第49話 ガダルカナルの陥穽
小沢長官をはじめとする第三艦隊司令部スタッフにとって予想外だったのは、ガダルカナル島に米軍が上陸してからまだ半月あまりしか経っていないのにもかかわらず同地の飛行場がすでに稼働しており、それなりの戦力を持つ航空隊がすでに展開を終えていたことだった。
さらに同島周辺海域におけるカタリナ飛行艇やB17重爆といった大型機の動きも活発で、第三艦隊は想定戦闘海域に入ったとたん、複数回にわたってそれらの接触を受けていた。
いずれにせよ、米機動部隊との決戦の最中に自分たちの側背を突くことが出来るガダルカナル島飛行場の航空戦力を放置しておくわけにもいかない。
小沢長官は対艦打撃力が低下するのを承知で「飛鷹」からそれぞれ九機の零戦と九九艦爆それに一二機の九七艦攻、「瑞鳳」から零戦九機の合わせて三九機からなる攻撃隊をガダルカナル島飛行場攻撃に差し向けた。
索敵のほうは「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ三機の九七艦攻とさらに六隻の重巡洋艦からそれぞれ一機の零式水偵を、さらに三〇分後にも同じ数の機体を索敵第二陣として送り出していた。
「ちょっとした静水面があれば運用出来るカタリナ飛行艇はともかく、B17のほうはおそらくはエスピリトゥサント島から出撃してきたものと思われます」
航空参謀の報告を聞く小沢長官の表情は冴えない。
ガダルカナル島飛行場という不沈空母の存在。
それに、こちらからは手が出せない遠方の拠点から仕掛けてくるB17重爆。
いくら追い払っても執拗につきまとってくる飛行艇。
他にも潜水艦が発信したと思しき不審電波もキャッチしている。
第三艦隊の行動は明らかに敵に筒抜けだった。
一方で、こちらは索敵機を放ったばかりで、当然のことながら米機動部隊の位置はいまだ特定出来ていない。
我は敵を知らず、敵は我を知るという最悪の状況だ。
だがしかし、そんな小沢長官に吉報がもたらされる。
索敵第一陣が発進してから二時間近くが経った頃、中央寄りの索敵線を飛んでいる複数の機体から米艦隊発見の報が次々に上がってきたのだ。
「四隻の戦艦を基幹とする水上打撃部隊発見」
「一隻の空母を中心とする機動部隊発見」
「空母一隻ならびにその他艦艇約一〇隻からなる機動部隊発見」
「一隻の空母ならびに護衛艦艇八隻からなる機動部隊発見」
索敵機の報告に小沢長官はただちに米艦隊への攻撃を命じる。
敵空母はすでにこちらに向けて攻撃隊を発進をさせているはずだから、一刻の猶予も無い。
六隻の空母から各一個中隊合わせて五四機の零戦と誘導任務にあたる二機の一三試艦爆が第一次攻撃隊として出撃していく。
もちろん、これらは戦闘機掃討にあたる。
やや遅れて「瑞鶴」と「翔鶴」からそれぞれ零戦九機に九九艦爆一八機それに九七艦攻一二機、「飛龍」と「隼鷹」からそれぞれ零戦九機に九九艦爆九機それに九七艦攻一二機の合わせて一三八機からなる第二次攻撃隊もまた第一次攻撃隊の後を追うようにして慌ただしく飛行甲板を蹴っていった。
「最悪の状況からようやく一歩前進、ここから反撃といったところですかな」
すべての攻撃隊の出撃を見送った山田参謀長が心底ほっとしたような表情で小沢長官をみやる。
誰もそのことを口にはしないが、しかし飛行甲板や格納庫にガソリンや爆弾を満載した艦上機があるうちは、それこそ気が気ではないのだ。
「そうだな。しかし、索敵戦で後れを取ることがこれほどまでに心臓に悪いこととは思わなかった。戦うべき敵の姿が見えないということがどれほど恐ろしいことなのか、今回の件で思い知ったよ」
小沢長官もまた苦い笑顔を見せるが、しかしそれも一瞬。
表情を引き締め直し部下たちに注意喚起する。
「敵は重爆に飛行艇、それに艦上機とあらゆる手段を用いて第三艦隊を叩きにかかってくるだろう。見張りを厳とし、電探に異変があればすぐに知らせろ。それと、潜水艦への注意も怠るな。
どうやら米軍は我々が想像する以上に重厚な罠を仕掛けているようだ。くれぐれも油断するな」
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