第17話 救えない星

「すみません、お願いです。発言させてください」


全ての議案が終わった連邦代表会議の会場に、女性の悲痛な声が響く


次の騒動が起きる気がした。


あの赤茶の髪には見覚えがあるな




議長代行のおじいさんが、彼女を制止する


「ミーシア代表代理、君にここで発言させるわけにはいかない。


 ここでの発言は国家代表本人か、もしくは本人出席の上での代理発表のみだ。


 星系の代表がここにいない以上、君に発言する資格は無い」


「お願いです、を助けてください」女性が叫びを上げる


僕はココで聞き間違え様の無い星系の名前を聞くことになった。


ダーナンさんの故郷か・・・・・


「警備担当、すまないが、この女性を会場の外に・・」




「議長代理、ちょっといいですか?」と初老の女性が手を上げた。


「ダリアス代表、どうしましたか?」


「我々は、このイシュメラーナ星系の窮状きゅうじょうは理解して、


 その上で救援は不可能と判断している。


 ただ、この場にはその情報が無い人間もいる。

 

 現在会議は正式な代表がおらずに代行で開催されているのだから、


 イシュメラーナ星系の代表代行である彼女にも


 説明の機会くらいは、与えても良いのではないかと思ってね。


 なにより、のイシュメラーナ星系から、もし代表本人が移動してみろ


 間違いなく暴動が起きる・・・イクラエ代表は絶対に星系からは動けんよ」


「ダリアス代表、あなたも不可能だというのは判っているのでしょう。


 これ以上この娘に絶望させるのはどうかと思うがな?」


「それでも、何もしないより何か行動した方が楽になるものさ」


「・・・わかった、ミーシア代表代理。現状を説明したまえ」


「はい、ありがとうございます」





女性が壇上にあがった。


やせ細った、長い赤茶の髪の女性だ。


「連邦所属の国家代表の皆様。


 私はイシュメラーナ星系代表代理のミーシア・サンサードです。


 現在、我々の住むイシュメラーナ星系の恒星は老齢期に入りつつあり


 高温期に入りました。


 居住惑星の平均気温は60℃を越え海洋は蒸発しつつあります。


 現在は地下シェルターで生命維持を行っていますが


 おそらく3年後には地上に存在する水分は液体で存在できなくなり


 5年後には高温の為、地下シェルター内での生命維持も不可能になります。


 それまでに住人の脱出と移住の為に協力頂きたいのです。


 イシュメラーナ星系はここから3000光年の位置にあり


 現在の人口は40億になります。


 少しでも早い時期に動いて頂ければ、より多くの住人が救えます。


 どうかご協力をお願い致します」




誰も・・・何も言わない、そうだろうな。


赤茶の髪の女性が何かを期待した目で周囲を見ている。


僕の脳裏にダーナンさんの別れ際の言葉と笑顔がよぎった。


『俺が生きていたら、多分ここに帰っているからな』




「議長、発言させてもらっても良いですか?」


「ステラファスの騎士殿か、どうぞ」


「ミーシアさんだったか、例えば助けに行ったとして


 宇宙船ふねの安全は確保できるのか?」


「宇宙船の安全ですか?」


「ああ、例えば僕が医療艦で救援にいったとして。1000人が無事に乗れるのか?


 間違いなく暴動が起きるし、乗った後で周囲から攻撃を受けるんじゃないか」


「そのような事は・・・絶対に、させません」


「すまないが、信用は出来ないな。それに救助した人間の受け入れはどうなんだ?」


「それはまだ・・・」


隣にいるステラファスの国王陛下に


「国王陛下、もし救助出来たとして、ステラファスでは


 どれだけの受け入れが可能なんですか?」


「ステラファスでは、おそらく1000万人が限界だ、


 それでも調整は難航するだろう。


 もし、2000万人を受け入れたとしたら、


 ステラファス経済は傾き、その対策に今後30年以上かかるだろうな」


「それを3000光年の距離でやり取りする訳ですか?」


「ああ、しかもいつ暴動が起こるか分からない中をね」


「救援に向かうにしても船の安全が確保できないのであれば、


 国の代表が船に命令出来る訳がありませんね」


「そういう事だな」




改めてミーシアさんの方を向いて


「ミーシアさん、1000万人なら助ける事は可能だ、


 だが、船の安全の為に、あなたには嘘をついてもらう必要がある。


 あなたは生き残った人間に生涯しょうがいうらまれる事になるが、


 それでもいいなら、1000万人を助けるのに協力しよう」


 ダーナンさん、ごめんなさい。これが僕に出来る精一杯です。




「全てを救う事は出来ないのですね」


「そんな、都合のいい物は持っていない。


 だが、あなたには【40億人の移住先がある】事と


【40億人の移動手段がある事】を


 国民に説明してもらわなければならない。


 それが出来なければ、1000万人の方も救えない」




先ほどのダリアス代表が手を上げた。


「騎士殿、あの機動衛星なら1000万人乗れるのかね?」


「何とか乗れるはずです。ですが使えるのは1回きりでしょう。


 ステラファスに送ってから次の1000万人を積んでも送り先が無い」


「それなら、ウチでも1000万人引き受けるよ。


 暴動さえ起きないのであれば、なんとか受け入れられるからね」


この言葉を皮切りに、各国で声が上がり全部で1億人程度の受け入れ先が出来た。


「ミーシアさん、あなたは嘘を、つき通せるか?」


「はい、たとえ死んでも、この嘘をつき通します」


「だが、イシュメラーナ星系に行けば無理矢理情報を


 抜き出される可能性もあるんだよ?」


「そこまでするでしょうか? では、何か理由をつけて宇宙船から


降りられないようにしないといけませんか?」


「ああ、ステラファスの機密兵器に接触した事と君が約束した報酬が


 確実に履行されるように、身柄を渡すことは出来ないと伝えてくれ」


「アースライさんは、報酬を求めないのですか?」


「そうだな、この避難が終わったらが1つとが1つかな?」


「内容を聞いてもいいでしょうか?」


「たぶん、そんな無理な内容じゃないから、終わってから話すよ」


「わかりました。私が出来る事でしたらなんでもやります」


「ああ、ありがとう僕も出来る範囲で協力しよう」


こうして、この前代未聞のエクソダス脱出劇が始まった。

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