番外編17 アシデー・マ=トーイ見参!

注*ノリタイトルなだけで、ちゃんと「快適生活の追求者」の番外編です!

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 わたくし…わたしはアシデー・マ=トーイ。

 サラサラ金髪に紫の目で、超可愛くて美人な女の子よ。

 スタイルだって自信があるけど、ちょっと胸が大き過ぎるのが悩み。

 肩凝りが酷いのよ。まだピチピチの十五歳なのに、年寄り臭いったら!


 まぁ、そんなのはどうでも…よくはないけれど、今はさておき、よ。


 わたし、冒険者に成り立てなの。

 栄光あるマ=トーイ家、らしいけど、結構、没落しててね。

 家族にも恵まれなくて売られそうになった所を、魔法を使って何とか逃げて、でも、そこまでだわ。

 手持ちのお金も淋しいし、稼がないとね!


 冒険者なんてやったことないけど、まずは薬草採取をするのが定番なんだって。虫がいるから嫌なのだけれど、生きて行くためには仕方ないことだわ。

 え、虫どころじゃなく、魔物がいるの?街のすぐ側の森でも?そうなの?

 じゃ、誰かに護衛…って、そんな雇うお金があったら冒険者になってないわ。

 それなら、パーティ組むのが普通なの?

 あら、わたしを入れてくれるのね。

 有難う。優しいのね。



 へぇ、男三人のパーティなの。Dランク二人にEランク一人で剣士、剣士、槍使いで魔法使いが欲しかったのね。

 物理攻撃が効かない魔物がいるから?そうなの。

 でも、わたし、使える魔法って火と風、それから生活魔法のウォーターよりちょっとだけ多く水が出せる水魔法程度よ?

 すごい?え、そうなの?人と比べたことがないから分からないわ。ほぼ独学だもの。


 それで、三人と街の外に出て森へと向かったんだけど、歩くの早いのよ!こっちは女の子なんだからもうちょっと配慮して!

 え、冒険者なんだからもっと鍛えろ?

 成り立ての冒険者なのよ!これからなのよ!


 ゼイゼイ…と息を切らして何とか森に到着したわ。

 え、休まないの?わたし、まだ息も整ってないんだけど……。

 きゃっ!ちょっと何する……痛っ!いやっ、やめて!やめてよ!

 わたしの豊満な胸をいきなり掴んで来るなんて酷いわ!


 は?ズルイ?違うわよ!何、言ってるの!

 仲間なら仲間の暴挙を止めなさいよ!

 あ、こら、服を脱がそうとしないで!

 薬草採取に来たのに、何でこんな…え、駆け出しは先輩冒険者の言うことを利かないとならないの?そうなの?


 ……って、騙されないわよ!うそつきっ!

 女の子は大事にしなさいって教わってないの?

 あ、いやっ!もう、やめてっ!触らないでっ!


 エスカレートするばかりだったから、腕に身体強化をかけて力を強くして、男たちの手を振り払ったわ。

 言わなかったけど、このぐらい出来るのよ!


 え、言うこと利かないと、薬草採取の仕方を教えてくれない?

 いいわよ。他の人に聞くから。

 ちょうど息が整ったから、わたしは街へと引き返したわ。三人も追いかけて来るけど、追い付けるワケがないわ。

 だって、わたし、足に身体強化をかけて風魔法も使ってるから、すごく速く走っているの。魔力がもったいないから、行きは使わなかったんだけどね。


 さすがに街の防壁門に到着した時には息が切れてたけど、三人は途中で諦めて森に引き返したみたい。

 もちろん、無罪放免になんてしないわよ。


 息を整えてから警備兵に「身体を触られて無体なことをされそうになった」と訴えて、冒険者ギルドに行って受付嬢にも訴えたわ。

 この程度じゃ罪を問うことは出来ないけど、マークはされるし、噂にもなるからね。

 他に被害が出ないようにしないと!


 わたしはおっとりしてるように見えるみたいだけど、伊達に性悪家族たちと十何年も暮らしてないから、なのよ!


 でも、受付嬢に説教されちゃったわ。若くて可愛い女の子なのに、警戒心も危機感も足りないって。

 あら、可愛いなんて照れちゃうわ。

 でも、下級も下級だったけど、これでも一応、かろうじて貴族令嬢だったからね…市井のことにも平民についてもうといのよ。

 異性でも同性でも簡単に信用して付いて行っちゃダメなのね。反省するわ。


 あら?街中の依頼もあるの?わたしはそちらの方から始めた方がいい?

 そうなのね。そちらの方がいいような気がするわ。でも、早く教えて欲しかった。

 え?魔法使いなら欲しがってるパーティがたくさんあるし、雑用依頼はしたがらない人が多いから、って?

 わたしはそんなこと…ないとは言わないけど、冒険者って下積みも必要なんでしょ。

 頑張るわ。

 そして、少しずつでも体力を付けるのよ!


 ******


 そうして、街中の仕事依頼を受け始めたのだけれど、冒険者ギルドの雑用の仕事もあって大変だったわ!

 何が大変かって大量の本を運ぶ仕事だったのよ!

 マジックバッグを持っている冒険者ならすぐ終わるけど、こんな雑用依頼なんて受けてくれないから、わたしのような駆け出しがやるのよね。


 その仕事、つい最近、没落したそうな元領主の屋敷にあった全部の本を台車に乗せて、冒険者ギルドの倉庫へ運ぶ仕事だったわ。

 どうしてかしら?いらない本を売るのなら、本屋よね?本屋に頼まれたのかしら。これだけ多いと本屋の倉庫に入り切らないでしょうし。

 わたし一人で作業したわけではないけれど、十人で受けても何回か往復しないとならなかったわ。本だから雑に積んではダメなのよ。傷んでしまうからね。

 ああ、しみじみと身体強化が使えてよかったわ。


 それにしても、元領主、趣味の悪いこと!

 低俗な男向け大衆小説絵画集もあれば、流行りの小説もあり、お堅い経済や経営の本もある。妙に真新しいから最後のは絶対に読んでないわ!没落して当然なのもよく分かるわね!


 あら、ナンクセ付けて騎士に連行された冒険者が元領主を断罪したの?

 へぇ、すごいわね。それで、この本が慰謝料だと。

 …慰謝料?普通は金銭ではないの?取れる金銭がなかったとか?

 元領主は横領していただけでなく、元領主の身勝手な振る舞いのせいで被害者が多数いたので、その賠償や慰謝料や迷惑料で完全にマイナスだと。

 まぁ、大変ねぇ。


 あらあら?でも、元領主を断罪した人への慰謝料が本だけなの?

 売ればそれなりにはなるとはいえ、少なくありません?羊皮紙製だったり、手書きだったりするお高い本より、紙に印刷された大量生産出来る安い本の方が多いのに。

 まぁ、安いと言っても平民には中々手が出ないお値段だけどね!


 え?元領主を断罪した功労者が希望したの?

 では、文字の勉強がしたいのかしら。冒険者って文字の読み書き、出来ない人も結構いるものね。

 ……え、みなさん、どうして笑ってるの?


 あら、まぁ、乗用魔道具を作れる錬金術師なの……。読み書きどころの話じゃなかったわね……。

 でも、冒険者ではなかったの?

 冒険者だけど、錬金術師でもある…って、錬金術師やってた方が儲かりません?え、そんなことない?

 ダンジョンの下層にソロで潜れる程、強い、のですか……。

 はぁ、想像も付きませんねぇ。

 いかにも強そうに筋肉ムッキムキの冒険者だったりするのかしら?

 …あら、でも、錬金術師のイメージではないわね。


 ……何か、更に笑われているのだけれど?

 まったく予想は外れてるというだけで、そんなに笑えるもの?

 あまりに正反対だったから?

 本当に強い冒険者はそこまでムッキムキの筋肉じゃない、と。

 へぇ、そうなの。勉強になったわ。


 ******


 そんな話を聞いてしばらく経った後、ようやく、本を引き取りに来た人がいたの。

 わたしはちょうど冒険者ギルドのカウンターの中で、事務の雑用を手伝っていた時だったわ。

 ええっと、強い冒険者で元領主も断罪した人、よね?

 あまりにイメージと違ってて、呆然としちゃったわ。

 十五歳のわたしと変わらないぐらいの少年なんだもの!

 茶髪で茶目、背も高くないわ。高めの女の子と並ぶぐらい、男としては低い方よね……。

 顔立ちは正直、普通過ぎて、次に会ったら分からないかも。

 えー?本当に強いの?


 …そんなことを思った自分を後で殴りたいと思ったわ。

 まったくの無詠唱で氷のサーベルタイガーを作り、食べられる氷になるようギルドマスターにやり方を見せ、氷細工がどんどん透明になったの。これもまた無詠唱。

 そして、極めつけ。

 何故か、紙カップをカウンターにたくさん並べたかと思うと、氷細工がふわふわ氷のかき氷になって、それぞれの紙カップに入ったの! 

 そして、赤いシロップを氷にかけると、紙みたいなストロースプーンをかき氷に刺して配ってくれたわ!


 こ、この人、本当に『こおりやさん』の人じゃないのっ!

 お隣のラーヤナ国王都で一気に話題になった、自動販売魔道具でかき氷を販売した人!


 魔法の中でも難しいと言われる氷魔法を、繊細な魔力操作で呼吸するより簡単に氷像を作り、かき氷まで作れるなんて!

 震えが止まらなかったわ。

 頂いたかき氷を食べて身体が冷えたから、じゃなくて!

 生きて大魔導師に会える、なんて誰も思わないでしょう!?


 ものすごく強い……。

 それはもう歴史上の勇者や賢者なんか、比較に出すのもおこがましいぐらいに。

 あれね。スライムとドラゴンを比べるようなものよ。桁が違う。

 間近で見たことで肌で思い知ったわ。


 ……というか、この方、見た目通りの年じゃないわよね?

 魔力と身体が合ってないというか……!?

 ただの感覚だから間違ってるかもしれないけど、違和感?


 よく見れば、受付嬢たちの好感度もかなり高いみたいで、大魔導師様と話してる時、何か嬉しそう。

 まぁ、滅多に食べられないかき氷を、居合わせたってだけで初対面のわたしや他の人達にも奢ってくれたんだもの。前から似たような交流があったってことよね。


 アル様っていう名前なの。……これも偽名よね?


 何か不思議な人だわ……。

 そう思ってると、アル様、スタスタとこちらに来る!

 え、どうしよう?わたし、何かしちゃった?……そんなワケがないわよね?

 周囲を見てもわたしが目的っぽい。

 何でしょう?あ、わたしが可愛いから食事でも、って?

 いや~ん、困るわぁ~。

 そんなに軽くはないのよ、わたし。


「君、変な名前のせいで大変だな。改名もすぐ出来ると思うから腐らず頑張れ」


 ……はい?


「……あの、何のことでしょうか?変ですか?わたしの名前」


 アシデー・マ=トーイっておかしな名前だったの?誰にも言われたことなかったし、わたしもおかしいとは思ってもなかったわ……。

 って、名乗ってもないのに、何故、わたしの名前を?


「ああ、ごめん。おれ、鑑定スキル持ちなんで自然と目に付いたっつーか。…って、おれだけが変だと思ってる?地域性?」


 アル様は周囲の反応が呆然だったのに気付き、ギルドマスターに確認を取りに行った。

 ……ああ、なるほど。違う地域から来た人だと変な名前に思えることってあるわよね。発音で違う単語に聞こえることもあるし。


 父はムナーゲ・マ=トーイ、母はツッキー・マ=トーイ、兄はムーダニーク・マ=トーイなんだけど、こちらもおかしいのかしら?




注*アルの【多言語理解】がしてました。

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関連話*「244 名乗りもしなかったのか、あいつ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653011554221/episodes/16817330653389781221


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