第14話 故郷へ

「すみませんシーニクス義姉ねえさん、急にそちらファーミーティアに伺うことになりました」


 僕は、モニターの向こうにいる黒髪の女性に声をかけた。


『アースライ君、ウチのが無理言ってゴメンね』


この女性はこと、ウチの兄貴プラグレイ・グランクラフトの新婚の奥様、

僕の義姉あね、シーニクス・グランクラフトさんだ。


「いえ、こちらこそ結婚式にも出席出来ず、申し訳ありませんでした」


『あれは、しょうがないよ。

 アクールとブレーナム、両方の惑星にいる友達から話は聞いているから。

 恒星の前から動けなかったんだよね』


そうなんです・・・・・・文字通り


「ありがとうございます。そう言って頂けると、少し気が楽になります」


『プラさん、始めは突っぱねてたんだけどね、あのニュースを見て、

 周囲から色々と言われ出しちゃって』


「あのニュースですか・・・確かにあの〖イクリプスの祝福〗のニュースは大きな話題にはなったんですが。アクールやブレーナムにとっては、あまり良い結果になりませんでした」


『えっ? そうなの?』


「はい、ブレーナムには大手企業からの観光開発の問い合わせが、アクールには新規観光ツアーの依頼が殺到してしまって、肝心の花嫁ツアーにしわ寄せがきているらしいです。あれが新婚旅行ハネムーン先の観光地PRだったら大成功だったんですが」


『そうなんだ、でも、あのニュースが変にファーミーティア組合青年部の危機感を煽っちゃったみたいなの』


「そうみたいですね。しかし困りました、僕にとっても、ファーミーティアは、あたりまえの故郷なので、兄貴に花嫁が呼べるモノと言われても、まだ何も思いついていないんです。でも、必ず何か見つけたいと思ってます」


『それよりも、アースライ君は? まだ婚約破棄したままなんだよね?

 そっちは大丈夫なの?』


「実は、すぐに改めて婚約発表と婚約記者会見をするはずだったんですが・・・

 1年間限定でアクリメラ種族、あのマーメイド達の国王を引き受けた事で、

 今度はステラファス王家の王宮規約に引っ掛かりまして。

 アクリメラの国王を辞めるまで、婚約が出来なくなってしまいました」


『それじゃあ、こっちに来てもアリシアさんを婚約者としてお父さんやお母さんに紹介できないの?』


「いえ、他の星系ステラファスの王宮規約ですから。身内にはちゃんと婚約者として紹介するつもりです」


『よかった、プラさん、心配してたから』


『シーちゃ~ん、今、帰ったよ~』


『あっ、プラさんが帰って来た。それじゃあ、アースライ君、またね~』


「はい、お義姉さんもまた」






そして一週間後、僕はファーミーティアの衛星軌道上に到着した所で、ある人物からの通信を受けていた。


『それで・・・連邦の騎士、アースライ・グランクラフト君。この惑星を侵略するにしては随分な過剰戦力なんだが? どうしたのかな?』


モニターの中で神経質そうな白い短髪の男性が、こちらを睨みつけている。

今時珍しい眼鏡パーソナルモニターを付けているのは、ファッションだろうか?



まあ、睨まれている理由は、全面的に僕が悪いので、仕方ないんだけど。


つい、故郷であるという気安さから・・・


僕は、なにも考えずに中型戦闘艦シルキスタ超大型医療拠点艦ブランシェ超巨大戦闘艦クリムティア機動衛星イシュメラーナ、というある意味総戦力でファーミーティアの衛星軌道に来てしまっていた。


軍事国家ガルチノアに行くときですら、超巨大戦闘艦クリムティア機動衛星イシュメラーナを居住惑星に接近させる事だけは避けたというのに。


「すみませんでした、グリスぺル青年部長。間違えて、ファーミーティアの衛星軌道まで来てしまいましたが、すぐに移動します。シルキスタ以外は外惑星軌道に置いてきますし、ちゃんと小型宇宙船で地上の宇宙港に伺います」


『あんたは、どうしてそんな事を言うの? これで機動衛星が衛星軌道からいなくなっちゃったら、あんた、今度こそ青年部の代表を引きずり降ろされるからね』


モニターの隅に金髪で褐色の肌の美人が顔をだした。

ああ、メイイン大陸うちの青年部長も、そういえば新婚さんだったか。


『アーちゃん、ゴメン。ちょっとだけ待っててくれるかな? それなんだが、アースライ君、すまないが機動衛星イシュメラーナ初代結婚艦ブランシェは衛星軌道に置いて欲しいという希望が多くてな。できればそうしてほしい』


「了解しました。イシュメラーナとブランシェを衛星軌道ここに置きますね。失礼しました」


『それから、君の兄貴プラグレイに頼んだ件だが、4大陸を代表して私が君達との窓口になる、よろしくな』


「はい、実家への挨拶を終えたらすぐに連絡させてもらいます。こちらこそよろしくお願いします」





小型宇宙船でメイイン宙港に降下していくと、僕には見慣れた緑の畑が眼下に広がっている。


「アースライ、この惑星ファーミーティアって4つの大陸に別れてるんだよね?

衛星軌道から見ても海なんか見えないんだけど?」


「ごめんねアリシア、大陸があった頃の名前で呼んでるだけなんだ。山を切り崩して、海を埋め立てて、地表部分の殆どが農地利用されている。水と肥料の循環システムと農地管理システム、交通網も含めて都市の機能は全部地下にあるんだ」


「それじゃあ、畑が無いのは、この宇宙港くらいなんだね」


「宇宙港も格納庫は畑の地下だし、この離着陸スペースも昼間の使わない時は恒星光の反射板が設置されて他の畑に光を送るようになってるんだ」


『こちら、メイイン宙港、すまないが次の宇宙船が待っているんだ。申し訳ないが急いでくれないか?』


「わかった、急ぐよ」


『急がせて、すまない。宙港の発着数がギリギリでな』


宇宙港に降りて、ちゃんと入国手続きを済ませてから、公共交通機関地下チューブを使って、グランクラフトの畑の地下に到着した。






実家の前には、ウチの両親と兄夫婦がわざわざ待ってくれていたが、

兄貴の様子がおかしい・・・・


「・・・・アースライ、お前は何をしに来たんだ?」


「えっと、両親と兄貴達に挨拶と、婚約者の紹介と、青年部長さんとの会議・・・かな?」


、婚約者の紹介だと? 何を考えている?」


確かに、アリシアとミーシアさんに左右を固められ、後ろからノーチェに抱き着かれたまま、イシュメラーナ、クリムティア、ブランシェ、シルキスタを連れて歩いているのは異様かもしれないな。


「パパ・・・・」

兄貴の迫力に驚いたのか、ノーチェが抱き着いたまま、僕の後ろに隠れた。

兄貴からは黒い耳の先だけが見えているだろう。


「大丈夫だよ、ノーチェ、パパのお兄さんなんだ」


「・・・パパのお兄さん?」


隠れるのをやめて、兄貴の顔をじっと見つめている。





「シーちゃん、俺、娘が欲しい・・・・」


「プラさん、やめてよ恥ずかしいわ」


兄貴夫婦よ、仲の良いのは知ってるから、子供ノーチェの前ではちょっと・・・





そして、改めて


「とうさん、かあさん、紹介するよ。婚約者のアリシアだ」


「お父様、お母様、はじめまして。アリシア・ステラファスと申します」


こうして、やっと両親にアリシアを紹介する事が出来た。






メイイン大陸組合青年部会館


ここに来るのは何年ぶりだろうか・・・


「すみません、アースライです。グリスぺル青年部長さんは居られますか?」


「おお、よく来たな、まあ入って・・・プラグレイ、お前も来たのか?」


「アグレインドさん、かわいい弟を放っておくわけに行かないですよ」


「それでも、奥さんまで連れて来る事は無いだろう?」


「あんただって、奥さんと一緒じゃないか、青年部長?」


「プラさん・・・落ち着いて」


「アーちゃん・・・言い過ぎ」


こうして、僕とアリシア、ミーシア、ノーチェに兄貴夫婦とグリスぺル青年部長とその奥様のアーメスさんの8人での、〖ファーミーティア星起こし計画〗の話し合いが始まったのである。


もっとも、今までに様々な意見が出し尽くされていて。その内容に目を通すだけで数時間を費やした。その上で、僕の出せた意見は・・・


「とりあえず、この星系の中で、何か見つからないか探してみようと思っています」


・・・こんな事しか言えなかった。




「もし何か見つかれば、それをファーミーティアの売りにして、ヒトの注目を集める訳か? そんなに都合よく見つかるものかね?」


「賭けになりますが、今までも結構な確率で何かを見つけています。何か見つかる可能性は高いと思っています」


「アースライならではの方法だな」


「おそらく、僕の唯一の強みですから」






そして・・・このファクマス星系をくまなく探索した結果は・・・


「見つかったのは、破損したクリサリスが5個か、ある意味すごい結果なんだけど」


「少なくとも、惑星ファーミーティアを宣伝する目的には程遠いですね」


「でも、アースライ。これで何か見つかって、農業惑星ファーミーティア海洋惑星アクールのみたいな観光の目玉を作っちゃったら、この星の農業に悪い影響を与えてたかもしれないね」


「そうだね、少なくとも宇宙港の施設拡充は最低限しておかないと、農産物の流通が制限されるかもしれない」


兄貴もそこが気になったようで。

「アグレインドさん、その辺りはどうなんだ? 花嫁ツアーを増やすにしても

宇宙港を増やさないと出荷が出来ないぞ」


「確かに、農産物の出荷と花嫁ツアーで4つの宙港の使用率はかなり高くなっている。どこか1ケ所くらいは増やしたいところだが、どこにするかで多分揉めるな」


「そもそも無理があったのかな? そうなると・・・僕に出来ることで、何かあるかな?」


「アースライ、みんなで協力すれば、巨大ガス惑星くらいならなんとかなる?」


「いや、アリシア、破壊とかそっち方面じゃなくて、別の方向でなんだけど」


「アースライさんが出来る事ですか? 長距離を短時間で大勢のヒトやモノを移動させる事でしょうか?」


「そうだよね、実際、僕に出来るのはそれ位だよね」


「じゃあさ、アースライ、それを目玉にしてみる?」


「それを?」


「え~っと、ネウ・ホパリアへの里帰りツアーの企画とか?」


「さっきの宇宙港の件が問題だけど。確かに、それなら僕にも協力できるかな?」




「ちょ・・待ってくれ、アースライ君」

「待て、弟よ・・・」


どうしたんだ、グリスぺル青年部長と兄貴が、かなり切羽詰まった顔でこっちを見ている。


「あれっ? 何か、問題がありますか?」


「「いや・・・その・・・あのだな」」


2人とも、妙に言葉を濁している、どうしたんだ?



「大丈夫だよ、アーちゃん。私は、里帰りしてもちゃんとファーミーティアに帰ってくるから」


「そうよ、プラさん。心配だったら一緒に里帰りについて来る?」


なるほど、これが話に聞く〖実家に帰らせて頂きます〗か? もしかすると、この計画を発表したら、僕はファーミーティアの男性全てから恨まれるかもしれない。



「「それじゃあ、〖ネウ・ホパリアへの里帰りツアー〗の企画案を纏めようか?」」


「ねえ、プラさん?」


「ね、アーちゃん?」


「「・・・よしっ、これで決まりだな」」


こうして、誰も反対出来ずに〖ネウ・ホパリアへの里帰りツアー〗が始まる事になった。





※ステラファス王家の王宮規約についてですが、他の星系の王族との婚姻又は婚約を結ぶ場合、ステラファス側の資産を不当に使用、または流出する事を防ぐ目的で、ステラファス議会の承認が必要と設定させて頂きました。アースライはステラファス議会で議案として上げて結論が出る予想期間と、王様の任期が切れる1年を見比べて、議会の仕事を減らす方を選びました。

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