243 寒暖で曇らねぇよう工夫もしてあるのに

 アルは商業ギルドマスターのリティシアは放って置き、職員と話を詰めることにした。

 担当になる職員はビル。中々仕事が出来そうなクールガイである。

 二十代後半ぐらいか。商人のまとめ役をしていて、大きな商いの時のサポートをしたり、貴族や大商人といった権力者からの無茶な要求やクレームを対処したりする、ちょっとしたお偉いさんらしい。

 話して行くうちにビルはかなり頭がいいことが分かったので、アルはくどくど話さなくても済み、話も早かった。


 既に商業ギルド本部と国王にも了解をもらってて…という下りも、驚いてはいたが、すぐに仕事モードに戻ったので。

 決めることは全部決めて書類を作った所で、副ギルドマスターの四十前後の男がやって来た。身ごなしからして少しは鍛えている所といい、いかにも出来る男っぽい。

 既に置物になってるポンコツリティシアが何でギルマスなんだろう?面倒臭いから?…ありそうだ。


「ギルドマスターが失礼した。お初にお目にかかる。わたしは副ギルドマスターのストラーダと申します。以後、お見知りおきを」


「ああ、よろしく。『こおりやさん』店長のアルだ。Cランク冒険者でもあり錬金術師、魔道具師でもある」


 丁寧に挨拶をした後は、最終確認をし、アルはかき氷の自動販売魔道具を出した。


「これが…!」


「外観だけでも完成度が高い…何ですか、この歪みのないガラスは!」


 ストラーダがそこを指摘した。


「あ、やっと気付いてくれる人がいた。中々見ねぇのに、機能ばっかり注目されてて。寒暖で曇らねぇよう工夫もしてあるのに」


「それは素晴らしいですね!眼鏡に応用出来たら助かる人も多いでしょう。…買ってみてもいいですか?」


「もちろん、どうぞ。冷水はこちら」


 アルは冷水の自販も出す。デザインも仕様も違うが、氷の削り方も違うので。

 しばし、試食タイム。

 そういえば、お茶も出してもらってないな、と今更気が付いてみたり。まぁ、別にいいのでアルはセルフでハーブティを淹れ、氷魔法で冷たくし、氷も入れた。


「…申し訳ない。気が付きませんでした。しかし、アル様、まったくの無詠唱、息を吸うより簡単に魔法を使いますね」


 ビルが謝罪しつつ、感心した。

 無詠唱については言われ過ぎてるのでスルー。

 アルはまた渡すのを忘れていた資料を出して渡す。


「あ、これ、『時間停止のマジックバッグの作り方』な。公表すると、問い合わせも減るぞ。パラゴの街ではそうだった」


「…公表してるんですか」


「え、ちょっと大丈夫なんですか?」


 ビルは慌てるが、全然大丈夫だ。


「見りゃ分かる。この方法ではおれ以外には作れねぇ。もっと効率的なやり方があるんなら、こっちが教えて欲しいぐらいだし。その資料は複製だから好きにしていいぞ」


「…桁が違い過ぎてめまいがしますね…」


「…これ、どうやって測ったんですか?自分でステータスを見るスキルや魔法があったとしても、集中を必要とするのなら維持出来ないでしょうし」


 ストラーダはその辺りが気になったらしい。


「いや、維持は出来たぞ。おれは自分のステータスをボードで出すことが出来るし、人にも見せられるよう調整も出来るから、仲間にステータスを見て記録してもらって。ちなみに、冒険者ギルドのステータスを見る魔道具には表示されない。桁数が違い過ぎて」


 職業も称号もヤバ過ぎて見せるつもりは到底ないが。 


「…つまり、アル様はこちらの想像以上に魔力が多いということですか」


「そう。影転移を使うと、王都エレナーダからここアリョーシャの街まで五分で移動出来るぐらいにな。行ったことのない所には影転移出来ねぇのはまどろっこしいけど、かなり速い乗り物の魔道具もあるし。もちろん、その魔道具もおれの豊富な魔力があってこそ、でおれしか乗れねぇ」


「一般人にも使える乗り物の魔道具は開発しないのでしょうか?」


「魔道具では無理だな。大半の人達の魔力が低過ぎだから。魔力に頼らねぇ移動方法を考えた方がいいと思う。ワイバーンとか下級竜種とかを飼い慣らして騎竜にするとかさ。エサ代もかなりかかるだろうけど」


「…それはまったく現実的ではありませんね…食べられておしまいでしょう」


「それがそうでもねぇんだな。この近隣の国ではやってねぇけど、海越えた大陸では竜騎士っていう竜に乗る騎士がいるそうだぞ。何冊かの本に載ってたから信憑性は高いと思う」


 コアたちの情報にもあったので、本当にいるのだろう。


「…知りませんでした。そういった例があるということは、飼い慣らすことも出来るということで…」


「特殊な技術が必要なのかもしれねぇし、こっちのワイバーンや竜より気性が穏やかなのかもしれねぇぞ。ダンジョン外で竜は見たことねぇけど」


「あったら大騒ぎですよ!」


 そんな雑談も交えたが、手続きは終わったので、「明日はよろしく」とアルは商業ギルドを出た。

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