第46話 東洋艦隊壊滅

 乙部隊が新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」ならびに巡洋戦艦「レパルス」を基幹とする部隊と戦っていた頃、第七戦隊の栗田司令官が指揮する甲部隊もまた東洋艦隊本隊に追いついていた。

 被雷し、速度の上がらない二隻の装甲空母を守るべく、二隻の巡洋艦と六隻の駆逐艦が甲部隊の前に立ちはだかる。

 甲部隊が四隻の「最上」型重巡と同じく四隻の「陽炎」型駆逐艦なのに対し、英巡洋艦と英駆逐艦も数の上では同じ八隻なのだが、しかし彼女たちはすでに九九艦爆が投じた二五番によってそのいずれもが満身創痍の状態だった。


 そのような相手にも甲部隊を指揮する栗田司令官は容赦しない。

 四隻の重巡と同じく四隻の駆逐艦から合わせて五六本の九三式酸素魚雷を惜しげもなく発射する。

 さらに第七戦隊の四隻の重巡は四〇門にも及ぶ二〇センチ砲を二隻の英巡洋艦に向け、それこそつるべ撃ちのごとく次々に叩き込んでいく。

 その間に第一六駆逐隊の「雪風」と「初風」、それに「天津風」と「時津風」はそれぞれペアとなって英駆逐艦を一隻ずつ討ち取っていく。

 脚を奪われ本来の高速を発揮することがかなわず、そのことで十分な連携機動が出来ない駆逐艦など、ただの洋上の脆弱な的にしか過ぎない。

 四隻の「陽炎」型駆逐艦はそれこそ浴びせるようにして一二・七センチ砲弾を英駆逐艦に叩き込み、文字通り蜂の巣にしていく。


 一六駆が二隻の英駆逐艦を無力化するのと同じ頃、半身不随の「コーンウォール」と「ドーセットシャー」の二隻の重巡を血祭りにあげた第七戦隊の四隻の「最上」型重巡が今度は残る四隻の英駆逐艦にマンツーマンで対峙する。

 英駆逐艦の始末を第七戦隊に委ねた一六駆は高速を飛ばし、戦線離脱を図る「インドミタブル」と「ビクトリアス」を急追する。


 被雷による浸水で速度が上がらずそのうえ回避運動がままならない「インドミタブル」と「ビクトリアス」は一一・四センチ高角砲を振りかざし、迫りくる四隻の「陽炎」型駆逐艦に対して必死の抵抗を試みる。

 しかし、艦が傾斜しているためかその砲撃は不正確で、命中弾どころか至近弾を得ることさえ出来ていない。

 一方の「雪風」と「初風」それに「天津風」と「時津風」はそれぞれ二隻一組となって「インドミタブル」と「ビクトリアス」を挟み込むようにして並進する。


 一六駆の四隻はそのいずれもが次発装填装置を使って予備魚雷を発射管に収めていた。

 残念ながら第一波攻撃の魚雷はすべて外れてしまったようだが、しかし今回は近距離からの発射でありしかも相手は低速しか出せない大型艦だ。

 これほどの好条件を揃えてなお命中魚雷を得ることが出来ないとなれば、それこそ一六駆の名前は悪い意味で帝国海軍中に響き渡るだろう。

 一六駆将兵の期待と一抹の不安を載せた三二本の魚雷が四隻の駆逐艦から放たれる。


 やがて時間となる。

 「インドミタブル」の左舷に一本、それに右舷に二本。

 「ビクトリアス」の両舷に一本ずつの水柱が立ち上る。


 脚の衰えた大型艦に、しかも必中距離からの雷撃であったのもかかわらず二割に満たない命中率はあまり褒められた成績ではない。

 しかし、それでも相手に対して致命の打撃を与えたことは間違いなかった。

 一般的な九一式航空魚雷の三倍近い重量を持つ九三式酸素魚雷の威力は破格だ。

 被雷した「インドミタブル」と「ビクトリアス」は完全その脚を止め、喫水が見る見る深まっていく。


 その頃には乙部隊の軽巡「長良」ならびに第四駆逐隊もまた三隻の英駆逐艦を葬っている。

 こちらは戦力差がそのまま結果となって現れた形だ。

 インド洋を巡る二度目の日英機動部隊の対決は第三艦隊に軍配が上がった。

 第三艦隊は少なくない艦上機を失ったものの、一方で撃沈された艦は一隻も無く、一〇発を超える三六センチ砲弾や三八センチ砲弾を食らった「大和」が中破した程度で、あとは若干の巡洋艦と駆逐艦が小破したくらいだ。

 逆に東洋艦隊はそのすべての艦を撃沈され、ソマーヴィル提督をはじめとした多くの将兵が戦死した。

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