第53話 航空追撃

 甲部隊の三隻の正規空母はすべて撃破され、そのうち「飛龍」は復旧の見込みがたたず総員退艦後に撃沈処分されている。

 米機動部隊に向かった第一次攻撃隊と第二次攻撃隊も合わせて三割近くが未帰還となり、指揮官である村田少佐も帰らなかった。


 一方で、こちらは二隻あった「ヨークタウン」級、そのいずれかは「ワスプ」の誤認ではあるのだが、そのうち「瑞鶴」隊が攻撃したものは魚雷二本、「飛龍」隊ならびに「隼鷹」隊が攻撃したものは五本の魚雷を命中させている。

 五本の魚雷を食らったほうの空母は大炎上しているうえに傾斜も激しく撃沈は確実と思われた。

 残る「レンジャー」については「翔鶴」隊が魚雷を二本命中させたものの、致命傷とまではいかなかったようで、這うような速度で南へと避退を続けている。


 「『隼鷹』ならびに『飛鷹』に着艦した九九艦爆と九七艦攻のうち、即時再使用可能な機体は所属にかかわらずそのすべてを出せ。

 『瑞鳳』は防空に専念させよ。撃破した二隻の空母のうち、少なくとも一隻は確実に仕留める」


 乙部隊の角田司令官はそう言って攻撃隊の出撃準備を急がせる。

 今日の午前中の戦いで第三艦隊は三隻の米空母のうちの一隻に決定的ダメージを与え、残る二隻についても深手を負わせた。

 今のところ戦果と損害はイーブンだが、しかし制空権を獲得したことでガダルカナル島の奪還はほぼ手中にしたのも同然だから勝ち戦なのは間違いない。

 しかし、日米の国力や工業力の差を考えればイーブンとも言える空母の損害はむしろ敗北に等しい。

 こちらが「飛龍」を沈められたのであれば、最低でも二隻は道連れにしておかないととてもではないが割に合わなかった。


 角田司令官の意を受けた第三次攻撃隊が発進したのは午後も遅くになってからだった。

 「隼鷹」から零戦六機に九九艦爆一〇機、それに九七艦攻が同じく一〇機。

 「飛鷹」からは零戦六機に九九艦爆八機、それに九七艦攻が一一機の合わせて五一機。

 九九艦爆と九七艦攻は作戦開始時の三割以下にまでその数を減らしているが、それはつまりは米艦の対空砲火がそれだけ凄まじかったということだ。


 第三次攻撃隊を指揮するのは乗艦の「飛龍」を撃沈された友永大尉だった。

 友永大尉は角田司令官と違い、一隻だけでなく二隻とも撃沈するつもりだった。

 九九艦爆も九七艦攻もその搭乗員は一騎当千の手練れたちだ。

 数の少なさは命中率の高さで十分に補えると友永大尉は考えていた。


 しかし、友永大尉が発見出来たのは一隻だけだった。

 撃破された米空母は二隻だったから、発見されていない一隻はおそらく当たり所が良くてそれなりの逃げ脚を残していたのだろう。

 やむを得ず、友永大尉は発見した空母にその全戦力を投入する。

 燃料のほうは少しばかり余裕があったが、ぼやぼやしていると帰投が日没後になってしまう。

 疲労困憊している搭乗員に、さらに夜間着艦の危険を重ねるような真似はしたくなかった。


 友永大尉の攻撃命令を受け、一八機の九九艦爆が輪形陣外郭に展開する巡洋艦や駆逐艦に次々にダイブしていく。

 こちらの第二次攻撃で相応のダメージを被ったはずなのにもかかわらず、米艦から撃ち上げられる対空砲火は熾烈だった。

 たちまち二機の九九艦爆が火を噴き、さらにもう一機が抱えていた爆弾に直撃を食らったのかバラバラに吹き飛ぶ。

 しかし、残る一五機はそのまま目標上空に到達し次々に二五番を叩きつけていく。


 一〇本の水柱と五つの爆煙が立ち上るのと同時に友永大尉は直率する「隼鷹」隊を率いて空母の右舷から迫る。

 左舷からは「飛鷹」隊の一一機の九七艦攻が自分たちと同じように敵空母に肉薄しているはずだ。

 目標としたそれは小ぶりな艦橋を持つ空母だった。


 「『レンジャー』か。村田少佐の敵討ちが出来るな」


 そうつぶやきつつ、友永大尉は理想の射点へと部下たちを誘う。

 「レンジャー」は被雷のダメージが大きいのだろう、速度は上がらず回頭も鈍い。

 対空砲火は激しいが、艦がわずかに傾いているせいか精度に欠けていた。

 「レンジャー」に向かった二一機の九七艦攻のうち一機が投雷直前に撃墜されたものの、残る二〇機は魚雷の投下に成功、そのまま離脱する。

 その少し後、「レンジャー」に一〇本近い水柱が立ち上った。

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