第9話 遺跡文明

そうして、先に軌道上のシルキスタに戻って来た僕とアリシアだったが。


驚くほどの速さで小型宇宙船が軌道上に上がって来た。


シルキスタの格納庫に入って来た小型宇宙船から何故か3人の人物が降りてきた。


第1王女と第2王女と・・・・第4王女か?


「メイも来たんだ」


「うん、ついてきた」


第2王女と第4王女が興味深そうに艦内を見ながら話をしている。


「第1王女、クリサリスを装着すると全身のスキャンと適応のため

 一定時間外れませんし飲食も出来なくなりますが大丈夫ですか?」


「分かったわ、どの位の時間かしら?」


「僕もアリシアも生命維持を優先させたので、ルジェ、健康な人の場合は

 適応するのにどの位の時間がかかるのかな?」


『通常だと20時間程です』


「だそうです」


「その間、呼吸も栄養補給も大丈夫なのよね?」


「はい、全てクリサリス側で行います」


「わかった、やるわ」


「じゃあ、シルキスタ。クリサリスを出してくれるかな?」


『了解です、マスター』


床にクリサリスが出てきて、クリサリスの表面に紫の珠が浮かび上がった。


「この感応核に触れれば装着がはじまります」


「わかったわ」


その時、何も聞いていなかった第2王女が、横からクリサリスに手を伸ばした。


「何これ?」「あっ」「えっ」「うそっ」


不用意に感応核に触れた第2王女をクリサリスが包み込む・・・


第2王女の全身が白いクリサリスに覆われて額と手の甲と足の甲に


紫色の珠が現れた。


「カレナ、あなたなんて事をするの」


「ごめん姉さん、これ何?」


「遺跡文明のライフスーツよ」


「へえ、これが」


第2王女はクリサリスに包まれた自分の手を見ながらも、

相変わらずのマイペースだ。


「アースライ君、もう無いよね」


「はい、見つけたのはこれが最後です」


「カレナ~~~~」


「ごめん姉さん、次はフードクリエイターに行こう」


「あの・・・・・第2王女。非常に言いにくいんですが」


「何かなアースライ君」


 僕は現実を突きつけてあげた。

「これから20時間、飲食出来ませんよ」


「え? 解除は?」


「20時間後ですね。残念です。」


「フードクリエイターは?」


「使っても食べれませんが?・・・・残念です。」


第1王女がこちらを探るよう見ながら


「どこかで手に入るのかしら?」


「僕もアリシアも宇宙空間に漂流していた物を見つけて修復して使っています、

 また手に入る可能性はあると思いますが」


「わかったわ、これから一緒に探しに行きましょう」


とんでもない事を言い出したぞ。


「姉さん待ってください。お仕事はどうするのですか?」アリシアが止めに入る


「大丈夫よ、きっとお仕事にも関係するから」


「いくら宇宙開発関連事業といっても、お姉様が居なくなったら

 周囲の人間がパニックになりますよ」


「すこしくらい居なくても大丈夫よ、

 それにアースライ君も中型艦船の操作資格を持っておく必要があるわよね?

 私は宇宙船関連資格審査の担当責任者だから全部教えられるわよ」


「それは、ありがたいな」と僕は口にだしてしまった。


第1王女は当初の穏やかさを微塵も感じさせないキッパリとした口調で


「それじゃ決まりね」


「私もついていくわよ。このままじゃフードクリエイターを試せないじゃない」


今度はシルキスタを纏ったままの第2王女が騒ぎ出した。


「カレナ姉様が居なくなったら、食品流通分野全般に問題が出て、

 エレネシア姉様以上に周囲が迷惑しますよ」


「大丈夫よ新しい味の為なら、みんな納得してくれるわ」


「納得はしますが、大混乱は避けられません」


「というわけで、私も乗せてもらうわね」


マイペースな第2王女だ。


そんな話をしている時にルジュが


「アリシアさんの下半身の修復が完了したようです。クリサリスの完全解除が

 可能になりましたが、どうしますか?」

と声を掛けて来た。


それを聞いたアリシアは深く考えずに「じゃあ、解除してみて」と答えていた。


僕の目の前で、アリシアのクリサリスが解除され・・・


彼女の下半身は炭化していたので、そこに衣類着るモノは残っていなかった。


アリシアは僕の視線に気が付いて、下を向いて

自分が下半身に何も着ていない事に、ようやく気が付いた。


「ひゃぁうっ」意味不明の言葉を発してアリシアがうずくまる。


僕も目を背けようとして、アリシアの後ろに何か青い物を見つけた。


そこには金髪が青に変わった姿のアリシアが全裸で立っていた。


「「「「え?」」」」


3人の王女ものアリシアを見ている。


アリシアが、その視線に気が付いて後ろを振り返った。


「・・・・・・・」


声が出ないようだ、再び僕の方を見たその目に涙が浮かんできた。


青い髪のアリシアが微笑みを浮かべながら

軽い足取りで僕に近づいて来て


『マスター』


と僕に抱き着いた。


「ルジュ、アリシアのクリサリスに服を着せてくれないか?」


『了解』


青い髪のアリシアがライフスーツ姿になった。


僕は第1王女に

「すみません、アリシアの服お願いします」と言って格納庫の外にでた。


・・・青い髪のアリシアを抱きつかせたままで。


格納庫の中から「アースライ、もう入ってきて大丈夫よ」


とアリシアに声を掛けられた。


中には衣服を整えて顔を赤くしたアリシアが居た。


「ルジュ、教えてくれ。どうしてアリシアのクリサリスは本人と同じ姿に

 なったんだ?」


「どうやら大規模修復を行った時に遺伝子情報だけでなく身体形状まで

 コピーしてしまったようです」


「外装変更が出来るんだったっけ?」


「・・・完全に固定されています」


「アリシア、呼び名をどうする?」


「うん、ちょっと本人と話してみるね」


2人のアリシアが話し合っている。


しばらく2人で話し合った後こちらにやってきた。


「この娘の名前はサイファ、よろしくね」


「サイファですマスター」


「えっと・・・・なんで僕がマスター?」


「所有者登録です。 クリサリス修復時に修復者がマスター登録されています。

 装着者はパートナーとして登録されます」


色々と問題があったが、僕は4人の王女を制御室に案内した。


「シルキスタ、船の説明を頼む」


『はいマスター。このシルキスタはソルコアイト文明の中型戦闘艦です。

 特殊連装型8号転移装置を装備しており4号転移装置を相互に使用する事で

 連続転移が可能です』


「ちょっと待って、連続転移って?」


『この艦のメインジェネレーターは転移起動装置の急速充填が可能です。

 これにより4号転移装置2台に急速充填を行い見かけ上10分程度の待機時間で

 連続転移を行います』


「ジェネレーターの情報開示と転移装置の情報開示は可能なの?」


『禁止事項に設定されており不可能です』


「そうなの? それじゃあ、この艦の主力火器と固定兵装は何かな?」


『この艦に主力火器はエリアガンが相当するかと思われます。

 固定兵装は存在しません』


「固定兵装が無い? エリアガンというのは主力火器なら固定兵装では無いの?」


『エリアガンは発射時のみ砲身を作り出しますので艦に固定されておりません』


「カーモンド・ファミリー相手には使用しなかったの?」


『マスターからのオーダーが推進装置の破壊でしたので、

 殲滅兵器であるエリアガンは使用しませんでした。

 汎用攻撃兵器グラベルで対処しました』


「汎用攻撃兵器で大型艦を破壊したの?」


『グラベルで対処可能な目標でした』


「えっと、これだけ高出力のジェネレーターだったら推進剤の使用量も

 当然大きくなるわよね? 推進剤の補充頻度はどれ位になるの?」


『当艦のメインジェネレーターには現在連邦で使用されている

 ガス惑星の大気を精製した推進剤は使用されておりません』


「推進剤を使わない? それにしてもこれだけの大量エネルギー消費なんだから、

 長期間の無補給というわけにはいかないでしょう?」


『メインジェネレーターの使用目的が艦内維持と転移装置等の使用法だけだと

 仮定すると年単位で無補給航行が可能です』


「年単位の無補給航行・・・・・・」


『現在、本艦に接続されているメインジェネレーターは他目的に製造された物を

 接続しています。専用のジェネレーターよりは1割程度出力の低下が

 確認されます』


「これだけの高性能艦が万全では無い状態だというの」


『そうなります』


「そう、それじゃあ、この艦が他の艦との戦闘行動をする場合、

 戦闘速度や回避性能、防御システムについて知りたいのだけど?」


『防御システムは物理や光学兵器対応の6種障壁が展開されています。

 戦闘速度や回避性能については本艦の戦闘行動に特に必要とする

 性能値では無いので数値化されておりません』


「必要では無いの? ごめんなさい意味が理解できないわ」


『カーモンド・ファミリーの戦闘方法から類推しました。

 連邦所属国家の戦闘方法は主に光学兵器を双方が

 回避行動を行いながら撃ち合うようですね』


「だいたい、そうね」


『ソルコアイト文明の戦闘艦による戦闘のセオリーは自機を中心に

 ある程度の範囲を殲滅します。

 味方機は防御システムに守られているため攻撃範囲内に味方が居ても

 問題ありません』


「つまり、周囲を巻き込んで殲滅するの?」


『味方には被害は出ませんので、この方法がとられます』


その時アリシアが

「王宮から通信があったわ、10日後にアースライの騎士の叙爵式典が


行われる事が決まったそうよ」


「そうか、僕は、それまで何をすればいいのかな?」


アリシアが気まずそうに


「アースライ、すぐに王宮に帰って礼服の採寸。

 それから式典までたくさんの準備があるの。

 10日後まで何をすればいいかじゃなくて、少しでも眠る時間があるといいね」


「そんなに大変なの?」


「第4惑星だけでなく第5惑星と外惑星軌道にある中継ポートでも

 別々に式典があるはずだから、それぞれに準備が必要ね。

 それと、姉さん達も式典準備の為にすぐ帰れだって」


「うそでしょ」「そんな」「・・・・・・・」


それから20日間が、僕の人生で一番キツイ日々だったのは間違いない。

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