第63話 追撃戦

 第一機動艦隊の四個機動部隊のうち、米艦上機の集中攻撃にさらされた第四艦隊それに第五艦隊の損害は極めて深刻だった。

 第四艦隊は戦艦改造の「比叡」と「霧島」それに商船改造の「隼鷹」がそれぞれ二〇機前後のTBFアベンジャー雷撃機によって複数の魚雷をその横腹に撃ち込まれた。

 防御力の低い「隼鷹」はそれこそあっという間に波間に没し、「比叡」と「霧島」は元が巡洋戦艦だけあってそれなりに持ちこたえたものの、しかし結局は大量の浸水に抗しきれず、その身をマリアナ沖に沈めた。

 また、特務艦改造の「瑞鳳」と「龍鳳」のほうは、こちらもまたそれぞれ二〇機あまりのSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機の猛襲を受け、四発乃至五発の一〇〇〇ポンド爆弾を被爆、両艦ともに復旧のめどが立たず、すでに総員退艦が発令されている。


 第五艦隊もまた被害は甚大で、商船改造の「飛鷹」ならびに特務艦改造の「瑞穂」と「日進」が撃沈され、戦艦改造の「金剛」と「榛名」が撃破されている。

 ただ、「金剛」と「榛名」のほうはともに魚雷を三本被雷しており、本土への帰還はほぼ絶望的な状況だから、実質撃沈されたと言ってよかった。

 また、巡洋艦や駆逐艦といった護衛艦艇もその多くがF6Fヘルキャット戦闘機の機銃掃射を食らい、撃沈された艦こそ無かったものの銃手を中心に死傷者が続出している。


 一方、第二艦隊から発進した零戦と彗星それに天山からなる攻撃隊は「エセックス」級とみられる二隻の大型空母と、さらに「インデペンデンス」級と思しき同じく二隻の小型空母を撃沈あるいは撃破した。

 また、第三艦隊と第四艦隊それに第五艦隊の攻撃隊も第二艦隊に負けず劣らずの戦果を挙げ、残る一二隻の空母についてもそのすべてに爆弾や魚雷を命中させ艦上機の離発艦能力を奪っている。

 この結果を受け、第一機動艦隊の小沢長官は水上打撃部隊である第一艦隊に米機動部隊の追撃を命じるとともに、帰還してきた機体で第三次攻撃隊を編成するよう命令していた。


 「彗星が二六機に天山が三五機。たったのこれだけかね」


 即時再出撃が可能な機体の数を聞いた小沢長官が航空参謀に何かの間違いでは無いかとばかりに問い返す。

 天山は開戦時の三割に満たず、彗星に至っては二割以下にまでその数を減らしている。


 「被弾損傷している機体が思いのほか多数にのぼっているのです。特に高角砲弾による損害がひどいようで、多くの機体が胴体や翼に砲弾片と思しき被弾痕を穿たれています。

 あるいは、米軍は高角砲弾あるいはその射撃装置になにか画期的な能力を付与したのかもしません」


 航空参謀の答えに何か釈然としないものを感じつつも、しかし小沢長官によけいなことに思いを巡らせている余裕は無い。

 激減したとはいえ、それでも彗星と天山を合わせて六一機というのはそれなりの戦力だ。

 指揮官としてはそれに相応しい使いどころを考えなければならない。

 それに、零戦のほうは三〇〇機以上残っているし、こちらは二五番を装備できるから戦闘爆撃機として使える。


 接触機によれば、艦上機の運用能力を喪失した米機動部隊は東方へと避退を図っているという。

 一方の米水上打撃部隊は殿の位置で同じように東へと舳先を向けているとのことだから、第一艦隊が米機動部隊に対して追撃の姿勢を見せれば、彼らがその前に立ちはだかることは間違いない。


 これまでの情報から米水上打撃部隊は戦艦が七隻に巡洋艦が四隻、それに十数隻の駆逐艦から成ることが分かっている。

 数においては第一艦隊が有利だが、一方で総合戦力は七隻の戦艦をすべて新型で固めている米水上打撃部隊のほうが一枚も二枚も上手をいくことは間違いの無いところだろう。

 しかし、それでも第一艦隊が米水上打撃部隊を撃ち破らない限り米機動部隊への追撃もサイパンの上陸部隊に対する砲撃も不可能だ。

 そうなれば、成すべきことはおのずと決まってくる。

 小沢長官は断を下す。


 「第三次攻撃隊の目標は敵水上打撃部隊とする。第二艦隊と第三艦隊の天山でそれぞれ一隻ずつの米戦艦を攻撃。狙うのはその中でも特に大きい二隻だ。

 彗星隊は五〇番を装備して巡洋艦、零戦は二五番で駆逐艦をそれぞれの目標とする。零戦のほうは各空母ともに一個小隊を直掩に残し、あとはすべて追撃に投入せよ」

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