第13話 イクリプスの祝福

惑星アクール

 

通称 深淵の三角地帯ヴォイド・デルタ


晴れやかな空と、紺碧の海の光あふれる場所に


50組のカップルを乗せた


低空飛行タイプのオープンクルーザーが到着した。








周囲に何も無い海の真ん中に、

そこだけ、いくつも大きな岩礁が見える。

その場所に着水もせず、空中で停止したクルーザー


クルーザーの周囲を何か無いかと見回すカップルたちは

周囲が事に気が付き、ふと空を見上げた。


「あれっ? 雲じゃない」

「見ろ・・・・恒星が欠けていく」

「何なの、アレ?」


急に暗くなったことで、あちこちで小さなや悲鳴が聞こえる。




『皆さま、これは恒星と、この惑星アクールとの間に

 惑星ブレーナムが入る事によって起きる天文現象で、

 一般にはイクリプスと呼ばれています。

 ただ、この星では古くからと呼ばれています』




周囲から安堵の声が漏れる・・・・


そこに、海の中から水面を震わせるような低音バスが響き

それに呼応するように、華やかな高音ソプラノが水面より高い位置から聞こえてくる


闇の中で海面に突き出した、いくつもの岩礁がほのかに光を帯び、

その上に腰を掛けた幻想的なマーメイド達の姿が、その光の中に浮かび上がった。


クルーザーの上が、マーメイド達の声の奔流うたに巻き込まれる。


声の奔流うたが終わって、岩礁の一番高い所にいるマーメイドが

クルーザーに向かって手を振ると

クルーザーの上でカップルたちの大きな歓声と拍手が起こった。


『皆さまには、マーメイド達の『歓迎の歌』を聞いて頂きました。

続いてお送りする歌は『海の祝福』『命の祝福』そして『愛の祝福』です、

この海の上に訪れた女神の祝福のひと時に加え、

マーメイド達からの祝福の歌に包まれる、

この特別な時間ひとときをお過ごしください』


力強い『海の祝福』、喜びに溢れた『命の祝福』、

そして甘く囁くような『愛の祝福』が歌われると


船の上では、同じように甘く囁くような声が聞こえてくる・・・・


こうして、イクリプスツアーの続行が決定した。






クルーザーの制御室には僕とノーチェ、そしてマグカ代表と発案者のギフカス代表が

100人の盛り上がりをじかに感じていた。


「マグカさん、ギフカスさん、いけますねコレ」


「ああ、想像以上の完成度だな、ブレーナムウチの時も楽しみだ」


「クルーザーの2号艇 3号艇も間もなく到着しますから、今度は3隻体制ですね」


「これで、本格始動だな。でもマグカ、昼のイベントのインパクトが強い分、

 夜のイベントが弱く感じてしまわないか?

 そっちへのテコ入れの方は大丈夫なのか?」


「ああ、夜はアクリメラの子供達が餌付けしている夜光魚を使った演出を加える、

 歌の合間に、子供達の声で動く光のアートだ。

 昼のイベントの方が良かったなんて言わせてたまるか」


「ところでアースライさん、あの岩礁はいったいなんだ? 

 この下って確か深海だよな?」


「いいでしょ、あの岩礁ステージ。実は、お願いして造ってもらったんです」


「波が来ても微動だにしないし、あれ、中に発光機能も組み込んでるよな?

 もしかして、複数の岩礁同士の位置情報もリンクしてるのかな?」


「ええ、あれは少々の波ではビクともしません。

 万が一、強い波を受けて移動してしまった場合も

 速やかに記憶した位置情報の場所に戻るようになっています。

 安心して腰が掛けられるように

 表面を柔らかい素材で造って、もちろん滑り止め加工も施しています

 アクリメラの歌に変な音の反響が起きない様に吸音素材を使って

 潜水機能も付けてますから、邪魔になれば海底に持って行けますよ」


「アースライさん、アレにどれだけ機能を詰め込んだんだ?

 そもそも、だれが作ったんだ、あんなモノ」


「知り合いの技術者ストレア達です。

 アクリメラのステージに使うって言ったら

 それはもう嬉々として作ってくれました」


でも、エーディク・・・・

この二人には言えないけど、一番大きな岩礁に汎用攻撃兵器グラベルを仕込むのは、

ちょっとやり過ぎだと思うぞ。


こうして、アブリム星系での新しい企画である

『マーメイド・ツアー』は大盛況となり、

その映像が連邦中で見られる事で惑星アクールだけでなく、

惑星ブレーナムに来る観光客が増大してしまった。


観光クルーザーは4号艇、5号艇の追加が決定した。

まあ、アブリム星系には何隻か少々ややこしい宇宙船も来たが、

シルキスタとクリムティアでお出迎えして

こころよく帰って頂いた。






しかし、この大成功ともいえる成果が、新たな問題を引き起こしてしまった。




『弟よ、頼む。ファーミーティアにも、何か花嫁を呼べるものを・・・』




兄貴から来た通信に、僕はすぐに答える事が出来なかった・・・


地表の殆ど全てがイモ畑のファーミーティアで、新たに何か探せるのか?


自分の生まれた故郷だけに、その難題に思わず頭を抱えてしまう。


あの惑星に、人の手が入っていない場所なんて無い。


ごめん、兄貴・・・今回だけは無理かもしれない。




「アースライ、私、あなたの実家に行った事が無いんだけど?」


アリシア?


「あら、私もあらためてアースライさんのご両親にご挨拶に行きたいですね」


ミーシアさん?


「パパ・・・」


ノーチェ?


『コクーンでの傷病者の搬送は終わりました』


ブランシェ?


『修復は完了しています』


シルキスタ?


『次はどこに行くんだ?』


クリムティア?


『久しぶりに動けますね』


イシュメラーナ?


≪久しぶりに移動するか?≫


メルクまで・・・


「いや、あそこは、なにも無いところだよ・・・・」




『アクリメラ達の警備は私とカナンテッダに任せろ』


エーディク・・・・・・


こうして、僕達は、惑星ファーミーティアに向かう事になった。

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