第28話 ドーントレス猛攻

 第一次攻撃隊と第二次攻撃隊が米機動部隊を攻撃していた頃、第一航空艦隊もまた同様に米艦上機による空襲を受けていた。

 敵機の来襲に備え、一航艦の四隻の空母にはそれぞれ二個中隊、合わせて七二機の零戦が直掩任務にあたっていた。


 当初予定では、一航艦司令部はこれほど多くの零戦を直掩に残すつもりはなかった。

 ただ、マーシャル沖海戦で失われた九九艦爆や九七艦攻の機体の補充が追いつかないこともあって、その埋め合わせとして零戦を可能な限り積んでMO作戦に臨んだ結果、こうなっただけのことだ。


 その零戦は各空母ともに一個中隊が急降下爆撃機、残る一個中隊が雷撃機に対処するよう指示されていた。

 マーシャル沖海戦では零戦搭乗員の多くが敵雷撃機に気を取られて低空に集まり、その結果頭上ががら空きになってその隙を敵急降下爆撃機に突かれた。

 SBDドーントレスによって多数の爆弾を食らった「赤城」と「加賀」、それに「龍驤」はそのいずれもがマーシャル沖にその身を沈めることになった。

 そこで前回の轍を踏まないよう、今回は戦力が偏らないように撃墜すべき目標を中隊ごとに割り振ったのだ。

 また、敵の護衛戦闘機に対しては自衛上やむを得ない場合を除いて攻撃することは認められていない。


 その零戦隊に真っ先に突っかかってきたのは爆撃機隊や雷撃機隊の用心棒として同道していた二七機のF4Fワイルドキャット戦闘機だった。

 単機航法に優れた熟練のみで固めたF4Fは同数に近い零戦の拘束に成功するが、出来たのはそこまでだった。

 残る五〇機近い零戦は当初予定通り高空と低空に分かれ、それぞれSBDとTBDデバステーター雷撃機に狙いを定めていく。


 悲惨なのはTBDだった。

 三六機のTBDは二三機の零戦に食らいつかれ、二〇ミリ弾や七・七ミリ弾をしたたかに浴びせられて次々に撃ち落とされていく。

 ただでさえ鈍重な機体に一トン近い重量物の魚雷を抱えているものだから、回避運動もままならない。

 結局、早々に雷撃をあきらめて魚雷を捨てて遁走した機体以外はそのすべてのTBDが零戦によって撃墜されてしまった。


 一方、SBDのほうは八一機と数が多かったこともあり、零戦側はこれを完全に阻止することが出来なかった。

 二五機の零戦は五〇機近いSBDの撃墜破には成功したものの、しかし残る三〇機あまりを取り逃がしてしまう。

 虎口を脱した「ヨークタウン」と「ホーネット」、それに「エンタープライズ」爆撃隊の生き残りは母艦ごとに空母に的を絞り急降下爆撃を仕掛けた。


 一一機の「ヨークタウン」隊に狙われたのは「翔鶴」だった。

 「翔鶴」は高角砲や機銃を振りかざし、さらに三四ノットの高速でSBDの魔手から逃れようとする。

 しかし、米空母の中でも屈指の練度を誇る「ヨークタウン」爆撃隊の投弾をすべて回避することはかなわず三発を被弾してしまう。


 その頃には「ホーネット」隊に狙われた「蒼龍」と「エンタープライズ」隊に狙われた「瑞鶴」もまた黒煙を上げている。

 一〇機の「ホーネット」隊の攻撃にさらされた「蒼龍」は、他の空母に比べて同隊の練度が低かったこともありその投弾をことごとく回避した。

 冴え渡る柳本艦長の操艦によって無事に切り抜けられるかと思った矢先、しかし最後のSBDが投じた爆弾が艦首の機銃座を直撃した。

 艦首先端で一〇〇〇ポンド爆弾がその爆発威力を解放する。

 その衝撃で機銃座が吹き飛んだだけでなく、飛行甲板前縁が捲り上げられてしまった。

 一一機の「エンタープライズ」隊から爆撃された「瑞鶴」のほうは飛行甲板の前部と後部に一発ずつ被弾、「翔鶴」と同様に艦上機の離発着が不可能になってしまう。


 四隻あった空母のうちの三隻までが被弾したことにより、南雲長官はこれ以上ポートモレスビーに近づくことは危険と判断して反転する。

 一方、二航戦司令官の山口少将は無傷を保つ「飛龍」で残る一隻の空母を撃沈すべく、第三次攻撃の要ありと意見具申したが、しかしこれが採用されることはなかった。

 零戦はともかく、九九艦爆や九七艦攻の被害があまりにも大きく、無傷あるいは損傷の軽い稼働機があまりにも少なすぎたからだ。


 三隻あった空母のうちの二隻までを撃沈された米機動部隊もまた日本側の追撃を警戒して南下した。

 これによって後に珊瑚海海戦と呼ばれる戦いはその幕を閉じた。

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