第30話 その勇姿は心の中に

シルキスタ格納庫


ガスの飛沫に翻弄されて、ところどころ外装が凹んだアウタセルで

シルキスタに帰還した僕。


アウタセルから降りると、みんなが出迎えてくれた。


「ルジェ、【かい】」

ルジェを解除した途端、シルキスタ(子機)が腕の中に飛び込んでくる。


飛び込むタイミングを逃して、互いの顔を見合わせるアリシアとミーシアさんが

苦笑いをしている。


「シルキスタ。待っててくれて、ありがとうね」


ルジェが自分で【げん】で現れた。

『マスター、アウタセルの中のコクーンに入れてある、

 あのガス採取業者はどうします?』


「ああ、そうだ。エレネシアさん、あのガス採取業者、あれ、ちいさなだったんです。あの子、ファクマス星系政府に引き取って貰っていいですか?」


「そんな小さな子供だったの?」


「ええ、メイ王女とだと思います」


「そんな子供を、こんな危険な仕事に使うなんて、大問題よ。

 ルジェ、コクーンを出してくれる?」


『了解です』


ルジェがアウタセルに手をかざすと、中からコクーンが出てきた。


「ルジェ、コクーンを開けてくれる?」


コクーンの蓋が開くと、青みかかったグレーの髪の褐色の肌をしたが上半身を起こして周囲をキョロキョロしている・・・そして


「赤い玉の付いた、ライフスーツの人は?」

と、意外にしっかりした声で問いかけてきた。


「赤い玉? 僕の事かな?」そう答えた瞬間


「てめえが赤玉野郎か? この麦わら頭」

僕の左頬にの右こぶしがめり込んだ。


格納庫の床に倒れた僕の上に全裸のが馬乗りになって

僕の顔に左右の拳を打ち下ろし始めた。


「この宇宙海賊船団バンディッツめ、たとえ死んでも、テメエだけは道連れにしてやる」


痛い事は痛いけど、船内の軽重力との体重が軽いせいで耐えられない程では無い。


「どうしたの君? 何か勘違いしていないか?」


僕に馬乗りになって殴っていた男の子は殴り疲れたのか、

立ち上がって僕の頭を踏みつけた・・・・あれっ?


そこで、やっと、セシリアさんが止めに入ってくれた。


セシリアさんに羽交い絞めにされている、小さな


「君、だったんだ・・・ゴメンね。 セシリアさん、その子に何か着るモノをお願いします」




セシリアさんに彼女の世話を頼む


機動衛星メルクの行方は、まだ不明だ。


「アースライ君、ちょっと良いかな?」

エレネシアさんが妙に疲れた表情で現れた


「どうしました?」


「今、星系政府に確認したのだけど。さっきの女の子

・・・れっきとしたよ」


「どういう事ですか?」


男の子と間違えたのは、我ながら失敗だったけど、さすがにそれはないですよ。


「リリノ・グーシー グーシー開発の代表で、連邦標準時間で20歳になるわ」


「いやいや、そんなバカな?」


「あと、アースライ君にファクマス星系政府代表から通信が入ってるの、

制御室まで来てくれるかな?」


「メルクと一緒に言い訳を考えるはずでしたが、間に合いませんでしたね。

 今、行きます」




【リリノ・グーシー】


シャワーを浴びてすっきりした私は、ちゃんと服を着て、食事を頂いていた。


久しぶりの保存食以外の食事だ。


心に決めた報復も済ませて、気持ちもスッキリしていた。


あとは、食べるのに夢中で聞き流しそうになった、

このセシリアって人が言っていた気になるニュースの話・・・


「それで? さっき『白銀の騎士様』が殴られたって言ってたけど、

 酷い奴がいたものね、どこのニュース?」


セシリアさん? なに呆れた顔をしてるの?


「そうじゃなくて、あんたがさっき馬乗りで殴りつけて、頭を踏みつけにしてたのが

『白銀の騎士様』アースライなんだけど?」


「やだな、そんなはずないよ。『白銀の騎士様』は金髪で、もっとカッコイイし、

それに、あんなデカイ『きどうえいせい』じゃなくて白銀の宇宙船に乗ってるんだよ」


「あんたが、今、乗ってるのが、その白銀の宇宙船シルキスタなんだけど?」




シルキスタ 制御室


【アースライ】


モニターにはイクラエ代表が疲れた顔で写っている


『アースライ君、無事だったようだね?』


「まだ機動衛星の無事は確認できていませんが、遺跡文明品の巨大ガス惑星への突入は阻止できました。もう第4惑星への影響する可能性はありません」


『そうか、助かったよ。ありがとう』


「ただ、連邦代表会議での宣言を破って、この有人星系である、この場所で機動衛星の攻撃兵器を使用してしまいました。それについては申し訳ないと考えています」


『ちょうどこちらも臨時議会中だったのでね、今回の攻撃兵器使用については、ネウ・ホパリア議会は全会一致で容認すると決定したよ』


「そうですか、ありがとうございます」


『ただ、今回の件、連邦代表議会からは呼び出される可能性はあるだろうね』


「それは、しかたないですね」


『それに、あの機動衛星は、『白銀の騎士』である君と並ぶ、

 ネウ・ホパリア全ての国民にとって希望の象徴だからね

 こころから無事を願っている。何か協力出来る事があれば遠慮なく言ってくれ』


「はい、ありがとうございます」


『ところで、アースライ君。君の顔が腫れているように見えるのだが? どこか負傷でもしたのかな?』


「ええ、。イクラエ代表、心配いただいてありがとうございます」




【セシリア】


私の話をまったく聞こうとしないリリノさんを制御室まで連れてきたんだけど・・・


今、リリノさんはまばたきもせずに、じっとイクラエ代表が写っているモニターを見詰めて、そちらを指さした姿勢のままで、口をパクパクさせている。


「どうかな? 私の話、信じてもらえる?」


あっ、倒れた!


「アッシュ、【げん】」


『どうしました? セシリア?』


倒れたリリノさんを介抱しながら


「ごめん、アッシュ。リリノさんが倒れた。

 ルジェに言ってコクーン借りてきてもらえるかな?」


『すぐに、借りてきます』




【アースライ】


「シルキスタ、機動衛星メルクが見つかったって?」


『はい、今、モニターに出します』


そこに写ったのは・・・・・


外装はほとんど残っておらず、構造体の半分近くを無くして原型を留めていない機動衛星の姿だった。


「メルクと連絡はとれる?」


『呼び出しは続けていますが、まだ反応がありません』




≪・・・アースライ、待たせたな≫


「メルク、無事なの?」


≪ああ、外装のほとんどと、構造の大半を失ったが中核構造はなんとか死守できた≫


「無事で良かったよ。でも、当分は動けそうに無いね」


≪試算では、移動が可能になるのに300時間、完全修復に900時間程度は必要だな≫


「いつも思うけど。逆に、その期間で修復出来る方が驚きだよ」


≪それに、せっかく起動した恒星炉のエネルギーもとこの修復で、ほぼ使い切りそうだ≫


「こんな無茶な使い方をしたら、連結恒星炉タリスマンが必要になるのも良く分かったよ」




NNN ネウ・ホパリア・ネットワーク・ニュースです。


只今、衝撃的な映像が入ってきました。


第6惑星付近での現在の映像ですが、お分かりですか?


あれが、機動衛星の現在の状況です。


専門家の話では、外装のほとんどを消失しており。構造物の大半を失っています。


この機動衛星の惨状が今回の事件の大きさを物語っています。


イクラエ代表からは、騎士アースライは無事との事、


ただ、機動衛星搭載の兵器は有人星系では使用しないと宣言していたため、


第4惑星ネウ・ホパリアを護る為とはいえ、それをこの星系で使ってしまった事を


謝罪されたそうです。


専門家の予想では機動衛星の修復にはを要するだろうとのこと


ネウ・ホパリアの国民全てが、機動衛星のかつての勇姿を一刻も早く取り戻す事を願っています。


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