第68話 目標、敵戦艦
それぞれ八隻あった「エセックス」級空母と「インデペンデンス」級空母は航空攻撃ならびに砲雷撃によってすべて撃沈した。
また、それらの護衛にあたっていた巡洋艦や駆逐艦もその多くを撃沈あるいは撃破している。
米機動部隊を始末した第一艦隊と第二艦隊、それに第三艦隊はサイパンへとその舳先を向ける。
二群に分かれていた第一艦隊のほうは集結すると同時に陣形を整え直し、八隻の戦艦を中心とした戦闘隊形へと移行している。
一方、米軍のほうは第五八任務部隊がまさかの敗北を喫したためにサイパンの上陸軍を守ることが出来るのは七隻の旧式戦艦を中心とする第七艦隊だけとなった。
七隻の戦艦は、四〇センチ砲を搭載する「コロラド」とさらに入渠中でマーシャル沖海戦の惨劇から逃れることが出来た「ペンシルバニア」、それに開戦後に大西洋から太平洋へと回航された三隻の「ニューメキシコ」級戦艦と二隻の「ニューヨーク」級戦艦からなる。
これに三隻の重巡と同じく三隻の軽巡、それに一六隻の駆逐艦が付き従っている。
「目標、『大和』一番艦、『武蔵』二番艦、『長門』三番艦、『陸奥』四番艦。
第二戦隊目標五、六、七番艦。第四戦隊ならびに第七戦隊、目標敵巡洋艦。水雷戦隊、目標敵駆逐艦」
眼前に立ちふさがる第七艦隊を撃滅すべく、栗田長官は溌溂とした声で目標を指示する。
激戦続きで疲労も激しいはずだが、しかしそのような様子は微塵も見せない。
そして、彼の命令に従う将兵たちは良い意味でも悪い意味でも戦慣れしてしまったことでその動きに無駄が無い。
たちまち戦闘態勢を整えた第一艦隊は第七艦隊の米戦艦に先んじて砲撃を開始する。
制空権を確保していることで観測機が使い放題だ。
このアドバンテージを生かさない手は無い。
一方、サイパンの友軍将兵の命運を背負って戦う第七艦隊のほうも必死だ。
観測機が使えない中、通常であれば命中が望めない遠距離であるのにもかかわらず砲門を開き、反撃の砲火を撃ちかけてくる。
「敵一番艦ならびに二番艦、目標本艦。敵三番艦ならびに四番艦、目標『武蔵』。
敵五番艦ならびに六番艦、目標『長門』。敵七番艦、目標『陸奥』」
見張りが砲撃を開始した米戦艦の目標を伝えてくる。
その言葉に上書きするように砲術長から喜色の交じった報告があがってくる。
「夾叉! 次より斉射に移行します」
思いのほか早い段階での夾叉に栗田長官はばれない程度に相好を崩す。
報告から四〇秒後、「大和」が咆哮する。
その砲門から九発の四六センチ砲弾が吐き出され、敵一番艦に向けて飛翔する。
その間に敵戦艦から放たれた砲弾が「大和」に向けて落下してくるが、立ち上った水柱は脅威を覚えるほどには近くもない。
敵一番艦は必死に修正射を重ねようとするが、観測機が使えない不利は明らかだ。
斉射から数十秒後、敵一番艦が水柱に包まれ、わずかに遅れて爆煙が立ち上る。
艦の中央やや後方、もう少し後ろにずれていれば三番砲塔の弾火薬庫に飛び込んで一撃轟沈ということもあり得たかもしれない。
その間にも「武蔵」が、そして「長門」や「陸奥」それに第二戦隊の四隻の戦艦もまた命中弾を得ている。
四六センチ砲弾や四一センチ砲弾、それに三六センチ砲弾が米戦艦を削り取っていく。
傷だらけになりながらも、しかし七隻の米戦艦はサイパン上陸部隊を守るために必死の防戦に努める。
だが、彼らは数においても質においても、なにより実戦経験において圧倒的に勝る第一艦隊の敵ではなかった。
「大和」や「武蔵」は旧式戦艦相手にも容赦することなく、四六センチ砲弾を次々に撃ち込んでいく。
他の六隻の戦艦もまた四一センチ砲弾や三六センチ砲弾を叩き込んでいく。
その頃には数に、あるいは戦力に勝る第一艦隊の巡洋艦や駆逐艦もまた米巡洋艦や米駆逐艦を押しまくっている。
ドイツのテクノロジーと帝国海軍将兵のテクニックが融合した第一艦隊の艨艟が第七艦隊を撃滅するまであとわずかだった。
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