第1話 宇宙へ

僕は小さな頃から広大な宇宙に憧れていた。


そう・・・夜の地平線の上に見える満天の星空に魅了されたんだ。


決して地平線の方を作っている、広大な芋畑から目を背けた訳では無いからね。


僕の名前アースライ地上で生きろグランクラフト大地に作られた者に反発したわけでは


事だけは念を押しておく。


このファンダン星系内にある農業惑星ファーミーティアの専業農家。


そこの次男として生まれた僕だったけど、


基礎教育を終えてからはどうしても、この惑星から出たかったんだ。


僕は両親と兄貴に、この1ヶ月の間、色々な手段で頼み込み


やっとの事で宇宙船関連資格の教育機関への学費を出してもらえる事になった。


「とうさん、かあさん、兄貴、それじゃあ行ってきます」


「いってこい、人に影を差し込むようなことはするなよ」

「気をつけてね、太陽の恵みがお前の上にある事を祈ってるよ」


「アースライ、宇宙生活や都会に疲れた若い女性を見つけたら、この惑星ほしを教えてあげてくれ。教えてくれ。俺のプロフィールが入ったホロカードはちゃんと10枚持ったな?」 


「わかっているよ兄貴、それが学費を出してもらう条件だからな。でも兄貴、このホロカードちょっと映像が加工し過ぎな気がするんだけど? リアルなのは持って行かなくていいのか?」


僕は兄貴スポンサーに逆らうつもりは無いが、義姉あねになるかもしれない人を騙すのも避けたい。兄貴は少し考えてから、1枚のホロカードを取り出した。映像を確認すると、僕とは真逆のマッチョな兄貴の映像が現れた。


「アースライ、頼むぞ。お前だけが頼りなんだ」


「いや、兄貴だって、まだ20歳だろう、なんで結婚に関してそこまで深刻になってるんだ?」


「この辺の跡取りは大体まだ独身なんだぞ、年功序列でお見合いや紹介を待ってたら10000人待ちだ、このままだと俺に見合いの話が来るのが30代半ば。

俺には死活問題なんだよ」


「わかったよ、良い人を見つけたら必ず兄貴を紹介するよ」


「弟よ、くれぐれも・・・・くれぐれも頼んだぞ」


僕が考えているよりずっと、この惑星ファーミーティアの嫁不足は深刻なようだ。





そうして、意気揚々と故郷を出発した僕だったけど・・・・・


ファーミーティア中央にコネも無ければ金も無い僕に受講出来たのは

【船外作業者資格】通称『デブリ拾い』だけだった。





それでもこうして宇宙に関する資格を無事取得した僕は、今度は就職先を探し回ってそれこそファーミーティア中を動いて探し回った。


その努力の結果、やっと見つけたのは中型貨客船【モーリタニア】の見習い保守作業員だった。


船歴が1世紀100年を軽く越えているこの船でも、


僕にとっては初めて乗る宇宙船だ、


船に乗り込んで保守作業員用のタコ部屋に私物を放り込むと


出航の瞬間をワクワクしながら待ちわびていた・・・・


『新入り、C38のベッドが壊れた交換に向かえ』


作業服の襟元に取り付けられた船内コミュから指示がきた。


僕には出航を待ちわびるような余裕は無かったようだ。


『新入り、復唱はどうした』


「了解、アースライ、C38に向かいます」


C38に到着する。規定通りノックをしてドアを開ける。


「失礼します、ベッドの交換に参りました」

「遅せえぞ、バカ野郎、いったいいつまで待たせるつもりだ。

こっちは金払って乗ってるんだぞさっさとしろ」


「すみません、すぐ交換します」

「なんだと、それが謝罪する態度か。俺を誰だと思ってやがる、俺はな・・・」


 長いぞ、やっと話が終わってベッドを持って部屋から出る、

 船内は0.5Gに設定されているとはいえ、ベッドは大きくて非常に持ちにくい。


『新入り、ベッドの交換にいつまでかかっている』


「すみません、C38のお客様のお話しが終わらなくて」


『Cの客に時間を掛けるな。営業効率を考えろ』


数年後には博物館か廃船置き場にあるはずのこの船でも


客室はA・B・Cに分類されていて


船長たちはAとBの客に気を使っていた。

「了解」


『取り換えが終わったら、次はC22のドアが閉まらない。ダーナンと一緒に、そっちに向かえ』


「ベッドを持って行ってから、向かいます」


『早くしないと、次の指示オーダーが行くぞ、急げ新入り』


「了解」


気が付けば、出航したのは5時間も前の事だった。


そんな、船内の雑用と修理ばかりの日々が3日続き、

僕の身体には疲労が溜まっていた。


「アースライ、3分休憩だ。呼吸を整えろ」


「ですがダーナンさん、次の指示オーダーが入ってます」


僕はダーナンさんというと組む事が多くて、色々教えてもらっていた。


ダーナンさんは自分の唇に人差し指を立てて、僕を黙らせてから


「キャビン、こちらダーナンとアースライだB4の乗客から説明を求められれた。

対応の為少し遅れる」


『了解した、そちらへの指示の入力を一時停止する』


「そうしてくれ」


そう言って、ダーナンさんは親指を立てた。


腰の袋から水のボトルを2本取り出して1本をくれた。


「ありがとうございます。ダーナンさん」


礼を言ってボトルに口をつけた。


「アースライは初めての仕事がこれだろう? そんなに神経を張り詰めたままじゃもたないぞ」


「きついですね」


「お前も【船外作業者資格】デブリ拾いだろう」


「え? ダーナンさんもですか?」


「ああ、故郷じゃそれ以外の取得が難しくてな」


「ウチの星もそうですね」


「アースライは農業惑星だったか?」


「はい、ファーミーティアって言って地表は全部芋畑の惑星です」


「全部なのか?」


「地表への出入り口以外は全部地下にありまして。

 日影が出来ないようになってました」


「恒星の有効利用か、ウチじゃあ暑すぎて惑星に遮蔽シールドを掛けてるよ」


「それは、すごいですね。僕は立ってるだけで『畑に影を作るな』って

 怒られてました」


「星が違うと常識が違うもんだな」


「そうですね、ダーナンさんの故郷ってどこなんですか?」


「聞いて驚け、なんと3000光年向こうのイシュメラーナ星系だ」


「3000光年って、連邦の影響範囲ってそんなに広かったですか?」


「ギリギリで範囲内だ、これより向こうは無い」


「スゲー、3000光年を渡って来た男じゃないですか」


「おお、移動距離だけはちょっとしたもんだろ」


こうして、ダーナンさんに色々教えてもらいながら助けてもらっていた。










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