第27話 リンカー

【シルキスタ格納庫】


ミーシアさんの前に修復が完了したクリサリスが置いてある。


「ミーシアさん、クリサリスの説明いるかな?」


「今まで色々対策したけどのは見てきました。

 私と同じ姿のクリサリスが裸でアースライさんに抱き着くまでは

 理解しているけど、後は何かあったかな?」


「それで十分だよ、理解してくれてうれしいな」


「みんな理解はできても納得は出来て無いと思うよ」


「的確な指摘だね。ルジュ頼む」


『はい』


クリサリスの表面に薄桃色の珠が現れた。


「この感応核に触れるとクリサリスの装着が始まる。スキャンと適応に20時間」


「ええ、わかっているわ」


ミーシアは感応核に触れた。ミーシアの全身がクリサリスに覆われて

額と手足の甲に薄桃色の珠が現れる。


「意外と普通ね」


「それでも、その状態なら宇宙空間であっても1年以上生命維持が可能だからね。

 万が一漂流するような事態になっても大丈夫だよ」



「それを聞くと絶対に必要な装備ですね」


「メルク、リンカーの調整には、このクリサリスの適合が完了して

 名前を付け終わってからの方がいいよね?」


≪そうだな、万が一解除しないといけない状態にならないとも限らない。

 せめて適合完了と【装】【解】【現】の経験はしておいてもらおうか≫


「わかった、リンカーはその後にしよう」




そして20時間後・・・・・


ミーシアがクリサリスを解除する。


「【解】」


『マスター』ミーシアさんのクリサリスが裸で僕に抱き着く


「ルジェ、服を着せて」


『了解』


ミーシアのクリサリスはチェリム《桜色》と名付けられた。




【機動衛星格納庫メルク前】


メルクの前に全員がクリサリスを装着した状態で集まった。


僕、アリシア、エルネシアさん、カレナさん、メイ王女、セシリアさん、ミーシアさんの7人だ。


「メルク、リンカーの準備はいいかな?」


≪大丈夫だ、リンカーの内部情報も確認したが通常の会議室ルームだった。

 ソルコアイト文明圏のネレーデスという人型種族が使用していたようだ。

 比較的温厚な種族だったと記憶している≫


「それなら心配いらないか」


≪ああ、7人で仮想空間バーチャル会議室ルームに入ってもらって、

 その間にクリサリス同士のリンクを強化して固定する。

君達には、しばらく仮想空間の会議室で待っていてもらう事になるだろうな≫


「そうか、それなら危険は無さそうだな」


≪それでは、アースライから順に会議室ルームに誘導する≫


「ああ、頼む」




【仮想空間会議室】


僕は仮の肉体アバターを得て真っ白い大きな部屋の中に立っているようだ。


あれ? 動けない。


「メルク、会議室に入れたけど動けないみたいだ。何かあったかな?」


≪おかしいな? 会議室の設定だろうか?≫


アリシアが会議室に入って来た・・・・・・・はだか?


「メルク、おかしい。アリシア(のアバター)が服を着ていない」


「アースライ、なんであなた裸なの。しかも動けないし」


「メルク、止める事は可能なのか?」


エルネシアさんが入って来た・・・・やはり裸だ。


「アリシア、アースライ君なんて恰好してるの? 


 あれ動けない。まさか私も裸なの?」


「え? 姉さま。私も裸なの? アースライ止めて。お願い」


「ごめんね、アリシア。僕も動けないみたいだ」


会議室の中の状況はカオスになって来た。


カレナさんが入って来た。


メイ王女が入って来た。


セシリアさんが入って来た。


ミーシアさんが入って来た。


「私、もう全部見れらちゃった」「騎士様、見ないで」「ダメ、お願い」「アースライさん責任とってくださいね」


そして、もう誰もいないはずなのに。が会議室に入って来た。


「ちょっと待って、メルク。もう誰も居ないだろ。誰が入って来るんだ?」


≪どうやら近くにクリサリスを装着した者が居た様だ≫


「近くって? いったい、どこにいたんだ?」


≪ブランシェのコクーンの中だな≫


僕は頭を抱えたくなった(動けないんだが)


「それは、さすがに想定外だぞ」


脳裏にあの赤い異形の種族がよぎった、誰かが会議室に入って来る。


「黒い・・・・うさぎの女の子?」


黒い髪で頭頂にも黒いうさぎの耳が生えている。


手の肘から先と膝から下も密集した黒い毛で覆われていて、


お尻に黒くて丸い尻尾がある。


もちろん衣服はつけておらず白い肌も小さな胸も全て見えている。


何故か体の輪郭にノイズが入っているがどうしたんだろう?



「メルク、8人目の様子がおかしい。アバターの輪郭にノイズが入っている」


≪どうやら、このクリサリスは装着者の意識だけでも救おうとして、

 自分の記憶領域を使用したようだ。

 装着者とクリサリスの自我境界が曖昧になっているな。

 元はライビ種族のようだが、この状態では、

 もう人と呼んで良いのかわからない≫


「そうか、それでも諦めなかったんだな。君、自分の名前はわかるかな?」


少女は、こちらをじっと見ている。言葉は通じて無いのかな。


少女は一言だけ『ノーチェ』とつぶやいた。


「ノーチェか、いい名前だね」


少女はそれを聞いてニッコリと笑った。


「ちゃんと身体が治ったらまた会おうね」




しかし、その隣で。


「アースライ、ダメダメダメ」「これは違うの、これは絶対違うの」「エルメシア意識をしっかり持つの考えるのを辞めちゃダメ」「やめて、そこは触らせたらダメ」「騎士様、騎士様、騎士様」


僕はそこから目を逸らして、忘れようと心に誓った。


≪マスター、今会議室から解放する≫メルクの声が虚しく響いた。




今、僕は現実のメルクの前に居る。


僕の傍にはアリシアとミーシアが居るが、


2人とも何故かクリサリスを装着したままだ。


メイ王女はエルメシアさんに連れられてシルキスタに帰った。


カレナさんもセシリアさんもそれぞれシルキスタに帰っていった。


「メルク、なんだったんだ? 」


≪まず、会議室についてなんだが。すまない、ネレーデスという種族は


 同じ種族内では衣服を着用せず、自分の肉体を誇示する習慣があったようだ≫


「なぜ動けなかったんだ?」


の設定が未登録になっていたようだな≫


故郷の兄貴が趣味でやっていたボディビルを思い出した。


「つまり僕たちは、ヘタすれば全裸でポージングしてたのか」


≪それと、困った事が起きてしまった≫


「みんなの様子が変だったのは、それ?」


≪ああ、クリサリスとの自我境界が曖昧な、あの娘が入った事で、

 本来なら装着者の思考や感情がクリサリスに伝わるいわゆる一方通行なんだが、

 その情報がリンカーを通じて逆流した≫


「どういう事か、よくわからないんだが?」


≪つまり、クリサリス達が、君に行った行動を感情と一緒に追体験したわけだな≫


僕は思わずアリシアとミーシアの方を見た。


アリシアはサイファを解除して。


「正直、かなりキツイわよ。

 自分と同じ身体で追体験するわけだから違和感は全く無い上に

 クリサリスの感情まで伴うんだから。

 みんな、この感覚を忘れるまでアースライの顔が見れないんじゃないかな?」


ミーシアもチェリムを解除して


「日常のクリサリスの感じている不安感まで再現してました。

 それに加えて朝の記憶も、実際に体験していないチェリムまで

 記憶を共有してましたね。

 一番違和感が無いのは自分のクリサリスの体験でしょうが、

 他のクリサリスの体験も強烈ですね」


「・・・つまり?」


「当分、部屋に引きこもるくらい強烈な体験を強制的に受けさせられたから、

みんな出てこないわよ」


「救いだったのは、アースライさんが、誰にも手を出して無かったことですね。

もし手を出していて、それを追体験させられたら間違いなく刺されてましたよ」


「しかし、次から次へと大きな問題が起きるわね、アースライ」


「みんなに、どうやって謝ったら良いかな?」


「絶対にやめなさい。謝られたら、それこそ二度と口を効いてくれなくなるわよ。

 それと、あの兎の女の子どうするの?」


「まずは、回復してもらわないと。まだ何も考えて無いよ」


「連邦内の人類なんて地域差で体色が変わる程度の単一種よ、

 こんな可愛らしい種族を見せたら大騒ぎになるでしょうね」


「まあ、それはノーチェが回復してから考えよう。

 今はどうやって許してもらうかだね」




【シルキスタ船室】


ここはエルメシアが使っている船室。


現在はエルメシア、メイ、カレナ、セシリアが揃っていた。


メイだけはエルメシアに抱かれたままニコニコしている。


エルメシアが震える声で話し始めた


「みんな、落ち着いて聞いてね。

さっきのはクリサリスの記憶と感情の追体験で、私たちの記憶でも体験でも無いの。

これだけは間違えないでね?」


「ごめん、姉さま。しばらくというか、復帰できる自信は無いわ。

 それよりメイこそ大丈夫なの? この娘、完全に受け入れてしまっているわよ」


「もともと、アリシアに対抗してアースライ君に付きまとってたからね。

 今回のが決定的になってなければいいけど」


「私、今度はカナリーと一緒に騎士様のベッドに行くの」


「メイ殿下、絶対にダメです。正気になってください」


「2人じゃダメ? じゃあ、セシィも一緒に行くの?」


「違います、ベッドに行くのがダメです」


「みんな、一緒にベッドにいたよ」


「あれはクリサリスの記憶です、エルメシア様もカレナ様もメイ様も、

もちろん私も一緒にベッドには行っていません」


「アリシア姉さまは?」


「わかりませんが、アリシア様は婚約者ですから問題ありません」


「だったら、私も騎士様のベッドに行くの」


「ダメです、エルメシア様、カレナ様もメイ様を止めて下さい」


「ゴメンね、セシィ。今は、メイのやる事を肯定しようとするから無理なのよ」


「エルメシアさま、正気になってください。カレナ様、止めてください」


「ごめんなさい、セシィ。料理の事を考えて誤魔化しているけど、

 あの強烈なヴィオラの感情は耐えられないの。

 しかもあの娘、裸でアースライ君になんて事をしてるのよ」


「やめて、カレナ。その事は思い出させないで。感触が、感触が」


「エルメシア様、カレナ様、忘れましょう。でもなんでアリシア様は兎も角

 ミーシアさんが平気なんでしょうか」


「だめよ、セシィ。アリシアもミーシアもアースライ君の事を

 全面的に受け入れちゃっているんだから。私達とはちがうのよ」

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