244 名乗りもしなかったのか、あいつ

 次は冒険者ギルド。

 依頼を受けに、ではなく、届いているハズの前領主から慰謝料替わりに没収した書物を受け取りに、だ。

 

 半端な時間なので受付も空いており、すぐ受け付けてくれたが、倉庫に案内された。予想以上に書物があった。見栄張り過ぎだろう。

 一冊ずつ入れるのも面倒なので、一回で空間収納に入れた。空間収納だと整頓も一瞬だ。

 いかにも読んでません、とばかりにジャンルバラバラ、ロクに開いたことすらなさそうな新品同様の本ばかりだった。

 読み物から政治経済、魔法や農学の研究書、と147冊もあった。


 受付に戻って書類に受領サインをし、保管料は金貨1枚でいい、とのことだったが、結構な場所を占領していたのでアルは金貨2枚払う。

 今後も何かあったらよろしく、という意味も込めて。


「それで、別件でしょうがねぇからギルマス呼んでくれる?」


「何故、そうも嫌そうなんですか?呼んでいいんです?」


「呼んでいい。ランクアップってうるせぇから」


「上げたくない人って割と多いですよねぇ」


 受付職員としてはどうでもいいらしく、感想を述べながら、ギルマスを呼びに奥の部屋へ行こうとした受付職員だったが、それは無駄になった。

 ギルマス…リックが二階から降りて顔を出したので。


「…って、アルっ!お前、何でこんな所にいるんだ!」


「いて悪いような言い草だし~」


「パラゴから王都に行ったハズだろ。何でこっちにいるんだ?」


「王都に行ってから、こっちに来ただけだって。ヤケに詳しい…あ、パラゴのギルマスが友達とか言ってたっけな。たっかい魔石を消費して一冒険者の動向を探ってどうするんだか」


「商人として動いてるクセに何言ってるんだ」


「余計に悪くね?一介の商人の動向を探る冒険者ギルドのギルドマスターって。しかも、依頼にはまったく関係ねぇし、打診もしてねぇ段階で。緊急性もまったくねぇし、私用通話ってことじゃねぇか」


「はいはい。ああ言えばこう言うし。相変わらずだな。別にヨルドに怒ってるワケでもないのか」


「ヨルドって?」


「…名乗りもしなかったのか、あいつ。パラゴのギルマスがヨルドだ。冒険者ギルドの前に設置していた氷の魔道具を引き上げただろ。それに、ヨルドの態度が悪いせいで何か新しい食べ物も近くに設置してもらえないって、冒険者たちから散々文句言われたとさ」


「そりゃ自業自得だな。…ってことで、明日からかき氷と冷水の自動販売魔道具をギルド前に置くから、よろしく~」


「…こらこら、詳しく説明しろって」


「魔道具出すと買いたがる奴が続出するんだよ。だから、明日。営業許可も明日からだし」


「じゃ、新しい食べ物ってのは何だ?保存食らしいが」


「それはまだ商業ギルド本部から販売許可が出てねぇんだって。画期的な保存食だけど、ウチしか作れねぇこともあって。保存食の形態じゃなく、普通に作るのは別に難しくねぇから、本部はそこからお試し中」


「画期的ってどれぐらい?」


「熱湯三分で美味しい麺料理に戻るけど、封を開けなければ三年は保つ」


「…何だそのいいとこ取りは。たった三分でって誰でも?」


「もちろん。ダンたちに試食させた所を他の冒険者たちも見てたから、文句言われてるんだよ。冒険者のための保存食なんで、許可出たら冒険者ギルド内かダンジョン前で売ることになると思う。数量限定、期間限定で。氷魔法が使えねぇと作れねぇから、氷魔法覚える奴が増えるかもな」


「そう簡単に覚えられるもんじゃないだろ。食品を凍らせるんなら、少なくとも食べられる氷を作らないとダメだし」


「…ん?ギルマス、氷魔法使えるじゃねぇか。やってみろよ」


「勝手に鑑定すんな!」


「人の行動探ってる奴に言われたくねぇなぁ。実は少なかったらしい氷魔法使いだったとは。ギルマスが指導したらマジで増やせるんじゃねぇの?氷魔法使い」


「だから、そう簡単なもんじゃないって。おれは攻撃にしか使えんし」


「食べられる氷って要は不純物を取り除くだけだぜ?泥水をろ過するイメージで」


 アルは長方形のトレーを出してカウンターに置き、そこに50cmぐらいの氷のサーベルタイガーをいい感じのポーズを付けて作った。白い所が所々ある。


「これが普通に作った場合で見るからに不純物が多いだろ?ここから、ろ過をイメージすると…ほら、透明になって食べられる氷」


「……無詠唱で超高等技術を気軽に披露してくれるなよ…」


「難しく考え過ぎだって。魔法はイメージなんだから、こういったことだって出来るし」


 アルはささっと紙カップを並べると、そこにサーベルタイガーを削ってかき氷を盛った。自動販売魔道具と同じようなふわふわ氷だ。これもイメージが固まっているので簡単である。

 赤いシロップをかけてストロースプーンを刺してやれば、自動販売魔道具で作るのと同じかき氷だ。


「このぐらいは奢ってやろう。食っていいぞ」


 アルはギルド職員にも居合わせた少ない冒険者たちにも配ってやった。


「…簡単にこんなことまでやれるのはアルだけだぞ、絶対…」


 そうツッコミを入れつつ、かき氷は食べるギルマスである。


「美味しいですね、これ!もっとジャリジャリする硬い氷かと思ってました」


「ふわふわで美味しいです!有難うございます!」


「この削り具合も人それぞれ好みがあるんだけどな。すぐ溶けない程度の厚さで食感もよく。明日設置する自動販売魔道具で作るかき氷と一緒だから、気に入ったんなら明日買ってくれ。シロップは三種類あるから」


「楽しみです!」


「おいくらなんですか?」


「銅貨2枚」


「…安過ぎませんか?」


「よく言われるけど、道楽と暑いのに涼む手段があまりないことへの同情だから、採算度外視でいいんだよ。採算採れる金額だと誰も買えねぇ額になるし。ってことで、ドラゴンブレスも平気な超高価な魔道具だから強盗多発。巻き添え食わねぇよう気を付けてくれ。今の所は巻き添え怪我人ゼロだけど、おれらの対応も限界があるからな」


「…どこにツッコミを入れたらいい?」


「ツッコミ不要。じゃ、この後も予定あるからまた明日」


 アルはさっさと冒険者ギルドを出ると、警備隊詰め所に向かった。

 また強盗が出るだろうから、その際はよろしく、と頼むワケである。

 かき氷の自販を見せて食べさせてやれば、すぐ理解してくれる。

 影転移で送る、というのも実演して見せれば、すぐ了解してくれたが、ここでも何だかはしゃがれた…。

 影転移まで使える影魔法使いは、思ったよりも少ないらしい。

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