第43話 明暗
東洋艦隊と第一航空艦隊が激突した前回の戦いと大きく違うのは、直掩の零戦の数と電探の存在だった。
四月に生起したインド洋海戦で当時の一航艦は防空戦闘に失敗、英雷撃機によって空母二隻を撃沈されるという痛手を被った。
このとき、「飛龍」と「蒼龍」それに「瑞鳳」と「祥鳳」にはそれぞれ一個中隊、合わせて三六機の零戦が直掩として一航艦上空にあった。
一般的に英空母は米空母に比べて搭載機数が少なく、そのうえ艦上機の性能も低劣だから、三六機の零戦があればなんとかなると日本側は考えていた。
しかし、当時の東洋艦隊には米国から前倒しで供与された新型のF4Fワイルドキャット戦闘機がマートレットという名で配備されており、各空母の搭載機数も日本側の当初予想に比べて大幅に増加していた。
一航艦司令部の予想を大きく超える戦力、特に戦闘機の増勢は想定外もいいところで、このことで直掩の零戦隊はマートレットにそのほとんどが拘束されてしまう。
マートレットを駆る英搭乗員はドイツ戦闘機隊との生存競争を生き抜いてきた猛者で編成されており、その平均練度は一航艦の零戦搭乗員に比べて遜色は無い。
それでも、零戦はマートレットの阻止線を突破してアルバコアを撃破していったが、しかしそれはわずかに九機にしか過ぎなかった。
マートレットの奮闘のおかげで残る四五機のアルバコアは日本の空母に雷撃を仕掛けることが出来た。
そのアルバコアの搭乗員のほとんどは夜間雷撃が可能なベテランで固められており、その技量は九七艦攻の搭乗員に勝るとも劣らない。
アルバコアの猛攻を受けた「蒼龍」と「祥鳳」は多数の魚雷を被雷して沈没、さらに「飛龍」もまた撃破されてしまった。
この戦いで零戦が空母を守れなかったのは単純にその数が少なすぎたこと、それと迎撃ポイントが艦隊上空だったことで反復攻撃が出来なかったことが大きかった。
その反省から、今回は「翔鶴」と「瑞鶴」それに「隼鷹」と「瑞鳳」にはそれぞれ二個中隊、合わせて七二機の零戦を艦隊直掩として用意していた。
さらに、「翔鶴」には電探が装備されていたから、肉眼よりも遥かに遠いところで敵編隊の存在をキャッチすることが可能だった。
一方、英攻撃隊は三六機のマートレットと同じく三六機のアルバコアの合わせて七二機からなる戦雷連合編成であり、先のインド洋海戦で日本の空母に雷撃を仕掛けた経験を持つ熟練も多数含まれていた。
彼らは再び日本の空母を沈めるべく「インドミタブル」と「ビクトリアス」、それに「フューリアス」の三隻の空母から勇躍出撃した。
だが、そんな彼らの前に前回の二倍に及ぶ七二機の零戦が立ちはだかる。
護衛のマートレットは零戦の襲撃からアルバコアを守ろうとするが、すべての零戦を抑えることは出来ない。
マートレットは自分たちと同じ数の零戦を引き付けることに成功するが、しかしそれが限界だった。
そのような状況のなか、マートレットの護衛を失ったアルバコアに零戦が襲いかかる。
低空における低速戦闘を得意とする零戦にとって、鈍足で海面上を這うように進むアルバコアは格好の獲物だった。
アルバコアも防御機銃を振りかざして必死の防戦に努めるが、零戦はその火箭を軽々と躱し、二〇ミリ弾や七・七ミリ弾を撃ち込んでいく。
瞬く間にその数を減らしていく僚機の惨状に恐怖して、あるいはこれ以上進撃を続けたとしても無為に撃墜されてしまうだけだという合理的な判断をもって魚雷を投棄した機体はその多くが助かった。
しかし、それ以外の任務に忠実なアルバコアはそのすべてが零戦によって撃墜されてしまった。
英側の攻撃が失敗に終わった大きな要因は第三艦隊の航空戦力を低く見積もっていたことだ。
東洋艦隊司令部は第三艦隊については空母が三隻に艦上機が一七〇機程度と予想していたが、実際には空母は四隻で艦上機は二〇〇機を大きく超えており、さらにその半数以上を戦闘機で固めていた。
制空権獲得の要となる戦闘機の数で言えば英側が九六機だったのに対し、日本側は一二六機と三割以上も優勢だった。
この差が東洋艦隊と第三艦隊の明暗を分ける大きな要因となった。
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