第10話 騎士

『星間ネットワークニュースです。


ステラファス王家、第3王女アリシア・ステラファス殿下に騎士が誕生しました。


アースライ・グランクラフトさん。


出身惑星非公開の17歳です。


議会の推薦無しに王家の騎士が決定されるのは


およそ150年ぶりだということです』


『ステラファス王家騎士誕生のニュースについて続報です。


騎士叙爵の理由が王家より発表されました。


カーモンド・ファミリー壊滅とその際に


アリシア・ステラファス殿下を救った功績ということです』


『白銀の船を駆る騎士アースライ・グランクラフトの秘密にせまる』


『白銀の騎士アースライとアリシア王女の知られざるロマンス』



【シルキスタ艦内飲食エリア】


アリシアがあきれ果てたようすだ。


「私とアースライのロマンスだって。すごいね」


「ごめん、アリシア。今僕、【中型航宙船舶責任者】の受講テキストに


集中してるので後にしてもらっていいかな?」


僕の人生で一番キツイ日々は終わったはずなのにスケジュールは一杯だった。


【船外作業者資格】以外の資格を持ってない僕にとって必要資格取得は急務だった。


【小型航宙船舶操作(大気圏)】


【小型航宙船舶操作(大気圏外】


【転移装置操作技術者(1~4号)】


【航宙航法士(星系内)】


一週間の詰め込みで僕はこれだけの資格を取得した。


【中型航宙船舶責任者】・・・今、見てるのはコレ。


試験テストはエレネシアさん(王女と呼ぶとおこられる)が担当してくれる。



この試験テストを終わらせたら、


【中型航宙船舶操作】


【転移装置操作技術者(5~8号】


【中型航宙船舶機関取扱技術者】


【航宙航法士(星系外特定航路)】


【航宙航法士(星系外全般】・・・・・


先は長い、僕の肉体の限界はとうに過ぎていて、


ルジュを装着した状態で無理矢理意識をつないでいる。


ルジュによると右足を炭にされた時よりも精神疲労は深刻らしい。



第2王女のカレナさんは、


クリサリスを手に入れた事で自由にシルキスタに来ることが出来るように


なってしまった。


シルキスタ艦内のこのフードクリエイターを設置した部屋に入り浸り


テーブルや食品保存庫、調理機器など色々な物を持ち込んで設置していった。


いつしかそこには【飲食エリア】のプレートも取付られていた。


当初は何故こんな物を持ち込む必要があるのか不明だったが、


聞いてみたらカレナさんは実演してみせてくれた。


カレナさんが調理を始める、


今作っているのはステラファスの家庭料理【ポイサルト】というイモ料理らしい。


【イモ】と聞くだけで背筋が伸びてしまうのは


僕が遺伝子にイモが入っているからだろう。


カレナさんが作った熱々の【ポイサルト】をフードクリエイターに持って行って


何か操作すると、


フードクリエイターから光が発せられて【ポイサルト】に当てられた。


カレナさんが

「ステラファス料理【ポイサルト】」と発声すると


『【ポイサルト】登録完了いたしました』とフードクリエイターから音声が出た。


フードクリエイターって喋るんだ・・・


カレナさんは、こちらに【ポイサルト】を持って来てから。


「【ポイサルト】クリエイト」と発声した。


するとフードクリエイターから小さな稼働音が聞こえて、


中から器も同じ【ポイサルト】が出てきた。


「見て、こうして料理の登録も出来るのよ。


これなら高齢になった調理人の味を後世に残す事が出来るわ。


とりあえず、呼べる調理人をここに連れてきて登録を始めるわよ」


「すみません、そうすると船が動かせなくなりますから、できればやめて頂ければ」


「却下よ、もし動かしたかったら。


この情報はコピーできるから早急にもう1つフードクリエイターを用意しなさい」


「そんな無茶な」


そんな事をしている内に、疲労が限界に来たらしい・・・


僕はとうとうルジェとシルキスタから装着禁止を言い渡されて、


自室で休む事になった。


資料も端末も全て取り上げられて、


全員から就寝を言い渡されて自室の寝台に横になった。





ルジェに意識を繋いでいたもらっていた僕は気を失うように眠ってしまったのだが、


柔らかい感触で目が覚めてしまった。


またルジェか? いやはシルキスタか?


目を開けると・・・・・・


「第2王女さま・・・・・・・・」


「あんっ・・」


だめだ、・・・耳から聞こえる甘い声とは裏腹に、


あらゆるネガティブワードが頭に浮かんで血の気が引くのを感じた。


「マスター・・・・大好き」抱き着かれた。


マスター? 部屋を暗くしてたので気が付かなかったが、


よく見ると髪の色が少し違う


「もしかして・・・君はカレナ王女のクリサリスかな?」


「はい、ヴィオラと名付けて頂きました。マスター」


「ヴィオラ、すまないが服を着て貰えないだろうか?」


「それでは、マスターの体温調節に支障が出ます」


「いやいや、シルキスタの艦内では大丈夫だろう」


「おいやでしょうか?」


「君の姿で、こんな事をしている所を見られたら、僕が国家に殺されかねないんだ」



「アースライ、そろそろ起き・・・・・・た?」


アリシアがドアを開けたまま硬直している。


「いいいやああああ~~~~~~~~~」


いかん、アリシアが騒ぎ出した


「カレナお姉さまが、アースライ取った~~~」


「アリシア、恥ずかしい事を大きな声で騒ぐのはやめて」


ああ、ドアの向こうでカレナ王女の声が聞こえる、やっぱり投獄かな?


「何を見て、そんなに騒いで・・・・・・・」


カレナ王女が寝台にいる僕と裸のヴィオラをみて硬直して・・・倒れた?


「ヴィオラ、服を着てくれるかな?」


「はい、マスター」


ヴィオラに服を着て貰って(何故か宮廷内の女官服だった)


カレナ王女の事をアリシアに頼んで、皆に飲食エリアに集まってもらった。



エルネシアさんとルジェ、シルキスタ、サイファ、ヴィオラがいる。


「すまないが、さすがにこの状況は看過できない。


ルジェとシルキスタならば目が覚めた時に傍にいても、かろうじて容認できるが。


まったく知らないクリサリスが居るのはどういうことなのか


教えてもらえないか? 」


≪マスター、原因らしきものが判明した≫


「メルクか? 何が起きているんだ?」


≪どうやら、ルジェ以外の全ての感応核が不安定になっているようだ≫


「ルジェ以外の全ての感応核が不安定? 


 原因らしきものって何が起きているんだ?」


≪ソルコアイト文明では多くの感応核がネットワークを作り出していたんだが、


それが失われた事で感応核が不安定になっているようだ。


その上、現存の感応核の全てが君がマスターになっている事で


君を中心としたネットワークが構築された形になっている ≫ 


「それが、どうしてヴィオラが寝台にくる事になるんだ?」


≪ あくまで仮のネットワークなので距離が離れたり接触が少なかったりすると


感応核が不安定になるようだ。ルジェとは24時間一緒だから安定しているが、


他の感応核が不安定になってネットワークの中心とより強固に


接触しようとしたらしい ≫


「えっと、ネットワークの中心が僕で・・・・」


≪ 強固な接触が裸での肉体接触だ ≫


「感応核のネットワークを作り直す事は出来ないの?」


≪元々数十万の感応核で作られたネットワークだったからね。


とりあえず感応核が数百あれば簡単な物は出来るかもしれないな≫


「現状はいくつだっけ?」


≪4個だな≫


「絶望的だな、せめて服を着て貰う事は出来ないだろうか?」


≪その分接触時間を増やす事になるな。


ルジェとシルキスタはともかくサイファとヴィオラは


クリサリスとして使用不可能になるだろう ≫


エルネシアさんは、何も無かったように冷静に


「つまり、クリサリスは時々アースライ君に抱き着かないと


調子が悪くなるってことね。


それで良いんじゃ無いの?」


「エルネシアさん、でもアリシアとカレナ王女と同じ姿をしてるんですよ」


「同じ姿なだけで別の存在じゃない、問題にする方がおかしいでしょう」


「アリシアもカレナ王女も嫌な気分になるでしょう」


「何よ、そんなことを言ってたら王族なんてやってられないわよ」


「僕は投獄も処刑も社会的に抹殺もされないんですね」


「王宮からは、そんな事はしないわよ。


もっともアリシアとカレナから絞殺されるかもしれないけどね」


アリシアとカレナ王女が入って来た。


「あなたたち、サイファとヴィオラは一定時間アースライ君と接触してないと


調子を崩して飛べ無くなる事がわかったけどどうする?」


「「・・・・・・・・・・・」」


「そういえば、ヴィオラの服はウチの王宮の女官服よね? 


カレナ、どうしたのコレ?」


「この服かわいいけど、私が来たら間違いなく怒られるからね。


ヴィオラに着せてみたの」


「それならいっそルジェやシルキスタとサイファもアースライの世話をする時には、


とりあえずその服にしたらどう? それなら間違いなくアリシアやカレンとは


別人だってわかるでしょ」


「ルジェ、できるかな?」


「こうでしょうか?」


ルジェの服がライフスーツから女官服に変わった。


「ほら、この格好ならアースライ君の世話をしても違和感ないでしょう」


「どうやら、僕の命は助かってみたいですね。


エルネシアさん、ありがとうございます」


「わかっているなら、早急に私の分のクリサリスを探してね」


「鋭意努力させていただきます」


そう答えて僕は手元の端末から【中型航宙船舶責任者】を呼び出した。


エレネシアさんにも休息を取るように言われているが


シルキスタで星系外に出る為には最低限必要な事なので頑張っている。


もっとも、ファーミーティアにいた頃には受けたくても受けられない講習を


受講できてる現状に文句をいうつもりも無いのだけどね。


3時間ほど経って意識を受講内容から外す、


珍しくメルクからメッセージが入ったみたいだ。


≪マスター、シルキスタが動かせないならルジュと私で、


この星系内にあるソルコアイト文明品を確保に向かわないか? ≫


「メルク、この星系内にもあるの?」


≪この恒星系内では、この惑星よりも外側第8惑星軌道と第11惑星軌道付近で


反応を見つけた。星系内を探せば他にも見つかる可能性がある≫


「確かに何が見つかるかは分からないけど確保はしておきたいね」


エルネシアさんに連絡を取る


「エルネシアさん、ちょっとこれからこの星系内のソルコアイト文明品探査に


行ってきます。シルキスタは置いていきますので、よろしくお願いします」


『アースライ君、一人で行くつもり?』


「ルジュと今船のジェネレーターやってくれているメルクと行ってきます。


メルクを取り外しますのでシルキスタは一時的ですがサブジェネレーターだけに


なります。」


「姉さま、私もサイファと一緒について行くわよ」


アリシアに聞かれていたか。


「アリシア、第8惑星軌道と第11惑星軌道付近に行くんだけど、


 いきなりサイファとの移動で大丈夫?」


「何もしないと、私もサイファも飛び方を忘れそうなの。


 絶対についていくからね。カレナ姉さまはどうする?」


「私はパス。クリエイターでする事がいっぱいあるし、


 ヴィオラもさっきまでアースライと一緒だったんだから当分は大丈夫でしょう」


「アリシア、途中で文明品の反応を見つけたら寄り道する可能性もあるんだけど


大丈夫かな?」


「もちろんよ、うっとおしい取材も全部キャンセルするわ」


アリシアもだいぶストレスが溜まっているようだ。


『わかったわ、気をつけてね。あとクリサリスを見つけたらよろしくね』


「はい、見つけたら連絡します」

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