第11話 ノーチェとの旅

ブランシェに乗って、アルファ1に恒星炉のチャージに行くはずだった・・・


『アースライさん、デイ・バーストの時に移動させた傷病者を戻したいんだが、

 すまないがブランシェを貸してもらっていいかな?』


そういえば、あの時、ブランシェのコクーンを使って傷病者を移動させてた・・・


惑星ブレーナムのギフカス代表にそう言われ

僕は、いやとは・・・言えなかった。




「メルク、今、他に動かせる宇宙船あるかな?」


≪クリムティアなら、DD砲以外は修復が終わっているぞ≫


「クリムティア、恒星炉のチャージに行きたいけど良い?」


『アースライ、マスターが変な遠慮するな』


「ありがとう。メルク、恒星炉をクリムティアに積んでくれるかな?」


≪それは良いが・・・アースライ?≫


「何かなメルク?」


≪いや、ノーチェを背中に乗せたままだが、

 それで、どうやって恒星炉を恒星の突入コースに入れるんだ?≫


ノーチェの方を向いて、なるべく優しく声を掛けてみた。

「ノーチェ、僕から少しの間だけなら離れられるかな?」


ノーチェは首を左右に振って、それと一緒に黒い耳が揺れる。

ダメみたい・・・


「アースライ、今回は私が行くわよ」


「ごめん、アリシア。今回はお願いしていいかな?」


「アースライさん、私もついて行きますよ」


こうして、僕+ノーチェとアリシア、ミーシアさんはクリムティアで

アルファ1に恒星炉チャージに向かう事にようやく決まった。


「アースライさん、恒星炉のチャージが終わったら、次はガルチノアで

 連邦代表会議での騎士叙勲式の準備ですが、そのままガルチノアに行きますか?」


「あれ? まだ先じゃ無かったですか?」


「ステラファスの騎士叙勲用では無く、連邦で新しく騎士服を作るから

 デザインの確認を頼まれてましたよね?

 放っておくと白銀の騎士のイメージで出来上がりそうですけど、いいんですか?」


白銀の騎士服を纏った僕の貧相な身体に、麦わら色の髪が映えて・・・・


何の罰ゲームだ。


「チャージした恒星炉をスライグレンダに持って来たら、

 すぐにガルチノアに向かいます」






アルファ1星系


クリムティア艦内 


「アリシア、くれぐれも気をつけてね。サイファも無理しないで」


『はい、おまかせください。マスター』


「サイファ、どうして先に返事するのよ」


アリシアがサイファを纏い、恒星炉を牽引して恒星に向かう。


僕自身が何度も行ってきた行為なのに、緊張で僕の心拍数が上がる。


《マスター、心拍数が上がり過ぎです。こちらでコントロールしましょうか?》


ルジェ、すまないけどお願い。




『マスター、今、サイファが牽引を切り離した』


「ありがとう、クリムティア」





目が覚めた。僕の身体の左側には、この頃ずっと一緒のノーチェの感触。

そして、右側には締め付けられるような圧倒的な圧迫感がある。

目を開けると深紅の豊かな髪が、僕の顔の右側にある。

動けない・・・もぞもぞともがいていると

『ん、マスター? 起きたのか?』

「ああ、クリムティア。すまないがどいてもらっていいかな?」

『ああ、わかった・・・』

なんだろう、素直にどいてもらえるのは初めてだな。

『・・・その前に、ちゃんと挨拶しないとな』


唇にしっとりとした感触と、甘い香りが鼻孔をくすぐるが・・・・長い?


1分以上このままだ・・・


その時、左腕にも動きを感じた。

顔が動かせないので横目で見ると、ノーチェが青い瞳で僕を見ている。


顔から変な汗が出てきた・・・・


クリムティアもそれに気が付いたのか、僕の顔から離れてくれた。


『ノーチェ、次はお前の番だ』


嬉しそうにノーチェが僕の口を塞いだ。甘酸っぱい香りを感じる


『ノーチェ、途中でまた交代な』


「ん”~~~ん”~~~ん”~~~」






アルファ1が終焉を迎える


この光景だけは、絶対に見なければならない。

そう、僕は決めている。


あの青い宇宙船、カナンテッダのチカラになるように想いを込めて。


『アルファ1、消滅を確認した』

「ありがとう、クリムティア。アリシア、サイファ、恒星炉の回収をお願い」


「わかったわ」

『了解です。マスター』



こうして、アルファ1星系の恒星は消滅した。





無事、チャージを済ませた恒星炉をスライグレンダに渡して、

このガルチノアの連邦代表会議場に到着した僕ですが。





「アースライ・グランクラフト殿、さすがにこの件は黙認出来ません。

 今後は、絶対に、はやめて頂きたい」


「ほんとうに、申し訳ありませんでした」


僕は今、ガルチノア星系政府の職員さんに叱られている最中です。





まずは1つめ、クリムティアでガルチノア星系に到着した時点で大騒動が起きた。


全長5000mの赤い巨大なの戦闘艦がいきなり星系の

主星付近に現れたのだから。


そう、ステラファス王家から離れた僕は、

クリムティアの登録をすっかり忘れていたのである。


ニュースやネット上では既に有名だったから実力行使には来なかったけど

さすがに形式上の警告はされてしまった。


現在、ガルチノアで慌てて登録作業を進めているところだ。



次に、連邦代表会議場に直接来たのがまずかった。


実は前回の出頭要請も同じようにして、直接クリサリスで会議場に来ていた。

ところが後で、アースライ・グランクラフトの出入国記録が存在しない事がわかって

大問題になった。


今まで、ステラファスでも、ネウ・ホパリアでも、それにアクールやブレーナムでも

その手の書類を提出した事が無かったから忘れてたけど。

そいうえば、初めてファーミーティアを出る時に、色々提出した記憶がある。

他は、政府側が気を効かせてくれてたらしい。


「今後、ガルチノアや他の惑星に入国される時には、必ず大気圏内を航行可能な宇宙船舶で宇宙港から入国してください」


「以後気を付けます、申し訳ありませんでした」


そういえば、僕、小型宇宙船を持ってなかった。






「ねえ、アースライ。この機会に小型宇宙船をガルチノアで購入する?」


「ごめん。なんというか、自分で購入すると思うと、

 つい無駄な出費じゃないかと思っちゃって』


「アースライさん。この間は、小型宇宙船が誤差に見えるって言ってましたよ」


「なんで僕は、そんな大それた事を言っちゃったんだ」


『マスター、アウタセルを小型宇宙船として登録する事もできますが?』


その手があるか


『ただし、マスター以外使えませんが』


「とりあえず、スライグレンダで小型宇宙船が無ければガルチノアで購入しようか」





復古主義衣装専門店 クロスクロックス


「ようこそいらっしゃいました、アースライ様。

 アリシア様、ミーシア様、それとノーチェ様ですね

 私、この店の店主を務めますジーキンスと申します」


ジーキンスさんは黒い復古主義クラッシックのスーツを着た白髪の老人だった


「よろしくお願いします」


「まずは採寸をさせて頂きますので、こちらの採寸室に入って頂けますか?」


「はい・・・、ノーチェ、ちょっとだけ離れてくれるかな?」


ノーチェは首を左右に振る


「ちょっとだけ、お願いできないかな?」


ノーチェは頑なに首を左右に振る


「ジーキンスさん、すみませんが、このままの状態で採寸ってできませんか?」


「ハンドスキャナーを持って来ますので、少々お待ちください」


「すみません」


ジーキンスさんが、手に持った機械で汗をかきながら採寸してくれた。





「それでは、アースライ様の採寸したデータに、

 騎士服製作委員会のデザインを着せて行きますね」


僕の3Dホロデータに白銀の華美な衣装を着た姿が現れる。

何というか・・・かなり恥ずかしい。


「正直、恥ずかしいのでなるべく地味にしたいのですが・・・無理ですね」


「無理でしょうな、連邦の騎士として大々的に発表したいようですので。

 連邦中が注目する中の騎士叙勲、連邦としては、いっそ別の色で目立たせたいと

 考えているはずです」


「別の色ですか・・・・」


「それよりも、アースライ様。採寸はハンドスキャナーで出来ますが、

 そちらのお嬢様は、騎士叙勲の会場でどうされるのですか?」


「ノーチェ・・・どうしようか? 離れないよね・・・一緒に行く?」


ノーチェがニッコリ笑う。


「それでしたら、アースライ様。こういう趣向はいかがでしょうか?」


ジーキンスさんの提案は、なかなか突飛な案だったが

僕はそれを受け入れた。

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