第2話 宇宙海賊船団

その日の深夜、僕はキャビンの指示オーダー通りB8の部屋を訪れたが、


乗客にはそんな依頼はしていないと言われてしまった。


恐らく部屋間違いだと思うがコミュで問い合わせても返事がない。


そこで、仕方なしにキャビン近くの主要船員コアクルー船室に確認に行った僕の耳に

開けっぱなしのドアから、声が漏れてくるのが聞こえた。


「船長、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ、今までだって、無事に通れた」


「ですが、推進剤ガスの節約とはいえ通常航路外をショートカットですよ。


何かあったら保険の適用外になります。


それに、軍の活動域の外ですから助けも呼べません」


「うるせえ、こんなはした金で船長なんてやってられるか。


お前だって推進剤ガスキックバック謝礼うるおってるらしいじゃないか」


「私のは小遣い程度ですよ。ばれても上に始末書程度で済みます。


安全な航路ならショートカットもしますが、この辺りは最近不味いでしょう」


「ああ? ここ5年程、この航路を通ってるが危険なんてあった事が無いぞ」


「ちょっと待ってください船長、現在いまこの星域は


カーモンドファミリーのテリトリーですよ。


まさか知ずに突っ込んだんですか?」


カーモンドファミリー? なんのことだ?




その時、船体に振動が伝わって船内に警報が響き渡る。


『現在、本船は武装集団に襲撃を受けています』とAIの艦内放送が流れる。


「武装集団の襲撃だと?」


宇宙海賊船団バンディッツだ」


「逃げるぞ」


推進装置ベクトル・ユニットに被弾、出力30%にダウン、

 即時降伏又はポッドによる脱出を推奨します』


「武装集団から、通信が入っています」「・・・つなげ」


『カーモンド・ファミリーだ【モーリタニア】制御室、すぐに推進装置ベクトル・ユニットを止めろ、


それからこの通信を艦内に流せ。しなければ攻撃を続行する』


「【モーリタニア】推進機ベクトル・ユニットを止めろ。この通信を艦内にまわせ」


『よーし、推進機ベクトル・ユニットの停止を確認した、次にAの客室のポッドをロック解除しろ、


A客からポッドで出てきて貰おうか』


「Aの客室のポッドをロック解除だ」


『こちらはカーモンド・ファミリーだ、Aの客室の方は大事なお客様だ、


安全は保障するのでポッドで出てきてくれ』


即座に10個程のポッドが出て行った。


『次はBの客室のロック解除だ』


「B客室のポッドをロック解除」


『さて、こちらはカーモンド・ファミリーだ、Bの客の安全は身代金次第だ』


数十のポッドが出て行った。


『最後は資格ライセンスを持っている奴に来てもらおうか。


 役に立たない資格者は消えてもらうからな。


 自信のある奴だけ来てくれればいいぞ』


いくつかのポッドが出て行ったが、しばらくすると


『なんだよ自信がある奴と言ってただろうが、


『あとのゴミどもは・・・・めんどうだから船ごと沈めるか?』


声の後ろで、笑い声とブーイングが起きる。


『よし貧乏人共。これから俺達の訓練に参加させてやるからありがたく思え』


音声スピーカーの向こうで大勢の馬鹿笑いが聞こえる。


『おまえらポッドで脱出しろ、逃げきれたら見逃してやるよ』


なんだよ、そもそも訓練てなんだ?


その後、船の中はパニックになった。


我先にとポッドに乗り込んでは一縷の望みをかけて船から出て行った。


しかし、ポッドが出たとたん光が貫通してポッドが爆散した。


『ばかやろう、レーザーの出力を絞れ。1発じゃ賭けにならねえだろうが』


パニックになっていた船内が一瞬で凍り付いた


『ほーら、ゴミども、ポッドを出さなかったら、今度は船の方を炙ってやるからな、

 さっさと出てこいよ』




呆然としている僕の腕を掴む人が居た


「アースライ、しっかりしろ。すぐにライフスーツを着るんだ」

「ダーナンさん」


「いいか、よく聞け。状況は最悪だ。


 俺達に選べるのはポッドを穴だらけにされて包囲を通り抜けるか、


 船に残ってあいつらの気が変わるのを祈るか、


 可能性はどちらも果てしなくゼロに近い。


 ただポッドなら1個か2個の見逃しがあるかもしれない」


ダーナンさんは僕に大きな袋を押し付けて


「この中には、ポッド外壁に使う補修材メルトがあるだけ詰めてある。


 レーザーの出力は絞っているからポッドは穴だらけになるだろうが、


 中の人間さえ無事なら補修して空気漏れは抑えられるはずだ。


 後はポッドに残った空気エアとライフスーツに残った分で生き延びて


 俺達の唯一の資格【船外作業者資格】デブリ拾いの出番だ。


 なんとか周囲の漂流物で生き残るのに使える物を探せ。


 いいな、1分1秒でも長く生きる努力をしろ」


「ダーナンさんは、どうするんですか?」


ダーナンさんはニヤリと笑って


「2機のポッドが同時に出れば、少しは生き残る可能性が上がるんじゃないか?


だから、タイミングを合わせて一緒に出ようぜ」


ダーナンさんはポケットから紙をだして。


「すまないが、故郷の連絡先だ。なんせ3000光年の彼方だからな。


お前が生き残って金持ちになったら訪ねて来てくれ。


俺が生きていたら、多分ここに帰っているからな。


それと、お前の連絡先も教えてくれ。


おれは大金持ちにならなくても行くからよろしくな」


僕は慌てて自分の故郷の連絡先を書いてダーナンさんに渡した。


ダーナンさんとポッド搭乗口でお互い最後になるだろう挨拶をする。


「じゃあな、アースライ。5分後に出るからな遅れるなよ」


「ダーナンさんも幸運を祈ります」


「バカ野郎、俺の心配なんざ10年早い、自分の幸運でも祈ってやがれ」


「幸運すぎて、大金持ちになってイシュメラーナにまで会いに行きますから、


絶対に待っててくださいね」


「おお、土産を忘れるんじゃないぞ」


そして、5分後僕とダーナンさんの乗ったポッドは別の方向に向けて出発した。





初めは何分毎かに光がポッドを貫通した。


その度に2個の補修材が無くなっていく。


正直ダーナンさんのポッドを確認する余裕も方法も無かった。


その内、しびれを切らしたのか。


ポッドの中を3条の光が貫いて爆発が起きた。


爆発のせいで意識を失っていたが、右腕の痛みで目が覚めた。


右腕に何かの破片が突き刺さって周囲に血の玉が浮いていた。


光の一つがポッドの壁に掛けてあった船外移動装置ムーブパックを貫通したみたいだ。


ライフスーツの補修テープを腕に破片ごと巻きつけて血を止めた。


血が止まったのを確認したら、左手で補修材を掴んで壁の穴を塞ぎにかかる。


赤い血の玉が、そこらじゅうに浮いている。


ポッドの覗き窓から、別のポッドが爆散するのが見えた。


あいつら遊んでやがる。


「死にたくない、やっと宇宙に出れたのに死んでたまるか」


僕は自分に言い聞かせるように、小さく呟やいた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る