第23話 第一航空艦隊出撃
マーシャル沖海戦からしばらく後、帝国海軍は通信傍受などによって同海戦で撃破した「ヨークタウン」級空母が同級二番艦の「エンタープライズ」であることを突き止めていた。
その「エンタープライズ」には最低でも二五番を六発叩き込んでいたから、修理にはどんなに急いでも三カ月程度はかかるものと見込まれていた。
そうであるならば「エンタープライズ」の戦線復帰は早くても三月以降となる。
開戦時、米海軍は正規空母を七隻擁していた。
その中で、最大の排水量を誇る「レキシントン」と「サラトガ」は、しかしマーシャル沖海戦で失われ「エンタープライズ」もまた同海戦で深手を負った。
だから、残るは「ヨークタウン」と「ホーネット」それに「ワスプ」と「レンジャー」の四隻となる。
これら四隻はそのいずれもが開戦時には大西洋艦隊の所属だった。
このうち、マーシャル沖海戦で「レキシントン」と「サラトガ」を失った穴を埋めるための戦力として「ヨークタウン」ならびに「ホーネット」がすでに太平洋に回航されたかあるいは回航途中であることが分かっている。
残る「ワスプ」と「レンジャー」については通信傍受等によっていまだ大西洋で活動していることを確認している。
このため、二月いっぱいの間までは太平洋艦隊で使える空母は大西洋から回航された「ヨークタウン」と「ホーネット」の二隻のみとなる。
現下の情勢を鑑み、帝国海軍はラバウル攻略作戦が完了するとともに新たなる作戦を発動する。
目標はポートモレスビー。
その目的は同地を占領し、豪州に圧力を加えることで同国を戦争から退場させることだった。
同作戦の中心となるのは第一航空艦隊で、四隻の高速空母を主力としている。
第一航空艦隊
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「蒼龍」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻一八)
「飛龍」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻一八)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「阿武隈」
駆逐艦「谷風」「浦風」「浜風」「磯風」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「秋雲」
一航艦は空母四隻に重巡二隻、それに軽巡一隻に駆逐艦九隻からなる一大機動部隊で、艦上機の数は常用機だけで二五八機を数える。
マレー沖海戦ならびにマーシャル沖海戦の勝利と、さらに南方作戦もまた予想以上に順調に進捗していることから正規空母四隻を投入、戦力に万全を期している。
主力艦の数に比べて駆逐艦の数が少ないのは、依然として南方作戦が進行中だからであり、これが終われば同艦種の増勢が図られるはずだった。
艦上機については零戦の比率が高くなっているが、これはマレー沖海戦やマーシャル沖海戦で大量に喪失した九九艦爆や九七艦攻が不足しているからだ。
配備数が少ないうえに生産数もまた少ない九九艦爆や九七艦攻は零戦や陸上攻撃機ほどには簡単に補充することが出来ない。
一方、搭乗員のほうは「赤城」や「加賀」、それに「龍驤」の生き残りを各空母に一時転属させたことで十分な数を揃えている。
また、開戦からわずかな期間しか経っていないものの一航艦の各艦には対空機銃が増設され、応急指揮装置も優先的に配備するかあるいは旧型のものから新型へと更新されている。
もちろん、この措置はマーシャル沖海戦で沈んだ「赤城」や「加賀」のように船火事で沈没してしまうような無様を二度と演じないためだ。
さらに、乗組員らには被害応急の講習や訓練を短期間ではあったが一応は施していた。
一航艦を指揮するのはマーシャル沖海戦に引き続き南雲中将で、草鹿参謀長以下の幕僚らもまた留任している。
南雲長官については三隻の空母を喪失したことから連合艦隊司令部の中で更迭論も取りざたされた。
しかし、一方で二隻の大型空母と七隻の戦艦を撃沈したのも事実であり、なによりマーシャル沖海戦の勝利の立役者として国民の間でも人気を博していたから、こちらのほうは山本長官の意向で沙汰止みとなった。
その一航艦はすでに珊瑚海に進入している。
要衝ポートモレスビーを守るために、なにより豪州の戦争脱落を阻止するために米機動部隊は必ずその姿を現すはずだった。
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