件だろう。指導教官としての依頼でも、このダンジョンである必要はないし、指導しているようでもなかった。
「なっ!罰ゲームって、そんなっ!テレストの足引っ張ってる自覚ぐらいはあるけど、そこまでじゃ…」
槍使いも立ち上がって反論しようとしたが、
「現状見ろよ」
とアルは言葉をぶった切った。
「アタ…わたしの見込みが甘かったのよ。何を言われても一人で来ればよかったわ。5階のイレギュラーボスがエリクサーをドロップするって聞いて、いてもたってもいられなくて。
…友達の息子が原因不明の病気でね。わたしも可愛がってたんだけど、もう先が長くない程、痩せちゃって。…それで仲間を殺しちゃったら意味ないのにね」
『パーティなんだから一緒に行く!』と言われたのか。
断れば、ギクシャクしてやがてパーティ解散、断らなくてもメンバーが減って解散、となっていただろう。
死なないだけ、前者の方がマシだが、正常な判断力を失っていた。
アルは【チェンジ】で手に小瓶を出した。
「これが何か分かるか?おれとのアイテム交換でヴィクトルが出したものだ」
「ま…まさか…」
「エリクサーだ。レアアイテムと交換してやってもいい。…ああ、あの乗用魔道具はなしだ。素材としても使えねぇから」
「是非とも交換して!交換して下さい!何がいいの?マジックテント?魔導船?特殊効果付きの武器や防具、杖、アクセサリもあるわよ!どれにする?」
「魔導船ってどういったものだ?」
ボートかクルーザーか客船か。
「ちょっとここに出せないぐらい大きいわ。長さは10mぐらい。魔力消費が大き過ぎて使えないし、売れないから持ってたんだけど、壊れてはいないと思うわ」
「結界を広げるから出してくれ」
アルは結界をかなり広く張り直した。
テレストは年の功で、大容量のマジックバッグを持ってるのかと思ったら違った。
…いや、乗用魔道具二台をしまったからその予想は外れてないだろうが、マジックバックから出したのは、船ではなく、ゴルフボールぐらいの透明感のある青の珠だったのだ!
「この中よ。専用のマジックバッグみたいなものね」
テレストは躊躇いなく、アルに珠を渡した。珠をよく見れば、ミニチュアの船が入っていた。
…ああ、これも【チェンジ】で出せる。
アルは広い所に出した。
どう見てもクルーザーだ。
帆はなく船室があり、中に入れるようになっている。
狭めの1LDKといった所だが、家具は何も置かれていない。
いや、船なので固定するものじゃないとダメか。
降下式トイレはあってもシャワールームはない。操舵室はさほど広くないが、角の生えた車輪のような操舵があった。
確かに、魔力はかなり必要だろうが、バイク程でもない。
浮遊魔力も集める魔力貯蔵タンクを載せ、もっと効率的な仕組みに変えれば、テレストでも乗れるようになるだろう。
こんなに楽しいおもちゃ、もう返さないが。
称号【知的探究者・レアアイテムに遭遇し易くなる】がまたしてもいい仕事をしてくれたようだ
操作と動力源と仕組みは違うだけで、外観はまったくもって異世界のクルーザーそのままだ。異世界人の仕業だろう。
「どうやって手に入れた?」
クルーザーを珠に収納してから、アルは訊いてみた。
「お礼にって押し付けられたのよ。知り合いのドワーフに。あっちも持て余してたみたいで。これでいいの?」
「これがいい。交換だ」
エリクサーの小瓶を再び出して渡す。
本当にヴィクトルが出したものだ。
一昨日、瀕死のパーティに使ったのはアルが作ったエリクサーで、効果が見たかったこともあった。
鑑定様は信用しているが、自分の作った物、という所でイマイチ自信が、なワケで。
「後から文句言わないでよ」
「言うワケがない。プライベートビーチ持ちだ」
「…はぁ?」
通じなかったか。まぁいい。
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