閑話 あの時、見た光景

※里帰りツアーの計画発表後、

ファーミーティアに嫁いできた、ある女性視点。



≪あの時、見た光景≫


久しぶりに地表に出て空を見上げると、あの機動衛星の姿が見える。

今日は、大勢の女性が同じように地表に出て空を見上げている。


このファーミーティアに、あの機動衛星がやって来た。


私達に、最初の希望を与えてくれた、あの姿を見るだけで・・・

それだけで、胸の奥が熱くなる。


しかも、今、あの機動衛星はイシュメラーナと呼ばれている。


あの惑星イシュメラーナでの生活は、決して快適な暮らしとは言えなかった・・・


それでも、暑い地下シェルターの中で、みんなで少しでも涼しさを感じようとした・・・そんな思い出がよみがえる。





そして、今日はある計画の政府発表が行われた。


『ファーミーティア ⇔ ネウ・ホパリア 里帰りツアー IN イシュメラーナ』


『たまには近況を報告に、里帰りなどいかがですか?』





まったく、なんて企画を考えるのだろうか・・・・


お互いの実家に安心してもらうため?


目的はそうなんだろうね。


でも、あの思い出の機動衛星に乗れる・・・


私達に子供が出来たら、絶対に、あの船に乗ってネウ・ホパリアに帰省するんだ。


そして、子供達に、イシュメラーナの話を・・・


故郷イシュメラーナあの船イシュメラーナの両方の思い出を話してあげる。


まったく、あの騎士様は、なんて楽しい事をやってくれるんだ。






惑星アクールのマグカ・ギョリョウ代表と

惑星ブレーナムのギフカス・ハント代表から通信が入った。


『アースライさん、頼みがある』


『イシュメラーナの里帰りツアーを我々の惑星にも』


「たぶん、そうなるだろうと予想はしてましたけど。この里帰りツアーを開催すると、アクールとブレーナムにある宇宙港の負担が大きくなりますが、大丈夫なんですか?」


『それについての解決策は考えてきた』


『ブレーナムとアクールに新宇宙港を計画している』


「ちょっと待ってください。ブレーナムはともかく、アクールに宇宙港に活用可能な陸地なんて残って無いですよね? もしかして建造物を作るのを避けていた海上に作るんですか?」


『いや、アクールには生態系に負担をかけない海上宇宙港を建設する』


『とある筋から、技術供与を受ける事になったんだ』


「その技術供与って・・・まさかとは思いますが、緑色の髪をした子供からじゃ無いですよね?」


『本人達は、通りすがりの、石頭の異星人を名乗っていたぞ』


「ストレアが・・・しかも、複数ですか? まあ、それなら、里帰りツアーは問題無く出来そうですね?」


『ああ、ファーミーティアの里帰りツアーの話を聞いて、アクールとブレーナムの婿達が恐怖に怯えている以外は全く問題無い』






※第39話 騎士の失態 でギダノ重工所属の大型戦闘艦から見た光景です。

 

≪あの時見た(惨劇の)光景≫


あの時、俺達は勝利を確信していた。いつも表と裏両方の仕事を口止め料込の高額報酬で廻してくれるギダノの会長の頼みだ。断る理由はどこにも無かった。


しかも、今回は対艦攻撃衛星4基を使っての集中砲火を転移直後の宇宙船に集中させるという、コストを度外視した必滅の方法を使うというから驚きだ。


ここまで、あの会長に恨まれるなんて、まったく運の悪いヤツだ。


転移直後の2隻の宇宙船を狙う、対艦攻撃衛星の一斉攻撃。モニターの中央が白く光って宇宙船が確認出来ない。


ようやくモニターが回復して、どんな残骸が見えているかと思えば。


「無傷だと?」


対艦攻撃衛星が安全対策を無視して再び一斉攻撃を仕掛ける。


「いや、ありえないだろう? あそこにあるのは宇宙船の映像か何かか?」


思わず呟いた、次の瞬間、モニター全体が真っ白に焼き付いた。


今度は、モニターの回復にやけに時間がかかる・・・何があったんだ?


やっと回復したモニターには、半ば溶け落ちた対艦攻撃衛星が写っていた。


『対艦攻撃衛星 アルタ 沈黙』


『対艦攻撃衛星 ベンド 沈黙』


『対艦攻撃衛星 セムナ 沈黙』


『対艦攻撃衛星 ダジル 沈黙』




「何があった? 一体何が起きた? 攻撃衛星は? なぜ反応がない?」


会長の声がブリッジに虚しく響いた。





そして、その後は・・・・


『そちらは、ガルチノアの宇宙船なんですね。


 そちらの惑星には何度かお邪魔したのですが、


 代表には一度も会えずじまいでして。


 一度ご挨拶に伺おうと思いますので、どうかよろしくお伝えください』


ガルチノアの代表であるギダノ会長に、そう声を掛けるステラファスの騎士。


こんな奴に関わるのはマズイと、思い知らされた。



・・・そう、思い知らされたハズなのに・・・・







『おい、セダック。お前に仕事と船をくれてやる。働け』


「ギダノ会長・・・・?」


あの時、見た光景が蘇る


「ステラファスには、もう手を出さないのでは?」


『ステラファスには・・・な。しかし、好都合な事にあの若造は今、アブリム星系にいるらしい』


「それで・・・どうされる、おつもりですか?」


『ネウ・ホパリア、アクール、ブレーナム、腹立たしいが連邦中の注目を集めておる。ならば狙いはおのずと決まるだろう?』


「会長、本当に大丈夫なのですか? 今は連邦中に即座に通信が繋がるんですよ?」


『タンボットとカーマも呼んである。宇宙海賊船団バンディッツが起こした農業惑星の事故など誰も気にするものか』


「まあ、それはそうですね。わかりました、会長、報酬は期待してますよ」


『もちろんだ、いつも通り口止め料込で払ってやるから安心しろ。

これで、あの若造にも、私の受けたこの屈辱を少しは思い知れせてやれるな』

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