第18話 第二航空戦隊
第一航空艦隊旗艦「赤城」、それに「加賀」ならびに「龍驤」の大小合わせて三隻の空母がSBDドーントレス急降下爆撃機によって相次いで撃破される。
被弾した空母はそのいずれもが猛煙と炎を噴き上げ、さながら洋上の松明と化していた。
それを見た第二航空戦隊司令官の山口少将は一切の逡巡も無く、ただちに行動を開始する。
「我れ今より航空戦の指揮を執る」
南雲長官以下、一航艦司令部員らの安否が不明な中において航空戦の指揮を執ることが出来るのは山口司令官を置いてほかに無い。
「帰投してくる攻撃隊について、『赤城』飛行隊の機体は『飛龍』、『加賀』飛行隊のそれは『蒼龍』がこれを収容せよ」
「『龍驤』戦闘機隊については第一中隊は『飛龍』、第二中隊は『蒼龍』にそれぞれ着艦せよ」
「一八駆の『陽炎』は『赤城』、『不知火』は『加賀』、『霰』は『龍驤』の消火に協力、『霞』は周辺警戒にあたれ」
「一航艦は残余の戦力をもって米機動部隊の追撃にあたる」
一連の命令を出し終えた後、山口司令官は「蒼龍」艦長の柳本大佐に指示を出す。
「これから『蒼龍』は『加賀』、『飛龍』は『赤城』の機体も収容することになるが、とてもではないが格納庫に収まりきらないだろう。
そこで、損傷の大きな機体は構わんからどんどん海中に投棄してくれ。
発着機部員だけでは手が足りんから、事前に各部署から応援を手配しておいてもらいたい。
ただし搭乗員とそれに整備員ならびに兵器員は外してくれ。
彼らには第三次攻撃の準備に専念してもらいたいからな。
それと、『飛龍』にも同様のことを伝えておいてくれ」
柳本艦長が了解したのを確認した山口司令官は、こんどは航空参謀の鈴木中佐に向き直る。
「一航艦の残存戦力、つまりは二航戦単独で手負いの米空母にとどめを刺すことは可能か」
鈴木参謀は少し考えてから自身の考えを開陳する。
「二航戦の『蒼龍』と『飛龍』は一航戦や五航戦の空母に比べて魚雷の搭載本数が六割程度でしかありません。
戦艦や空母といった大物を食うには魚雷かあるいは大型の徹甲爆弾が必要ですが、おそらく『蒼龍』と『飛龍』の魚雷の残余はそれぞれ一〇本程度といったところでしょう。
撃破した米空母は三隻ですが、現有戦力ではそのすべてを撃沈できるかどうかについては正直、厳しいと申し上げるほかありません」
一航戦の「赤城」や「加賀」、それに五航戦の「翔鶴」や「瑞鶴」といった大型空母がおおむね四五本の航空魚雷を搭載しているのに対し、中型空母の「蒼龍」や「飛龍」はそれが二七本でしかない。
弾庫には魚雷のほかに八〇〇キロ徹甲爆弾があるが、静止目標ならともかく洋上を高速機動する空母に命中させるのは極めて困難だ。
「二兎を追う者は一兎をも得ずという諺があるが、さすがに三兎を追うのは厳しいか」
難しい顔をする山口司令官に、鈴木参謀は二航戦の戦力の限界を言葉を濁さずに話す。
「残念ですが、魚雷や爆弾の残余を考えれば『蒼龍』と『飛龍』でそれぞれ一隻ずつ狙うのが現実的かと思われます。それにしたところで確実に撃沈出来る保証はありません。
ですが、少なくとも敵空母の脚を奪うことは可能なはずです。そうなれば、鈍足の第一艦隊でも捕捉は可能でしょう。
いずれにせよ、第一次攻撃隊と第二次攻撃隊が帰投するのを待って、稼働機がどれだけ残っているのかを確認しなければなりません。通信内容を聞く限り、第一次攻撃隊も第二次攻撃隊も戦果こそ挙げたものの、一方でかなりの被害を出しているようですから」
第三次攻撃隊について話し合う山口司令官と鈴木参謀だったが、この後すぐに現実を思い知ることになった。
第一次攻撃隊と第二次攻撃隊はともに少なくない未帰還機を出し、生還した機体もその多くが被弾損傷していた。
特に九九艦爆や九七艦攻はそのほとんどが機体や翼に無残な被弾痕を残しており、米艦の対空火力の凄まじさを雄弁に物語っていた。
「蒼龍」と「飛龍」の飛行甲板では山口司令官の命令通りに被弾損傷の激しい機体は着艦するはしから海中投棄され、無傷かあるいは損傷が軽微な機体だけが格納庫に降ろされていく。
しかしその数は山口司令官や鈴木参謀が予想していたものよりも遥かに少なかった。
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