第6話 五航戦艦爆隊

 中央に戦艦が六隻。

 さらに、その後方に空母が一隻の単縦陣。

 それら七隻の主力艦の左右をそれぞれ二隻の巡洋艦と六隻の駆逐艦が同じく単縦陣で並進している。


 (索敵機の報告通りだ。いい仕事をしてくれた。こちらもやりやすい)


 第一次攻撃隊指揮官の高橋少佐は胸中で東洋艦隊を発見した索敵機の搭乗員に称賛の言葉を贈る。

 敵艦隊発見の報を受けて「翔鶴」と「瑞鶴」から発進した第一次攻撃隊は一八機の零戦と五四機の九九艦爆から成る。

 その第一次攻撃隊は途中、一〇機ほどの液冷戦闘機の迎撃を受けた。

 これに対し、佐藤大尉率いる「瑞鶴」戦闘機隊が応戦。

 その間、兼子大尉を隊長とする「翔鶴」戦闘機隊はすべての九九艦爆を無事に東洋艦隊上空にまで送り届けてくれた。

 敵艦隊の上空に至るまでの道を啓開してくれた戦闘機隊に感謝を捧げつつ高橋少佐は目標を割り振る。


 「『翔鶴』第二中隊と第三中隊は小隊ごとに左翼の巡洋艦ならびに駆逐艦を攻撃せよ。

 『瑞鶴』第二中隊と第三中隊は同じく右翼の巡洋艦ならびに駆逐艦を狙え。

 『翔鶴』第一中隊ならびに『瑞鶴』第一中隊は中央列最後尾の空母を叩く。

 『瑞鶴』第一中隊の攻撃は『翔鶴』第一中隊が投弾した後とする」


 高橋少佐の命令一下、一丸となっていた九九艦爆の編隊は中隊ごとの六つに分かれる。

 真っ先に「翔鶴」第二中隊と「瑞鶴」第二中隊の九九艦爆が急降下に遷移、九機の中隊はさらに三機ごとの小隊に分かれ、目標とした艦に肉薄する。

 これに対し、狙われた側の東洋艦隊の艦艇から対空砲火が撃ち上げられる。

 たちまち空が黒く染め上げられ、多数の火箭が九九艦爆に向けて噴き伸びていく。

 高角砲の至近爆発あるいは機関砲弾や機銃弾の直撃を食らった三機が投弾前に撃ち墜とされる。


 だが、残る三三機はそれぞれが狙った目標に投弾を成功させた。

 それら九九艦爆が攻撃を終えた後、一〇カ所から猛煙が立ち上っているのを高橋少佐は認める。

 投弾した一二個小隊のうちの一〇個小隊までが敵艦に最低でも一発の命中弾を与えたのだ。

 直撃を得られ無かった二個小隊にしても、あるいは有効至近弾を与えているかもしれない。

 しかし、さすがに上空からでは真偽のほどは分からなかった。


 両翼に陣取っていた邪魔者がいなくなったことを確認した高橋少佐は中央単縦陣の最後尾に位置する空母に対し、今度は自分たちの番だとばかりに八機の部下の先頭を切って急降下に遷移する。

 空母とその前方に位置する戦艦から対空砲火が撃ち上げられてくるが、高橋少佐は意に返さない。

 気にしたところで、どうしようもないからだ。


 眼下の空母の回避運動は、ふだん「翔鶴」を目標に爆撃訓練をしている高橋少佐の目にはずいぶんとのんびりしたものに映った。

 実際、ウェーキもたいして大きくないから、さほど脚は速くないのだろう。

 高度を読み上げる小泉中尉の声を背中に聞きつつ、高橋少佐は対空砲火に揺さぶられる機体に微調整をかけ照準環の中に敵空母を捉え続ける。

 機体に金属がぶつかるような音が連続するが、急降下中はどうすることも出来ないし、そもそもとして回避するつもりなどさらさらない。

 ここまで来たら、己の安全よりも命中弾を得ることこそがなにより優先される。

 高橋少佐は高度六〇〇で投弾、引き起こしのGに耐えつつそのまま超低空飛行で敵対空砲火からの離脱を図る。


 「命中! さらに一発、もう一発、二発、三発、四発!

 『瑞鶴』隊も降下を開始! 

 命中! さらに一発、二発、三発、四発、五発!」


 歓喜交じりの小泉中尉の声を背に、高橋少佐は必死の操縦で追撃をかけてくる対空砲火から逃げる。

 投弾までとは逆に、ここからは安全つまりは生存こそが優先される。

 ようやくのことで敵の対空砲火の有効射程圏を脱し、人心地ついた高橋少佐は眼下を見おろす。

 狙った空母は盛大な煙をまとい、その全貌を確認することは出来なかった。

 ただ、「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊を合わせて一〇発以上の二五番を、しかも一時に食らわせたことは間違いない。

 八割がた撃沈は間違い無しと思われたが、かと言って確信も持てなかった。

 だから、高橋少佐は見たままを報告することにした。


 「敵空母大破炎上、さらに巡洋艦ならびに駆逐艦一〇隻以上を撃破!」

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