第45話 日英砲撃戦
乙部隊を指揮する第八戦隊司令官の阿部少将の見立て通り、「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」はともに「大和」をその目標にしていた。
先に仕掛けたのは「大和」だった。
制空権獲得の利を最大限に生かすべく、距離三〇〇〇〇メートルで「プリンス・オブ・ウェールズ」に対して砲撃を開始したのだ。
しかし、この距離ではいくら観測機を使えるとはいってもさすがに命中はおぼつかない。
そのことで、「大和」は「プリンス・オブ・ウェールズ」との距離をつめにかかる。
「大和」の指揮は同艦艦長の高柳少将に委ねつつ、阿部司令官は第八戦隊旗艦「利根」とその僚艦「筑摩」を率いて「レパルス」に急迫する。
「利根」と「筑摩」が装備する三年式二〇センチ砲は最大射程が三〇〇〇〇メートル近くに達するが、それはあくまでも砲弾を届かせることが出来る距離であって、命中が期待出来る距離ではない。
しっかりと狙ったうえで命中弾を望むのであれば、二〇〇〇〇メートルあたりにまで間合いを詰める必要があった。
「利根」と「筑摩」が接近する中でも「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」は「大和」への攻撃を継続する。
格下の重巡をなめているのか、あるいは常識外れの巨躯を持つ「大和」を恐れているのかは分からないが、阿部司令官にとっては都合が良い。
彼我の距離が二〇〇〇〇メートルになった時点で阿部司令官は二つの命令を下す。
「撃ち方始め!」
「魚雷発射始め!」
二〇センチ砲が傲然と火を噴き、その発砲煙に紛れるようにして規格外の大型魚雷が海面へ向けて飛び出していく。
「利根」と「筑摩」が発射したのは直径六一センチの九三式酸素魚雷で、雷速を落とせば四〇〇〇〇メートルの彼方にまで馳走出来る性能を持つ。
二〇〇〇〇メートルというのは十分に射程圏内だ。
「利根」と「筑摩」が「レパルス」に対して攻撃を開始した後も、「大和」それに「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」は二五〇〇〇メートルあたりで干戈を交えている。
世界最大の一五・五メートルの基線長を誇る測距儀と観測機を使える「大和」に対し、優れた光学測距儀と射撃レーダーを持つ「プリンス・オブ・ウェールズ」ならびに「レパルス」は互いに相手に対して命中弾を得ている。
「大和」が「プリンス・オブ・ウェールズ」に四六センチ砲弾を一発食らわせるたびに、「大和」もまた三六センチ砲弾と三八センチ砲弾をそれぞれ一発ずつもらっているような状況だ。
最初に崩れたのは「プリンス・オブ・ウェールズ」だった。
浮沈艦と呼ばれる「プリンス・オブ・ウェールズ」とはいえども所詮は三万トン級戦艦にしか過ぎず、六万トン級戦艦の「大和」とはあまりにも階級差があり過ぎた。
四六センチ砲弾に弾火薬庫を撃ち抜かれるような不運は無かったものの、それでも四六センチ砲弾はバイタルパートに張り巡らされた装甲を容易く貫き、「プリンス・オブ・ウェールズ」の戦力を確実に削り取っていく。
一方、「プリンス・オブ・ウェールズ」に倍する数の三六センチ砲弾や三八センチ砲弾を食らっている「大和」は艦上構造物を破壊され被装甲部を食い破られてはいるものの、しかし艦の枢要部は依然として無事であり、対艦戦闘に関する限り十分な戦闘力を残していた。
この様子に、戦況不利と見たソマーヴィル提督は戦場からの離脱を図る。
このままでは「大和」の足止めをするどころか、先に「プリンス・オブ・ウェールズ」の息の根を止められてしまう。
「レパルス」のほうも二〇センチ砲弾を大量に浴び、盛大に煙を吐き出している。
しかし、それでもなお「プリンス・オブ・ウェールズ」の離脱を助けるべく「大和」に向けて三八センチ砲を撃ち続けている。
「レパルス」の援護砲撃を、だがしかし「大和」はたいして意に介したそぶりも見せず無視し「プリンス・オブ・ウェールズ」に四六センチ砲弾を叩き込み続ける。
その間にも「利根」と「筑摩」は二〇センチ砲弾を次々に「レパルス」艦上に注ぎ込み、それらは彼女を寸刻みにしていく。
「プリンス・オブ・ウェールズ」が、そして「レパルス」が限界を迎えようとしていた。
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