第10話 快挙と損害

 「第一次攻撃隊は『ハーミーズ』と思しき空母を撃沈。さらに巡洋艦や駆逐艦といった補助艦艇一〇隻を撃破しています。さらに、それ以外に護衛の零戦が敵戦闘機八機を撃墜しています。

 第二次攻撃隊のほうですが、こちらは『ネルソン』級戦艦二隻、つまりは『ネルソン』と『ロドネー』の両艦を撃沈確実です」


 航空参謀が読み上げる戦果に幕僚たちからどよめきの声が上がる。

 第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」から発進した総計一二六機の攻撃隊は空母一隻を撃沈、さらに二隻の戦艦を沈めた。

 洋上行動中の戦艦を飛行機だけで沈めたというのは世界初の快挙だ。

 しかも、一隻ではなく二隻であり、そのうえ相手が二隻ともにビッグセブンの一角である四〇センチ砲搭載戦艦の「ネルソン」と「ロドネー」だったから関係者らの喜びもひとしおだった。


 「さらに、第二次攻撃隊と入れ代わるようにして東洋艦隊を攻撃した基地航空隊の戦果ですが、こちらは『リヴェンジ』級とみられる四隻の戦艦の撃沈が報告されています。

 これは接触維持に出していた『瑞鳳』九号機からも同様の報告が成されていますので確度は高いものと思われます」


 五航戦が東洋艦隊に大打撃を与えた後、サイゴンやツドゥムに展開する基地航空隊の九六陸攻ならびに一式陸攻はダメ押しとばかりに同艦隊をさらに痛めつけ、そのうえ信じられないことに「リヴェンジ」級と思しき四隻の戦艦をすべて沈めてしまった。

 このことで、東洋艦隊は洋上打撃戦力としての能力をほぼ喪失したものとみられている。

 生き残った巡洋艦や駆逐艦もその大半が被爆しており、無傷を保っている艦はわずかしかない。

 すでに、陸軍はマレーへの上陸を果たし、そのうえ東洋艦隊の脅威も無くなったのだから、マレー攻略作戦は半ばその成功を約束されたようなものだった。

 戦果を読み上げた航空参謀は、だがしかし今度は声の調子を少しばかり落として損害報告を行う。


 「こちらの損害ですが、第一次攻撃隊と第二次攻撃隊を合わせて零戦二機に九九艦爆が一〇機、それに九七艦攻五機が未帰還。さらに、被弾損傷した機体も多く、ただちに使える機体は五航戦全体で零戦二八に九九艦爆が二一、九七艦攻が三二となっております。

 なお、『瑞鳳』に関しましては特に被害のほうは索敵に出した九七艦攻一機が被弾損傷したのみであり、こちらは損害は軽微とのことです」


 損害報告を聞いた五航戦司令官の原少将がその表情に苦いものを浮かべる。

 確かに、空母一隻と戦艦二隻を撃沈、さらに一〇隻の巡洋艦や駆逐艦を撃破したのだから、一七機の損害は十分戦果に見合う代償と言っていい。

 それでも、一度に四〇人近い搭乗員を失ったことは五航戦にとっては痛手だ。

 帝国海軍の母艦搭乗員の層は薄い。

 開戦にあたって、第一航空艦隊は艦上機の定数を満たすために基地航空隊の搭乗員はもちろん、練習航空隊からでさえ少なくない教官や教員を召し上げてようやく辻褄を合わせたくらいなのだ。

 四〇人近い搭乗員の補充は一朝一夕でかなうものではなかった。

 組織を束ねる立場の原司令官としては頭の痛い問題だ。


 「それで、いかがいたしますか」


 原司令官が嫌な話題から逃れるようにして今後の方針を小沢長官に尋ねる。


 「使用可能なすべての機体をもって敵残存艦隊への攻撃を継続する。東洋艦隊はすでにすべての主力艦を失っているが、それでも一ダース以上の巡洋艦や駆逐艦が残っている。

 ここで、それらを沈めておけば英海軍に対する打撃はそれこそはかりしれないものとなるはずだ。特に駆逐艦を失えば、その影響は大きいだろう」


 英海軍は北海や大西洋、それに地中海やインド洋と世界の海で枢軸国と戦っている。

 その中でも艦隊のワークホースと呼ばれる駆逐艦は引く手あまたで、慢性的な不足に陥っていることは誰の目にも明らかだ。

 その駆逐艦の不足は特にUボートとの戦いに決定的な悪影響を与えるだろう。

 そして、英海軍の苦境はドイツはもとより日本にとっても利するところ大だ。

 小沢長官が示した方針に納得し、第三次攻撃隊の準備を発令しようとした原司令官だが、しかしその命令が声になって発せられることは無かった。

 その前に、ただならぬ表情の通信参謀が駆けこんできたからだ。

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