第42話 艦上機隊猛攻
第二次攻撃隊は「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ零戦六機に九九艦爆が一八機、それに九七艦攻が一二機。
「隼鷹」から零戦六機に九九艦爆が九機、それに九七艦攻が一二機。
その第二次攻撃隊を指揮する村田少佐は眼下の東洋艦隊の陣形を観察する。
三隻の空母が逆V字を描き、その脇をそれぞれ二隻の戦艦と巡洋艦が固めている。
そして、それらを取り巻くようにして一二隻の駆逐艦が輪形陣を形成する。
索敵機からの報告に間違いがないことを確認した村田少佐はただちに突撃命令を下す。
第一次攻撃隊が敵戦闘機隊を拘束している間に仕事をやり遂げてしまわなければならない。
「『瑞鶴』艦爆隊ならびに『隼鷹』艦爆隊は駆逐艦、『翔鶴』艦爆隊は巡洋艦を攻撃せよ。
『瑞鶴』艦攻隊は左後方、『隼鷹』艦攻隊は右後方の空母を狙え。中央の空母は『翔鶴』隊がこれを叩く」
村田少佐の命令一下、九九艦爆はそのまま直進し、一方の九七艦攻は高度を下げつつそれぞれ定められた目標に対して突撃をかける。
真っ先に「瑞鶴」それに「隼鷹」の二七機の九九艦爆が小隊単位に分かれ輪形陣外郭に位置する駆逐艦目掛けて急降下爆撃を仕掛ける。
たちまち九隻の駆逐艦の周囲に水柱が奔騰し、爆煙がわき上がる。
輪形陣の前方を構成する駆逐艦はそのすべてが被弾、中央にある空母や戦艦、それに巡洋艦はそれらの回避を余儀なくされる。
「瑞鶴」艦爆隊や「隼鷹」艦爆隊にやや遅れて「翔鶴」艦爆隊もまた急降下に遷移、中隊ごとに分かれたそれらは二隻の英巡洋艦に複数の二五番を叩きつける。
少なくない被撃墜機を出しながらも九九艦爆隊は九七艦攻隊の突撃路の啓開に成功する。
その頃には低空に遷移した三六機の九七艦攻もまた母艦ごとに分かれ、それぞれの目標に接近していく。
中央の空母を狙う村田少佐が直率する「翔鶴」隊は六機ずつに分かれ挟撃態勢に入る。
マレー沖海戦やマーシャル沖海戦、それに珊瑚海海戦やインド洋海戦で場数を踏んだ熟練で固められた「翔鶴」隊はまさに海面を這うような高度で英空母に肉薄する。
夜間雷撃の技量こそ英搭乗員にわずかに及ばないが、しかし昼間雷撃の腕は同等かそれ以上だ。
近づくにつれ、英空母の輪郭がはっきりしてくる。
煙突と艦橋が一体化したスタイルから「インドミタブル」かあるいは「ビクトリアス」のいずれかだろう。
その英空母はこれまでの戦訓を反映して対空火器の増強に努めたのか、頭上を行きかう火箭は以前のそれとは比較にならないくらい激しいものだった。
対空火力に優れた米空母と比較してもさほどひけはとらないだろう。
投雷直前に一機がまともに機銃弾の洗礼を浴びて爆散する。
しかし、残る五機は村田少佐の誘導のもと、理想の射点で腹に抱えてきた九一式航空魚雷を投下する。
英空母の艦首前方を抜ける村田少佐の目に、反対舷から同じく雷撃を行った「翔鶴」第二中隊の九七艦攻がこちらも同様に離脱していく姿が映り込む。
どの機体も敵の対空砲火の追撃から逃れるべく超低空を高速で翔破している。
「空母の左舷に水柱、さらに一本! 右舷にも水柱!」
後席の部下の歓喜交じりの声に村田少佐は「翔鶴」隊が三本の命中魚雷を与えたことを知る。
敵の対空砲火の射程圏外に逃れ、高度を上げる村田少佐の目に東洋艦隊の姿が映り込んでくる。
一ダースもの駆逐艦が形成していた輪形陣は完全に崩壊し、三隻の空母はそのいずれもが猛煙を噴き上げて洋上停止するかあるいは這うように進んでいるだけだ。
「『瑞鶴』隊、『フューリアス』と思しき空母に魚雷三本命中」
「『隼鷹』隊、『イラストリアス』級空母に魚雷二本命中」
どうやら第二次攻撃隊は東洋艦隊のすべての空母に魚雷を命中させ、航空機の離発着能力を奪ったようだ。
また、巡洋艦や駆逐艦にも相当なダメージを与えている。
「第三次攻撃隊を出せば敵空母にとどめを刺せそうだが、果たして母艦は無事だろうか」
大戦果を挙げたのにもかかわらず、村田少佐の関心はすでに友軍の心配へと変わっている。
前回の戦いでは「蒼龍」と「祥鳳」が英雷撃機によって撃沈されたのだ。
英母艦航空隊は決して侮っていい相手ではない。
(無事でいてくれよ)
胸中でそう念じつつ、村田少佐は空中集合を終えると同時に帰投を急いだ。
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