第3話 遭遇

結果からいうと僕は生きていた。


しかし、とうてい無事とは言えない状況だった。


ポッドは穴だらけで生命維持装置と救命信号発信機は完全に破壊されていたし、


右腕のケガに加えて、僕の右足の膝から下はレーザーで炭化させられていた。


低出力レーザーで無かったら、即死していただろう。


実際には、死ぬまでの時間が少し伸びただけなんだろうけど。


ポッドの気密はとうに破れ、ライフスーツの生命維持装置もあと5時間で切れる。


腕や足の状態を見る事も出来ないが、そっちも5時間も持つとは思えない。


「さすがに、もうだめか」


思わず、あきらめの言葉を発した時に、言いようの無い恐怖感がこみ上げてきた。


僕はパニックを起こしそうになっていた。


その時ポッドに衝撃があって僕は正気を取り戻した。


「なんだ?」


ポッドの裂けた壁から何か丸い物が見えた気がした。



【船外作業者資格】デブリ拾いの出番だ。


なんとか周囲の漂流物で生き残るのに使える物を探せ。


1分1秒でも長く生きる努力をしろ』


ダーナンさんの言葉を思い出した。


「人工物なのか?」僕は慌ててポッドの裂け目から出た。


ポッドを無事な左足で蹴って、丸い人工物に縋りついた。


「なんだ、これ?」ポッドの規格が直径5mの球体だから、直径で倍くらいだろうか? 黒い球体だ。


なんとなく眼球の様な形状をしている。


どこか中に入る所は無いのか? 


瞳のあたりを腕で叩いてみると、何が反応したのか瞳の部分が左右に開いて中に入れるようになった、中は真っ暗だ。



中に入ると自動的に瞳が閉まって、


気体が注入されるシューという音が聞こえてきた。


しばらくするとライフスーツのインジケーターが緑に変わった。


どうやら中は呼吸可能なようだ。


ライフスーツのヘルメットを外す。


「いったい、これは何なんだ?」呟くと球体の中に明りが点いた。


頭の中に直接イメージが届く


≪私は、ソルコアイト文明のメンテナンスユニット 名称はメルク ≫


「メンテナンスユニット? ケガなんかの治療は?」


≪ソルコアイト文明に作られた機器の修復のみが可能 ≫


「・・・・・だよね」


そう上手くは行かないか


「なんで、開いたんだろう?」


≪私の使用者登録オーナーが未設定だったため、君の血液DNAが生体情報として

 新規登録された模様 ≫


僕は血まみれの右腕を見た。

「こんな物でも役に立つんだな」


≪現在の使用者権限は君に移譲されている、個人名の登録を求める ≫


「アースライ・グランクラフト」


≪アースライ・グランクラフト 登録完了 ≫


「ところでメルク、ここの空気はどれくらい持つの?」


≪およそ3時間で生命維持に支障が出ると予想される ≫


「それじゃあ、もうすぐ死んでしまう僕が登録したのは不味かったかな?」


≪問題ない、私が可能なのはソルコアイトが作った物を修復する事のみ ≫


「近くに何か修復できる物は無いの?」


≪浮遊物1点が修復可能 ≫


「じゃあ、折角だから修復して見せてよ」


≪了解した、クリサリスの修復に取り掛かる ≫


瞳から七色の光がでて、近くに在った小さな破片の様な物に当たる。


≪クリサリスの修復開始 ≫


30分ほど光を当て続けて、そこに現れたのは30cmほどの大きさの

白い昆虫のさなぎの様な形状をした物が現れた。


「何、これ?」


《私を修復したのは、あなたですか? 》

その物体から逆にイメージが送られてきた。


なんだろう、送られて来るイメージが、メルクよりは丁寧な印象だな。


「確かにメルクに修復を指示オーダーしたのは僕だけど、君が何なのかは分からないよ」


《私はクリサリス、環境適応ユニットです 》


「環境適応ユニット? すまないけど説明を頼む」


《あなたのイメージ内で一番近いのは、今着用されているライフスーツですね》


「なるほど、でもここの空気も間もなく無くなるし、


僕の着ているライフスーツもあと5時間が限界なんだ、


おそらく僕は死んでしまうだろう。


君は自分で動けるのかな? 


それなら今のうちにここから出してあげるよ」


《私自身では動けませんが、私を使用すれば10000時間程度の生命維持は可能ですが? 》


「10000時間? ウチの星だと500日か? 人間は、呼吸だけが確保できても10000時間の生命維持は不可能だと思うんだけど、どうやるの?」


《はい、呼吸だけでなく、生命維持に必要とする元素補給と代謝コントロールも代行可能です 》


「あと5時間で死ぬよりはいいか。どうしたら君を使用できるのかな?」


すると、蛹の表面に赤い光の珠が浮かび上がる。

《この感応核に触れてください、装着が開始されます 》


赤い光珠に触れると、さなぎが開いてアースライの全身に張り付いた。


「僕は、どうなったんだ?」


《今、外装イメージを送りますね 》


イメージが送られてきた。


今、僕は全身をつなぎ目の無い白い光沢のある物質で覆われていた。


額と手の甲と足の甲の部分に赤い珠が埋め込まれている。


右腕と右足の痛みが消えた。呼吸も問題ない、体調にも不調は感じない。


《現在、マスターの生命維持を優先中です。


スキャンと適合は30時間後に完了します》


「生き残れたのか」


《はい、生命維持に問題はありません。


ですがマスターのメンタル疲弊値がかなり高くなっています。


これから10時間程度の睡眠による休息と脳内最適化処理を推奨します 》


「眠れって事か? でも神経が高ぶって眠れそうに無いんだけど」


《私の方で強制的に睡眠状態にする事が可能ですが? 》


「ごめん、それでお願い」


《了解しました、マスター。おやすみなさい 》


おそらく10時間後なんだろう、僕は目を覚ました。


《マスター、おはようございます 》


「おはよう、君の事は何と呼べばいいのかな?」


《どうか、マスターに命名をお願いします 》


赤い珠がキレイだな


ルジュかな」

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