第12話 機動衛星

「アースライ、無人の恒星系に行くの?」


「ああ、エネルギーの充填に必要なんだ」


そうして目的の無人恒星系に到着した僕たちは恒星に向かった。


「ブランシュ、前回やった時は僕が直にジェネレーターを恒星に投げ込んだんだけど、今回もそうしたら良いのかな?」


『はい、それで結構です』


「ブランシュ、格納庫にジェネレーターを準備しておいてくれ」


『マスター、承知しました』



格納庫でルジュを装着して恒星炉を牽引する。


ブランシェの恒星炉は直径5m程の銀色の球形だった。


妙に既視感があると思ったら大きさと形は脱出ポッドそっくりだ。


「恒星への突入コースをルジュに送って」


ブランシュから出た僕は恒星への突入コースに入り


予定ポイントで切り離してブランシェに帰還した。


「おかえりアースライ、これがジェネレーターの秘密なの?」


僕の顔は微妙な感じだったろう


「まあ、秘密の一端かな」


「そうなの?」


「ブランシュ、エネルギー吸収時間はどれ位かかる予定かな?」


『およそ100時間です』


「前の時と同じだな、ありがとう」


およそ、20時間経った頃だろうか


ブランシェ艦内に取り付けられたフードクリエイターから


ルジェが食事を取り出して持って来てくれた。


「マスターどうぞ」


「ありがとう、ルジェ」


食べようとした時にアリシアから声をかけられた。


「ねえ、アースライ。私目がおかしくなったみたい」


「どうして?」


「目の前の恒星が小さくなっているように見えるの」


「僕にもそう見えるから間違って無いよ」


「そうなんだ、ねえアースライ。ちょっと聞きたいんだけど、


ジェネレーターってあそこからどうやって取り出すのかな?」


「取り出さないよ」


「取り出さないで、どうやってこの船に乗せるのよ」


「最後に、あそこに残るのはジェネレーターだから、取り出さないよ」


「えっと・・・・・恒星は?」


「残らない」


「本当に?」


「だから、これ絶対に秘密ね」


「ごめん、まちがいなく絶対に秘密な内容だった」


「アリシア、【星喰い】って知ってる?」


「もちろん知ってるわよ」


「僕、子供の頃から【星喰い】は惑星を食べる物だと勝手に思い込んでたんだ」


「え? 私は今もそう思ってるけど違うの?」


「違うよ、だって【星喰い】が食べるのは恒星だけだからね」


「へ?」


「コレが、【星喰い】の正体らしい」


「・・・・・」


「だから、絶対に内緒ね」


「絶対にね」


≪マスター、こんな時に非常に言いにくいのだが、ちょっといいかな?≫


「うん? メルク、言いにくい話? 


僕は、これでアリシアに対して秘密が無くなったからね。


ずいぶん気が楽になったから冷静に聞けると思うよ」


≪それは良かった。実はこの星系でソルコアイト文明品らしき反応を見つけてね。


今度は少し大きそうなので相談しようと思ってね≫


「今度は? なんでだろう聞きたく無くなってきた」


≪ただ、無視する訳にもいかなくなってね≫


「どうして? 知らない振りして100年くらい置いておこうよ」


≪もうすぐ恒星が無くなるから、


この少し大きな文明品がどこかに飛んでいく事になるな。


その場合、先に中身を確かめておかないと、どこかで星系が消し飛んだり、


いくつか恒星を飲み込んだりしたら非常に迷惑だと思うがいいかな?≫


「メルク、直に急行しよう」


≪理解してくれてなによりだ≫



今回はブランシュのジェネレーター補給が終わるまでアリシアにはここにいて貰う。


「ごめんアリシアちょっと行って来る」


「ええ、アースライも気をつけてね」


僕はルジュを装着。メルクを牽引して宇宙に飛び出した。


メルクの案内でたどり着いた先は恒星から見ると第5惑星の軌道付近にあった。


僕の目の前の岩塊がそうらしい。


「確かに少し大きいね」


『理解してくれて何よりだ』


大きいはずだが、目視だと分からない。


ルージュのセンサーによると全長10km程の球体形状のようだ。


『今、外観偽装を解除する』


メルクによって解除されたソレはその姿を現した。


鈍いグレーの金属で表面が覆われている、巨大な球体。


しかし、表面にはえぐられた様な跡と共に巨大な貫通穴が2つ開いていて、


向こうの星空を見せていた。


「ひどく破壊されてるな」


『おそらく拠点防御目的の機動衛星だな調査を開始する』


メルクの瞳が開いて数千の子機が機動衛星に向かっていった。


そして数時間後にメルクの調査結果がでた。


≪やはり拠点防御の為に作られた機動衛星だった。


ただ全体的にダメージが酷い上に制御系統に壊滅的なダメージがある


おそらく修復しても当分は私が制御するしかないだろうな。


恒星炉と転移システムも損傷している。


転移システムの修復を優先して私に接続して安全な場所に移動。


その後全体の修復に取り掛かった方が良さそうだな≫


「そうか。転移システムの修理にどれ位かかりそうだ?」

≪およそ、300時間だ≫

「それじゃあ、取り掛かってくれ」

≪了解≫

「僕はアリシアを迎えに行って来るよ」


そのまま、ルジュと恒星があった付近に到着した。


そこにはエネルギーの充填を完了した恒星炉が静かに浮いていた。


それを牽引してブランシェに帰還する。


「ブランシェ、恒星炉を持ってきた。接続作業に取り掛かってくれ」


『了解しました。およそ5時間で接続出来ます』


「アリシア、少し大きな遺跡品についてなんだが、ちょっと話いいかな?」


「いいわよ、何が見つかったの?」


「かなり損傷しているが、全長10kmの拠点防御の為の機動衛星だった。


 本体機能だけでなく、ジェネレーターや転移装置の損傷も酷い。


ただ、このいずれ無くなる恒星系に置いておくわけにはいかないので、


まずは転移装置を修復してメルクを接続後に移動させるんだけど。


修復するにも封印するにも、どこか人目につかない所が良いのかなと思ってね」


アリシアが考え込んでいる


「ステラファス星系に近い所に赤色巨星の恒星系があるけど、


あそこなら誰も行かないんじゃないかな」


「赤色巨星って、恒星が大きくなって居住惑星付近まで


飲み込まれているんだっけ?」


「ええ、外惑星軌道にいくつか惑星が残っているはずだけど、


公転周期が数百年の惑星なんて誰も住まないわ」


「いいね、とりあえず、そこに移動させよう。


ブランシェ、接続が完了したらルジュから送る座標に向かってくれ、


そこに修復中の機動衛星とメルクがいる」


『了解です』


そして、ブランシェの恒星炉接続が完了してメルクの元に向かう。


合流したメルクとステラファス星系近くの赤色巨星を持つ恒星系への


転移計画を準備した。


赤色巨星を持つ恒星系はステラファス星系から20光年程の距離にあるらしい



機動衛星の転移装置が修復されてメルクが接続された。これで当面の準備は完了だ。


「それじゃあ、これからステラファス星系近くの赤色巨星星系であるパラキス星系に移動を開始する。向こうで合流しよう」




パラキス星系 第2惑星付近


ブランシュが到着したおよそ3時間後、


機動衛星が転移してきた。


「メルク、機動衛星の状況はどうだった?」


≪機動衛星の修復に3000時間(およそ4か月)必要だな。


ちなみにエッグの修復は1000時間(40日)といったところだ≫


「ただ、どちらもすぐに必要な物では無いんだよな」


≪それに、機動衛星を完全稼働させるには内部恒星炉にエネルギー充填を


行う必要がある≫


アリシアが冷静な顔で


「アースライ、ここにメルクを置いていくと、


かなりの期間シルキスタは恒星炉無しで使用する事になるわよ。


それに大型艦ブランシェをおおやけに使用するには君の取得資格ライセンス


かなりの追加が必要になるけど大丈夫?」


「資格取得は面白そうだけど、ブランシュの能力が必要な事態にはならないだろう。


いざとなれば他の人に乗って貰っての運用を考えるよ。


それよりメルク、長い間一人にしてしまうけど大丈夫?」


≪マスター、私としては本来の機能をフル稼働できるこの状態が好ましい。


私の事は気にせず資格取得ライセンスを頑張ってくれ≫


「そうか、じゃあ4ヶ月後にこちらに来るけど遅れるようなら


エッグの修復を進めていてくれるかな?」


≪了解だ≫

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