第26話 三空母撃破

 第一次攻撃隊指揮官の高橋少佐は、最初はこちらに現れる米空母は「ヨークタウン」と「ホーネット」の二隻だと考え、そのための攻撃プランを練っていた。

 「翔鶴」隊ならびに「瑞鶴」隊の三六機の九九艦爆が輪形陣を形成する護衛艦艇を叩き、その後に「蒼龍」隊と「飛龍」隊の同じく二四機の九九艦爆に敵空母の飛行甲板を破壊させる。

 「蒼龍」艦爆隊を率いる江草少佐も、「飛龍」艦爆隊の小林大尉も一騎当千の熟練だからよもや仕損じることはない。

 しかし、米軍は自分たちの予想を上回る三隻もの空母を繰り出してきた。

 そうなってしまうと、こちらも戦力配分を変更する必要が出てくる。


 「攻撃法を指示する。発見された敵機動部隊は三群からなる。そこで、第一群は『翔鶴』隊、第二群は『瑞鶴』隊、第三群は二航戦がこれを攻撃せよ。

 『翔鶴』第二中隊ならびに『瑞鶴』第二中隊、それに『飛龍』隊は輪形陣外郭を守る巡洋艦および駆逐艦を狙え。『翔鶴』第一中隊ならびに『瑞鶴』第一中隊、それに『蒼龍』隊は敵空母の飛行甲板を破壊せよ」


 一群あたり三〇機の九九艦爆で臨むはずだった攻撃。

 それが一八機乃至二四機と規模が小さくなるが、しかしこれは仕方が無い。

 まずはすべての空母の飛行甲板を破壊し、離発着能力を奪うことが先決だ。


 命令を出し終えてしばらく後、第一次攻撃隊は三群に分かれた合わせて五〇乃至六〇機ほどのF4Fワイルドキャット戦闘機の群れに襲撃される。

 それを「蒼龍」隊と「飛龍」隊、それに「瑞鶴」隊の二七機の零戦が迎え撃つ。

 「翔鶴」隊の九機の零戦は最後の防衛網として九九艦爆のそばを離れない。

 たちまち零戦とF4Fが交じり合い、何機かが黒煙を曳きながら珊瑚海へと墜ちていく。

 さすがの零戦も二倍の敵を捌ききるのは無理だったのか、十数機のF4Fが九九艦爆の編隊に迫ってくる。


 最後の砦として「翔鶴」隊がこれに立ち向かうなか、九九艦爆は速度を上げて敵艦隊を目指す。

 しかし、「翔鶴」隊もすべてのF4Fを完璧に抑えきることはかなわなかった。

 零戦の阻止線を突破した一機のF4Fが九九艦爆に肉薄、両翼を光らせる。

 最後尾をいく九九艦爆が一二・七ミリ弾の猛射を浴びて爆散する。

 しかし、ほぼ同時に高橋少佐もまた米機動部隊を視認していた。


 「左翼『翔鶴』隊、中央『瑞鶴』隊、右翼二航戦。所定の手順に従って敵機動部隊を攻撃せよ」


 誤解の余地の無い端的な命令を発し、高橋少佐は機首をわずかに左に振る。

 直率する「翔鶴」艦爆隊のうちすでに一機がF4Fの銃撃によって失われ、今では一七機に減っている。

 八機に減った第二中隊がまず仕掛ける。

 二機乃至三機に分かれた九九艦爆は前を行く三隻の駆逐艦に狙いをつける。

 輪形陣の外縁に位置し、僚艦の援護を受けにくいはずの米駆逐艦だが、しかしその対空砲火は熾烈で一機が投弾前に撃墜され、さらに投弾後に一機が火箭に絡めとられる。

 その直後、輪形陣の前のほうで四本の水柱と三つの爆煙が湧き立つ。

 被弾した三隻の駆逐艦のうちの二隻は明らかに速力が衰え、後続の艦はそれを回避するために思い思いに舵を切る。


 輪形陣の乱れを見てとった高橋少佐が直率する「翔鶴」第一中隊は敵護衛艦艇の警戒ラインを突破、米空母の上空に遷移する。

 眼下の空母やその周囲に展開する護衛艦艇から火弾や火箭が九九艦爆に向けて撃ち上げられてくるが、回避運動中の艦からの対空砲火などそうそう当たるものではない。

 だが、それでも下手な鉄砲あるいは数は力なのか、不運な九九艦爆一機が高角砲弾の至近爆発によって撃墜されてしまう。

 しかし、残る八機の九九艦爆は仲間の死にも動じた様子はなくダイブに入る。


 次々に腹に抱えてきた二五番を空母目掛けて投弾、離脱していく。

 その直後、目標とした空母が水柱に包まれ、さらに飛行甲板の三カ所に爆煙が上がった。

 その頃には「瑞鶴」隊ならびに「蒼龍」隊も攻撃を終了、「瑞鶴」隊は三発、「蒼龍」隊は四発の二五番をそれぞれ目標とした空母に命中させていた。

 三発乃至四発程度の二五番が命中したくらいではとても撃沈は期待できないものの、それでも敵空母の離発艦能力が失われたことは明らかだった。

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