第62話 米艦上機隊猛攻

 開戦時には母艦単位はおろか飛行隊単位の編隊飛行すらもおぼつかず、中隊での進撃さえ珍しくなかった。

 多数機による整然とした編隊を維持出来る日本の母艦航空隊との技量の差はあまりにも隔絶していた。

 そのことに危機感を抱いた合衆国海軍上層部は空中集合ならびに大編隊による進撃訓練を母艦搭乗員らに課す。

 それが奏功し、今では母艦単位はもちろん機動群単位での進撃も可能となった。

 しかし、一方で現在の練度ではそれが限界でもあった。

 第五八任務部隊の四個機動部隊、それらが放った六四八機からなる攻撃隊は、一方の第一機動艦隊側から見れば一六〇機前後の攻撃隊による波状攻撃に映った。


 真っ先に一機艦にとりつこうとしたのは練度の高い第一機動群と第二機動群だった。

 これに対し、第二艦隊と第三艦隊、それに第四艦隊と第五艦隊はすべての零戦をもって迎撃にあたる。

 第一機動群の一六二機の戦爆雷連合を迎え撃ったのは第二艦隊と第四艦隊の一二〇機の零戦だった。


 その零戦の襲撃から味方の急降下爆撃機や雷撃機を守るべく、四八機のF6Fヘルキャット戦闘機が阻止線を形成する。

 しかし、この程度の数ではすべての零戦を抑えきれるはずもなく、F6Fの防衛網を突破した七〇機近い零戦は二手に分かれてSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機とTBFアベンジャー雷撃機に襲いかかる。

 F6Fからの援護を失った四八機のSB2Cと六六機のTBFは重量物の爆弾や魚雷を抱えていたこともあって零戦の二〇ミリ弾や一三ミリ弾になすすべ無く切り刻まれていく。

 第二機動群のほうもまた第三艦隊と第五艦隊の同じく一二〇機の零戦のありがたくない歓迎を受けて散々な目に遭わされていた。


 しかし、その隙を突くようにして進撃を続けた第三機動群と第四機動群の攻撃隊はそれぞれ第四艦隊と第五艦隊にとりつくことに成功する。

 偶然というにはあまりにも味方の犠牲が大きいが、それでも第一機動群と第二機動群が囮の効果をもたらしたことは間違いない。


 このとき、一機艦は正規空母を中心とした第二艦隊と第三艦隊を後方に置き、旧式戦艦改造空母とそれに特務艦や商船改造空母を基幹とした第四艦隊と第五艦隊を前面に押し出していた。

 第二次ソロモン海戦では防御力の高い正規空母を前に、逆に防御力が貧弱な改造空母を後方に置いていたことを考えれば真逆の配置だ。

 これについては、一機艦側が今回の戦いにおいては空母の損失は必至とみて「大鳳」や「翔鶴」型、それに「雲龍」型といった正規空母の安全を優先したことがその大きな理由だ。

 艦齢三〇年に達する戦艦改造空母や原状復帰のかなわない特務艦改造空母それに商船改造空母は正規空母に比べて戦術的価値が低い。

 どのみちやられるのであれば、こちらを沈められたほうがいいというある意味で合理的、逆に第四艦隊や第五艦隊の将兵らにとっては理不尽ともいえる措置だった。


 前衛の第一艦隊を迂回し、第四艦隊にとりついた第三機動群はここで部隊を五つに分ける。

 「イントレピッド」隊の二四機のSB2Cは「瑞鳳」に、二四機のTBFはその前を行く「比叡」に向かう。

 「ワスプ2」隊の二四機のSB2Cは「龍鳳」に、二四機のTBFは同じくその前を行く「霧島」に狙いを定める。

 それぞれ九機のTBFからなる「ラングレー」隊と「カボット」隊は「隼鷹」を挟み込むようにしてその包囲網をせばめていく。


 その間、F6Fのうちの半数は零戦の襲撃に備え、残る半数は護衛艦艇に機銃掃射をかけるべく低空へと遷移する。

 ささやかな輪形陣を形成する一〇隻ほどの護衛艦艇にF6Fが機銃弾を浴びせかける。

 このことで、ただでさえ密度の薄かった対空弾幕はさらに弱体化する。

 撃墜される機体はほとんど無く、急降下爆撃機や雷撃機は易々と輪形陣の内側に侵入を果たす。

 「イントレピッド」と「ワスプ2」のSB2Cがそれぞれ「瑞鳳」と「龍鳳」目掛けて急降下を開始する。

 同じ軽空母でも米軍の「インデペンデンス」級に比べて鈍足の「瑞鳳」と「龍鳳」はそのすべての投弾を躱しきることが出来ない。

 「瑞鳳」は四発、「龍鳳」は五発の一〇〇〇ポンド爆弾を一時に食らって炎上する。


 やや遅れて「イントレピッド」のTBFが二手に分かれて「比叡」を挟みこむように肉薄する。

 「比叡」は三〇ノットの快速を飛ばしてこれを回避しようとするものの、さすがに二〇機を超える雷撃機に囲まれてしまっては避けようが無い。

 左舷と右舷にそれぞれ二発ずつ被雷した「比叡」はほどなくその脚を止める。

 その頃には「ワスプ2」隊に狙われた「霧島」や「ラングレー」隊と「カボット」隊に挟撃された「隼鷹」もまた複数の魚雷を浴びて洋上停止していた。


 その先の水平線の向こうからも複数の煙が立ち上っている。

 第五艦隊が有る方角だった。

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