第17話 三空母被弾

 第一次攻撃隊と第二次攻撃隊が太平洋艦隊を攻撃していた頃、第一航空艦隊もまた米機動部隊が放った艦上機による空襲を受けていた。

 米艦上機群が一航艦に来襲した時点で「赤城」と「加賀」、それに「蒼龍」と「飛龍」にはそれぞれ六機の零戦が直掩機として上空にあり、また『龍驤』の一八機の九六艦戦のうちの九機もまた同様だった。

 さらに「龍驤」飛行甲板で即応待機状態にあった九機の九六艦戦も緊急発進する。


 最初に攻撃してきたのは一四機のTBDデバステーター雷撃機とそれを守る九機のF4Fワイルドキャット戦闘機からなる「エンタープライズ」隊だった。

 空母部隊指揮官のハルゼー提督は出撃前、戦闘機の搭乗員に対し、新型で動きが軽快なSBDドーントレス急降下爆撃機よりも旧式で鈍重なTBDを手厚く守るよう命令していた。

 F4Fの搭乗員らはそれを忠実に遵守し、一航艦上空までTBDをエスコートしてきたのだ。


 一四機のTBDは旗艦「赤城」を狙ってきた。

 一航艦の中でとびぬけて巨大なボリュームを持つ「赤城」と「加賀」はとにかく目立つ。

 母艦を守るため、「赤城」隊の六機の零戦がTBDに急迫する。

 それを護衛のF4Fが阻止する。

 F4Fのおかげでそのまま「赤城」への雷撃コースに乗るかと思われた一四機のTBDは、だがしかし助っ人として参上した「蒼龍」戦闘機隊に食らいつかれる。

 「蒼龍」隊の六機の零戦は腹に重量物の魚雷を抱えて動きの鈍くなったTBDに二〇ミリ弾を面白いように撃ち込んでいく。


 その頃にはわずかに遅れてやってきた「レキシントン」隊もまた零戦と九六艦戦にまとわりつかれる。

 「加賀」を狙った一三機のTBDに対し、母艦を守るべく「加賀」隊の六機の零戦が迎え撃つ。

 そこへTBDの用心棒として同道していた九機のF2Aバファロー戦闘機が零戦に挑む。

 用心棒のF2Aが「加賀」零戦隊に拘束されている間に「龍驤」隊の半数、九機の九六艦戦がTBDに群がる。

 零戦と違い七・七ミリの豆鉄砲しか持ち合わせていない九六艦戦だが、それでも至近距離まで肉薄して大量の銃弾を撃ち込めばTBDを仕留めることは可能だ。


 最後に遅れてやってきた「サラトガ」隊もまた「エンタープライズ」隊や「レキシントン」隊と同じ運命をたどる。

 護衛のF4Fを「飛龍」零戦隊によって引き剥がされ、裸になったTBDに「龍驤」隊の残り半数の九六艦戦が食らいつき次々に平らげていった。


 各空母の戦闘機隊が戦果を挙げる一方で、そのいずれの機体も雷撃機に対処したために低空を飛行していた。

 そこへ「レキシントン」から発進した二七機のSBDドーントレス急降下爆撃機が一航艦上空に侵入してくる。

 一航艦の各艦は対空砲火を撃ち上げ、零戦が急上昇をかけるが間に合わない。

 二七機のSBDドーントレスは二隻ある巨大空母のうち、先頭を行く艦に狙いを定める。


 狙われたのは旗艦「赤城」だった。

 「赤城」は一二センチ高角砲や二五ミリ機銃を撃ちまくるが一向に命中しない。

 その下手な射撃を嘲笑うかのようにSBDが次々に翼をひるがえし急降下に遷移する。

 「赤城」の長谷川艦長は必死の操艦によって爆弾を回避しようとするが、三〇機近い急降下爆撃機の精密爆撃をすべて躱しきるのは神技をもってしても不可能だ。

 「赤城」の飛行甲板に一〇〇〇ポンド爆弾が次々に吸い込まれていき、五発を被弾した同艦は炎上する。


 「レキシントン」隊にわずかに遅れてやってきたのは「エンタープライズ」隊の二八機のSBDだった。

 彼らは「赤城」と並ぶ大型空母の「加賀」に狙いをつける。

 「赤城」に比べて新しい対空火器を装備する「加賀」だが、それをもってしても全然当たらない。

 早々に対空砲火に見切りをつけた「加賀」の岡田艦長は回避運動でSBDからの攻撃をかわそうとする。

 だが、的が大きくそのうえ空母の中では比較的劣速の「加賀」では手練れが多く含まれる「エンタープライズ」隊の攻撃を完全に躱すことなどどだい無理な話だ。

 「加賀」もまた「赤城」と同様に五発の一〇〇〇ポンド爆弾を被弾して燃え上がった。


 「レキシントン」隊ならびに「エンタープライズ」隊よりもかなり遅れてやってきた「サラトガ」隊が上空に現れた時には少なくない零戦が迎撃高度にまで達していた。

 零戦の姿を見た「サラトガ」隊の二七機のSBDは狙うべき空母を物色する余裕もなく、最も近くにあった空母に避退を兼ねた急降下爆撃を敢行する。

 「サラトガ」隊に狙われたのは「龍驤」だった。

 「龍驤」は的が小さく、そのうえSBDは零戦の阻止行動によって慌てて投弾したことからその分だけ命中率は低下した。

 それでも「龍驤」には三発が命中、一万トンそこそこの空母には耐えがたい打撃となった。


 「赤城」と「加賀」それに「龍驤」を撃破したSBDは用が済んだとばかりに避退に入る。

 母艦を傷つけられ逆上した零戦がSBDに追いすがり機銃を撃ちかける。

 だが、すでにTBDやあるいは護衛のF4FならびにF2Aとの戦いで二〇ミリ弾を撃ち尽くしている零戦はその多くのSBDを取り逃がした。

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