第27話 戦力集中

 「ありがたいことだ」


 敵戦闘機の迎撃が無かったことに第二次攻撃隊指揮官の嶋崎少佐は安堵するとともに、第一次攻撃隊の艦爆隊ならびに戦闘機隊に感謝を捧げる。

 第二次攻撃隊は「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「蒼龍」と「飛龍」からそれぞれ九七艦攻が一二機の合わせて四八機と、さらにそれらを護衛する零戦からなる。

 そのうち、零戦のほうは「翔鶴」と「瑞鶴」から発進した一八機のみだから、護衛戦力に関しては少々心もとなかったのだが、しかし第一次攻撃隊は十分な仕事をしてくれたのだろう。

 敵戦闘機の姿はただの一機も見当たらない。


 第二次攻撃隊は航空戦隊ごとに敵空母を攻撃することになっていた。

 もともと一航艦は、開戦前の時点で六隻の正規空母に一四四機の九七艦攻が用意されていた。

 しかし、今は四隻の空母に七二機しか搭載されておらず、そのうえ三分の一にあたる二四機を索敵に使用していたから、残りは四八機にしか過ぎない。

 それでも、当初予想では珊瑚海に出張ってくるのは「ヨークタウン」と「ホーネット」の二隻だと思われていたことから、この数でも十分だと考えられていた。

 しかし、米軍はこちらの予想を超える三隻を投入してきた。

 こうなってくると、どうしても九七艦攻の数が足りなくなる。


 そうなると、戦力を分散して三隻の空母にあたるか、それとも十分な打撃力を維持するために二隻に的を絞るかの選択になる。

 そして、一航艦司令部は確実に二隻を仕留めることを選択した。

 これまでの戦訓から、少数機で敵を攻撃しても被害ばかり大きくて戦果が僅少になること、それとマーシャル沖海戦における「エンタープライズ」の回頭性能が異様に高かったという報告もまたその判断の後押しをした。


 マーシャル沖海戦では八〇機もの九七艦攻が同時攻撃を仕掛けて七隻の米戦艦を撃破したが、それだけの数を持ってしても被弾損傷が相次ぎ、少なくない機体が未帰還となっている。

 しかも、当時の太平洋艦隊の水上打撃部隊は単縦陣という対空戦闘に不向きな陣形だったのにもかかわらずだ。

 まして、今回の相手は輪形陣で、第一次攻撃隊によって少なくない護衛艦艇を傷つけられながらも、いまだ空母の周りには十分な数の巡洋艦と駆逐艦を配している。

 少数機で攻撃すれば大損害を被ることは目に見えていた。


 「二航戦は左、一航戦は右の空母を攻撃する。二航戦の攻撃法は二航戦指揮官に従え」


 二航戦の指揮は「飛龍」の楠美少佐に委ね、嶋崎少佐は九七艦攻の機首を右へともっていく。


 「『瑞鶴』隊は右舷、『翔鶴』隊は左舷から攻撃する。全機突撃せよ!」


 嶋崎少佐の命令一下、二四機の九七艦攻が二手に分かれ低空へと舞い降りる。

 敵の護衛艦艇から放たれる対空砲火は嶋崎少佐が知るマレー沖海戦の東洋艦隊とは別物だった。

 早くも一機が高角砲弾の至近爆発によって煙を吐き、後落していく。


 「当時の一航戦と二航戦はこんなに激しい対空砲火の中で戦果を挙げたのか」


 さすがはベテラン航空戦隊だという称賛と、新しく編組された一航戦も負けてはいられないという思いを胸に抱きつつ、嶋崎少佐は一〇機に減った部下たちを理想の射点に誘う。

 さらに一機が機銃弾をまともに浴びて爆散するが、残る一〇機は投雷に成功する。


 これでもう用は済んだとばかりに九七艦攻は遁走を図るが、敵の空母やその護衛艦艇はしつこく追撃の射弾を送り込んでくる。

 対空砲火の有効射程圏外に出るまでにさらに一機が火箭に絡めとられて撃墜されるが、被害はそれが最後だった。

 同時に、戦果確認をしていた後席の部下から歓喜交じりの声が響いてくる。


 「目標とした空母の左舷に水柱、さらに一本、二本。右舷にも水柱です! さらに一本、二本」


 どうやら、一航戦は六本の魚雷を敵空母に食らわせたようだった。

 高速で運動性能の高い「ヨークタウン」級空母に三割の命中を得たのだから、まずまずの成績と言っていいだろう。

 その頃には二航戦の楠美少佐からも戦果報告が寄せられている。


 「『ヨークタウン』級空母に魚雷七本命中、撃沈確実」


 一航戦を上回る命中弾を叩き出した二航戦に対してさすがだという思いを抱く嶋崎少佐だったが、しかし心はすでに第三次攻撃のほうに向かっている。

 手負いとはいえ、米機動部隊はまだ空母を残しているのだ。

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