第48話 復讐の提督

 六月に生起した第二次インド洋海戦で東洋艦隊が敗北、その後日本海軍が総力を挙げた同海域の掃討作戦によって英軍はインド洋からの撤退のやむなきにいたる。


 英国の窮状を見て取ったドイツとイタリアはその千載一遇の好機を逃さず地中海方面で大攻勢をかける。

 イタリア艦隊の全力出撃、それにブラウ作戦延期に伴って捻出されたドイツ航空戦力は同戦域で猛威をふるった。

 そのことでマルタ島はあっさりと陥落、地中海の東半分の制海権を奪取した枢軸軍はその勢いのままエジプトに侵攻する。

 わずかに二隻の「クイーンエリザベス」級戦艦しか配備していない地中海艦隊にイタリア海軍やドイツ空軍と戦う力は無く、同艦隊は艦隊保全を優先して戦闘を回避、この結果エジプトは短期間のうちに枢軸軍の手に落ちてしまう。

 さらに枢軸軍はスエズ打通を成し遂げ、欧日連絡線を開通させる。

 このことで、インド洋に面する豪州の西半分はモロに枢軸側の圧力を受けることになってしまった。


 一方、豪州の東にも脅威が迫っていた。

 日本軍がガダルカナル島に飛行場を建設中だということが判明したのだ。

 もし、ここが航空基地として稼働すれば米豪交通線は大きな掣肘を受けるとともに間違いなく豪州に大きなプレッシャーを与えることになる。

 西の守護神である東洋艦隊を失った豪州に対し、ここで東の守り神ともいえる太平洋艦隊が日本軍によるガダルカナル島の飛行場建設を座視するようなことがあれば、豪州の米軍に対する信頼が失墜することは間違いない。


 もちろん、そのことで豪州がただちに日本との単独講和を結ぶとも思えないが、しかし一方でそんなことが現実化すれば米国にとっては悪夢だ。

 豪州という足場を失えば日本との戦争は長引き、間違いなく米国民の厭戦気分を惹起させる。

 そのことをなによりも恐れるルーズベルト大統領は太平洋艦隊に対して豪州防衛のための策を講ずるよう合衆国海軍上層部に命令する。

 もちろん、それはガダルカナル島攻略にほかならない。


 太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は当初、戦力不足を理由にガダルカナル島攻略作戦には反対の立場だった。

 しかし、一方面艦隊の司令長官が大統領に逆らえるはずもなく作戦は決行される。

 決死の覚悟で臨んだガダルカナル島攻略作戦は、だがしかし日本軍が油断しきっていたこともあり、あっさりと成功する。

 しかし、日本軍も黙ってガダルカナル島を米軍に進上してくれるほど甘くは無い。

 航空攻撃や水上艦艇の殴り込みなど、あらゆる手を尽くして連合軍を攻撃してきた。

 特に八月八日から九日にかけて生起した夜戦では一挙に四隻もの重巡を失うという大打撃を被った。

 しかし、なぜか勝利したはずの日本艦隊は輸送船には手を付けず戦場を後にした。

 こういった幸運にも恵まれ、今のところガダルカナル島攻略作戦は順調に推移している。


 だが、今度現れる敵は容易ならざる相手だ。

 日本海軍の第三艦隊がついに動き出したのだ。

 第三艦隊はその戦力において第六一任務部隊に匹敵するかあるいはそれ以上の、つまりは現時点における世界最強の機動部隊だろう。

 その戦力は三隻の正規空母を基幹とし、さらに複数の改造空母もまた含まれる。


 その強敵を相手どるべく、ガダルカナル島攻略作戦のために新編された第六一任務部隊の三隻の空母はその六割以上を戦闘機で固めている。

 敵艦への攻撃力よりも確実な制空権の獲得を優先したのだ。

 一方で、激減した対艦打撃能力に関しては水上打撃部隊にその役割を担わせる。

 すでに就役している五隻の新型戦艦のうちの四隻までを投入し、日本の水上打撃部隊に備えさせる。

 これは、日本の水上打撃部隊によって全滅の憂き目にあった東洋艦隊の轍を踏まないための措置だ。

 その第六一任務部隊を指揮するのはフレッチャー提督。

 珊瑚海海戦で乗艦の「ヨークタウン」を撃沈された屈辱を晴らすべくその闘志を燃やしていた。



 第六一任務部隊

 第一六任務群

 「エンタープライズ」(F4F四八、SBD二四、TBF一五)

 重巡一、軽巡一、駆逐艦六


 第一八任務群

 「レンジャー」(F4F四八、SBD一八、TBF一〇)

 重巡一、軽巡一、駆逐艦六


 第一九任務群

 「ワスプ」(F4F四八、SBD一八、TBF一〇)

 重巡一、軽巡一、駆逐艦六


 第二一任務群

 戦艦「サウスダコタ」「インディアナ」「ワシントン」「ノースカロライナ」

 重巡二、軽巡二、駆逐艦一六

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