第60話 零戦vsF6F

 第二艦隊の空母「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ一一機、第三艦隊の四隻の「雲龍」型空母からそれぞれ二機の合わせて三〇機の彗星が二波に分かれ、米機動部隊の姿を求めて北東から南東に向けて一五の索敵線を形成する。

 一方、第五八任務部隊はさらにそれを上回る数のSB2Cを投入してこちらもまた日本艦隊の発見に努める。

 日米両軍ともにこれまでの戦訓から索敵の重要性は痛いほどに理解している。

 双方がしのぎを削った索敵合戦は、しかし日米がほぼ同時に相手を見つけることで引き分けあるいは痛み分けとなった。


 敵艦隊を発見してからの両軍の指揮官はともに積極策に打って出た。

 第一機動艦隊の小沢長官は第一次攻撃隊として「千歳」を除くすべての空母から一個中隊、合わせて二一六機の零戦ならびにそれらを誘導するための三機の彗星を発進させる。

 さらに一五六機の零戦に一三五機の彗星、それに一一七機の天山からなる第二次攻撃隊もまた第一次攻撃隊の後を追うようにして慌ただしく飛行甲板を蹴っていった。


 一方、第五八任務部隊のほうは四個機動群、合わせて一六隻の空母からこちらもまた攻撃隊を出撃させる。

 一九二機のF6Fヘルキャット戦闘機に同じく一九二機のSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機、それに二六四機のTBFアベンジャー雷撃機の総計六四八機からなる史上最大の攻撃隊を第三艦隊へと差し向けた。


 最初に激突したのは巡航速度の速い日本の第一次攻撃隊とそれらを迎撃した艦隊防空にあたるF6Fだった。

 レーダーが日本の第一次攻撃隊を捉えたとき、第五八任務部隊の第一と第二、それに第三と第四の四個機動群にはそれぞれ八〇機のF6Fがあった。

 第五八任務部隊指揮官のミッチャー提督はこのうち三二機の夜戦型を除くすべてのF6Fを第一次攻撃隊にぶつけるよう命令する。

 さらにミッチャー提督は目標が重ならないよう第一機動群と第二機動群には護衛戦闘機の排除、第三機動群は敵急降下爆撃機を、第四機動群には敵雷撃機を撃滅するよう指示していた。


 その命令を忠実に守り、真っ先に第一機動群と第二機動群の一四四機のF6Fが第一次攻撃隊に突っかかる。

 零戦隊はその全力をもってこれを迎え撃つ。

 このことで、本来であれば四対三とF6F側に有利だったはずの戦力比は、しかし二対三と逆に不利に変わる。


 敵が犯した戦力分散の愚を、しかし目ざとい零戦搭乗員たちは見逃さない。

 第一次攻撃隊の零戦搭乗員はベテランかあるいは単機航法に優れた中堅で固められており、若年搭乗員は一人もいない。

 零戦は四機あるいは二機の編隊に分かれ、数的劣勢の陥穽に自ら飛び込んでしまったF6Fの側背を二〇ミリ弾で撃ち抜いていく。

 この戦いから母艦航空隊の零戦はこれまでの三機一個小隊から四機一個小隊へと変更し、その最小戦闘単位を二機としていた。

 零戦隊がドイツで言うところのシュヴァルムを導入した形だが、格闘戦にその性能を振っていた二一型や三二型と違い、五三型はドイツ戦闘機ほど顕著ではないもののそれでも一撃離脱を志向している。

 そして、シュヴァルムは五三型に合ったやり方だった。


 第一機動群と第二機動群のF6F搭乗員から発せられる罵声や悲鳴で第一次攻撃隊が零戦で固められていることを知った第三機動群と第四機動群のF6Fが窮地に陥った戦友を救うべく零戦とF6Fが殴り合う空戦域に飛び込んでいく。

 しかし、第三機動群のF6Fがそこへ到達した時にはすでに第一機動群と第二機動群のF6Fは散り散りとなっていた。

 また、第四機動群のF6Fのほうは雷撃機に備えて低空に遷移していたためにいまだ上昇中だ。

 逃げる味方と間に合わない味方の狭間に自ら飛び込んだ第三群のF6Fを零戦隊が袋叩きにする。


 性能でも、その数でも優位に立っていたはずのF6Fは、だがしかし判断の誤りと少しばかりの油断でその多くが撃破されてしまった。

 そのわずか後、近くの空域を四〇八機からなる第二次攻撃隊が悠々と通り過ぎ去っていった。

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