第61話 激闘 第二次攻撃隊

 おそらくは偶然なのだろうが、こちらが第二艦隊から第五艦隊までの四個機動部隊を擁していたのに対し、米機動部隊もまた四群から成っていた。

 しかも、これらを発見した彗星からの報告によれば、米機動部隊はそのいずれもが大小四隻の空母を基幹としたものだという。

 第一機動艦隊司令部はこれら四個機動部隊に対して、それぞれ北から甲、乙、丙、丁の名称を与えた。


 「命令を繰り返す。第二艦隊目標甲、第三艦隊目標乙、第四艦隊目標丙、第五艦隊目標丁だ。攻撃法は各隊指揮官に従え」


 攻撃隊総指揮官兼「大鳳」飛行隊長の友永少佐の端的な命令に四〇八機からなる第二次攻撃隊は四群に分かれる。

 友永少佐は一〇七機の部下の機体とともに最も北に位置する米機動部隊にその機首を向ける。

 空母の周囲を二〇隻近い護衛艦艇が取り囲んでいる典型的な輪形陣だ。

 四隻の空母のうち、前の二隻は明らかに大型のそれ。

 大きい方は「エセックス」級、小さい方は「インデペンデンス」級で間違い無いだろう。


 「零戦隊は輪形陣外郭の巡洋艦ならびに駆逐艦を攻撃せよ。

 『翔鶴』艦爆隊は左後方、『瑞鶴』艦爆隊は右後方の空母を狙え。

 『翔鶴』ならびに『瑞鶴』艦攻隊は左前方、『大鳳』隊は右前方の空母を叩く」


 友永少佐の命令一下、真っ先に三六機の零戦が小隊ごとに分かれ輪形陣を構成する巡洋艦や駆逐艦に向けて降下を開始する。

 第二次攻撃隊の一五六機の零戦はそのいずれもが胴体下に二五番を抱えていた。

 一機艦は戦闘機重視の編成のため、対艦攻撃能力に優れた彗星や天山は両方合わせても全体の三割程度でしかない。

 その対艦打撃力の不足を補うために第二次攻撃隊の零戦は戦闘爆撃機としての運用を求められていた。

 もちろん、敵戦闘機の妨害が激しい場合は爆弾を切り離して対処するのだが、幸い敵戦闘機はそのすべてが第一次攻撃隊の零戦によって撃破されるかあるいは拘束されていた。

 そのことで零戦はすべての機体が爆弾を敵艦にぶつける機会に恵まれたのだ。


 四機ずつの小隊に分かれた三六機の零戦に対し、その意図を悟った巡洋艦や駆逐艦が激しい対空砲火を撃ち上げる。

 引き起こしが必要なためにダイブブレーキを利かせた低速降下となる急降下爆撃と違い、高速航過できる緩降下爆撃は被弾確率が低い一方で命中率もまた低い。

 三〇機を超える零戦が投弾したのにもかかわらず、命中したのはわずかに六発だけであり、その命中率は二割に満たない。


 しかし、装甲の薄い巡洋艦や無きに等しい駆逐艦が二五番の直撃を食らって無事に済むはずがない。

 機関にダメージを受け、速力低下やあるいは洋上停止するものが続出する。

 輪形陣に生じた綻びを彗星隊と天山隊は見逃さない。

 真っ先にそれぞれ一八機の彗星からなる「翔鶴」艦爆隊と「瑞鶴」艦爆隊が小型空母目掛けてダイブする。

 こちらは、零戦と違い爆撃が本職であり、しかも急降下爆撃だから命中率も高い。

 「翔鶴」隊も「瑞鶴」隊も投弾前に三割近い機体を撃破されたものの、それでも一隻当たり一〇発以上の五〇番の投下に成功、「翔鶴」隊は三発、「瑞鶴」隊は四発の命中弾を得た。


 それらにやや遅れて攻撃を開始した「翔鶴」艦攻隊と「瑞鶴」艦攻隊、それに「大鳳」隊は「エセックス」級空母を狙う。

 それぞれ九機の天山からなる「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊は「エセックス」級空母に対して両舷からの同時攻撃を成功させる。

 回避不能の挟撃に「エセックス」級空母の左舷に一本、右舷に二本の水柱が立ち上る。


 「翔鶴」艦攻隊それに「瑞鶴」艦攻隊と同様に、別の「エセックス」級空母を攻撃した「大鳳」隊もまた戦果を挙げた。

 こちらはそれぞれ九機の彗星と天山による攻撃だったが、雷爆同時攻撃によって彗星隊は二発の五〇番を飛行甲板に叩き込み、天山隊は左舷に一本の命中魚雷を得た。


 その頃には第三艦隊と第四艦隊、それに第五艦隊の航空隊もまた攻撃を終了している。

 いずれの航空隊も米空母に最低でも一発の爆弾かあるいは魚雷を命中させ、その離発艦能力を奪うことに成功していた。

 しかし、一方で第二次攻撃隊もまた一〇〇機を超える零戦や彗星、それに天山が敵艦の対空砲火によって撃墜され、生き残った機体もその多くが被弾していた。

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