第66話 手負いの艨艟狩り

 栗田長官の見立て通り、友軍の巡洋艦や駆逐艦は米艦隊のそれに対して有利に戦いを進めていた。

 第四戦隊と第七戦隊の八隻の重巡は四隻の「ボルチモア」級重巡を攻撃、二倍の数を生かしそのまま押し切った。

 個艦の性能では第四戦隊の「高雄」型重巡や第七戦隊の「最上」型重巡を上回る「ボルチモア」級重巡も、しかし相手が二倍では明らかに分が悪い。

 そのうえ、四隻の「ボルチモア」級重巡はそのいずれもが彗星の急降下爆撃によって手ひどくやられていたから、さらにその差は大きい。

 悪条件が重なった四隻の「ボルチモア」級重巡に八〇門にも及ぶ二〇センチ砲に抗する力などあるはずもなく、早い段階で全艦が炎上、その戦力を喪失した。


 一方、「阿賀野」と「能代」、それに一六隻の甲型駆逐艦は一六隻の「フレッチャー」級駆逐艦を文字通り鎧袖一触とした。

 「フレッチャー」級駆逐艦は対艦ならびに対空それに対潜戦闘にもハイレベルで対応できる万能駆逐艦ではあったが、しかしすべての艦が零戦の緩降下爆撃によって二五番を被弾しており、そのことで万全の状態で戦闘に臨むことが出来た艦は一隻も無かった。

 「阿賀野」や「能代」、それに一六隻の甲型駆逐艦は脚を奪われ高度な連携機動が出来ない「フレッチャー」級駆逐艦を分断、常に数的優位を確保した状態で相手を袋叩きにしていった。


 その頃には戦艦同士の戦いもその趨勢が決している。

 真っ先に倒れたのは三番艦の位置にあった「サウスダコタ」だった。

 「大和」が放った四六センチ砲弾の一発が大落角をもって「サウスダコタ」の煙突わきに命中する。

 一トン半にも及ぶ重量弾は「サウスダコタ」の分厚い水平装甲を容易く食い破り、艦内奥深くでその爆発威力を解放した。

 その衝撃で半数のボイラーとタービンが用をなさなくなり、速度が急激に衰える。

 「サウスダコタ」の速度が衰えたことで的速を誤ることになった「大和」の砲撃は二度にわたって空振りとなったものの、すぐにパラメーターを修正して砲撃を続行、一〇度の砲撃の間に一一発を命中させ「サウスダコタ」を燃え上がらせた。


 わずかに遅れて「武蔵」もまた「インディアナ」を戦闘不能に追い込んでいる。

 「インディアナ」は「武蔵」の四六センチ砲弾を艦中心部に集中して被弾、機関部を盛大に破壊され、その動力源を失いつつあった。


 ここに至り、戦況を覆すことは不可能と悟ったリー提督は被害極限のために旗艦「ニュージャージー」と二番艦の「アイオワ」を盾とし、脚を残している三隻の戦艦に避退するよう命じる。

 「アラバマ」と「ワシントン」、それに「ノースカロライナ」はリー提督の命令に従い離脱を図る。

 敵将の意図を察した栗田長官は足止めを図ろうとする二隻の米戦艦の始末を第二戦隊に委ね、自身は「大和」と「武蔵」、それに「長門」と「陸奥」を率いて逃亡を図る三隻の米戦艦を追撃する。

 対応艦を始末した第四戦隊と第七戦隊の八隻の重巡ならびに二隻の軽巡、それに一六隻の駆逐艦もまた米戦艦を猛追する。


 脚の速いこれら二六隻の軽快艦艇は米戦艦を追い抜きざまに一九六本もの魚雷を発射した。

 飽和雷撃とはいえ、遠距離から仕掛けたこともあり命中したのは四本にとどまる。

 二パーセントをわずかに上回る命中率は決して褒められた成績ではないが、しかしこの局面では大きな意味があった。

 それぞれ一本を被雷した「ワシントン」と「ノースカロライナ」は大きく速度を落とし、二本被雷した「アラバマ」は這うように進むだけとなる。

 傷ついた三隻の米戦艦に追いついた第一戦隊は三隻の米戦艦に向けてその砲門を開く。

 米戦艦も反撃の砲火を放つ。

 だが、浸水で艦が傾いているからその砲撃は明らかに精度を欠いていた。


 「大和」は「ワシントン」、「武蔵」は「ノースカロライナ」をその四六センチ砲をもって文字通り叩き潰し、「長門」と「陸奥」は四一センチ砲で「アラバマ」をなぶり殺しにする。

 その頃には「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」もその四八門の三六センチ砲をもって手負いの「ニュージャージー」と「アイオワ」をしたたかに打ち据えていた。

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