第7話 王女


【シルキスタ制御室】


『こちらは連邦軍の戦闘艦、ドレガス。艦長のメイヤード大佐だ。

 アリシア・ステラファス王女の名前で通信をくれた所属不明艦はそちらか?』


「こちらは、戦闘艦シルキスタ。

 責任者のアースライ・グランクラフトだ。

 すまないが私の口からこの船についての口外は許可されていない。

 上司から話させてもらう事になる」


「メイヤード大佐。

 ステラファス王朝、第3王女のアリシア・ステラファスよ。

 このシルキスタはウチの実験艦、未登録で極秘実験中だったんだけど。

 私の乗ってた船がカーモンド・ファミリーに襲われて、

 急遽使用せざるをえない状況になってしまったの。

 なので、わが国の方に問い合わせをお願いするわ」


『アリシア王女、了解した。

 では8隻の臨検はこちらで行って問題ないですか?』


「ええ、お願いするわ。

 中型艦の1隻に私の乗ってた船の乗員乗客と私の影武者をやってくれていた

 女性がいるはずだから保護もお願いしたいの」


『了解しました』


メイヤード大佐から通信が入った。


『アリシア王女、捕らえられていた人の中にセシリア・マルドンと言う女性がいました、この女性があなたの影武者で間違いないですか?』


「ええそうよ、メイヤード大佐。念の為通信に出してもらってもいいかしら?」


通信モニターに金髪のアリシアに比べるとややきつい顔立ちの少女が現れた。


『アリシア殿下、ご無事でしたか』


「ああ、セシィ。あなたも無事で何よりね。

 メイヤード大佐、確認したけど間違いないわ。

 申し訳ないのだけれど、このシルキスタには艦載機が無いの、

 この宇宙船まで送って貰っても良いかしら?」


『承知しました。お送りします』


「ありがとう、助かりますメイヤード大佐」


シルキスタの格納庫に行って艦載機用ハッチを開けて、軍の艦載機を入れる。


艦載機から降りてきた少女はアリシアに抱き着いた。


「殿下、申し訳ございません」


艦載機のパイロットに礼を言って出てもらい、ハッチを閉めた。


「さて、セシィ。少し込み入った話になるんだけど、いいかな?」


フードクリエイターを設置した部屋は食堂兼喫茶室として使用されていた。


セシリアさんには、そこに来てもらう。


「セシィ、髪の色を元に戻してもらっていいかな?」


「はい、殿下」


セシリアさんが右手首の装飾具を操作すると髪の色が金髪から栗色に変わった。


「アースライ、紹介するわ。私の影武者をやって貰っている。

 セシリア・マルドン、私はセシィと呼んでいるの。

 セシィ、こちらはアースライ・グランクラフト、

 わが国とは無関係なんだけど私の命の恩人で軍には口裏を合わせて貰っている」


「アースライ・グランクラフトだ」


「セシィ、これから話す事は内密にしてほしいの。

 約束できなければ、これからステラファスまで、

 数か月の間この船の個室に軟禁させてもらう事になるわ」


「そこまでですか、わかりました。王家に誓って秘密は守ります」


アリシアはアースライに向かって頷くと、セシリアさんに説明を始めた。


「まず、驚かないで聞いて欲しいんだけど。

 私が脱出した時、ポッドは奴らのレーザーの的にされたの。

 いくつものレーザーを受けて、現状、私の腰から下はもう残っていない」


セシリアの顔が恐怖と驚愕に歪んでいる。


「殿下を守れなかった責任を取らせてください。どうか自決の許可を」

 と頭をさげた。


「絶対に許可は出さない。

 運よくアースライと出会って、生き残って、しかも今下半身も修復中なのよ。

 ただ、今は軍との顔繋ぎの為に上半身を解除してるけど、修復には上半身も

 覆っておいた方が良いの。

 極力、修復完了まではセシィの前でも全身が覆われた状態が望ましいから、

 それをわかっていて貰わないといけないの」


「治るのですか?」


「ええ、時間は掛かるけどね。

 全身が覆われた状態で代謝や呼吸も完璧にコントロールされているわ。

 ルジュ、完全装着をお願い」


アリシアの全身が包まれる。


「この状態でないと、修復が完全には出来ないの。それを理解しておいてね」


「承知しました」


「ところでアリシア、この後は君達をステラファス星系に送れば良いのかな? 」


「ええ、でもステラファス星系までは1000光年はあるから、

 どんなに急いでも4~50日は掛かるでしょう。長旅になるけどよろしくね」


「これも内密に出来るなら、常識外の時間で到着できるけど、どうする? 」


「ごめんね、アースライ。常識外の時間と言われても想像もつかないんだけど? 」


「シルキスタ、連結システムを使用して連続転移を行った場合の

 ステラファスまでの到達時間は?」


『およそ50時間です』


「だって」


アリシアの表情は見えないが、セシリアさん何を聞いたのか理解できないでいる。


「正直、信じられないけど。もしそれが可能なら軍から王国に通信が到着する前に

 船の登録なんかの準備ができるわね」


「なるほど、それはいいな。じゃあ、出発しよう。シルキスタ準備を頼む」


『了解』


「ねえ、アースライ」


「何かな、アリシア?」


「もし50時間で到着したら、私の騎士ナイトになってくれない?」


「騎士? 騎士って何をするの? 自由に動けないのは困るんだけど」


「ステラファス王家の人間は生涯で1人だけ騎士の位を与えられるの。

 それで騎士が何かやっても、責任は王家の人間が負う。

 ただし褒められる事をすれば、その任命した王家の人間も褒められるのよ。」


「責任を負うって・・・悪い事をするつもりは無いけど、

 褒められるかどうかわからないよ」


「なら安心でしょう。それに騎士になれば、その経費は王家が持つ事になるのよ」


「それはさすがに悪いよ」


「宇宙船の登録費用や税金、推進剤や食料品を含めた補給物資、

 港の使用料なんてものも経費扱いだから全てステラファス王家持ち。

 確か年額で特別助成金も出たはずよ。

 君には今回のカーモンド・ファミリーの報奨金も入ってくるけど、

 そちらはアースライ自身で使うなり貯蓄するなりすればいい」


『この艦は現在連結システムを使用していますので、推進剤は消費しておりません。

 また食料品に関してですが、フードクリエイターがありますので

 食料品の補給も必要ありません』


サポート形態のシルキスタが教えてくれる。


「アースライ、そのだれ?」


アリシアに紹介してなかったかな?


「いつも話をしているだろう、彼女がシルキスタだよ。正確には子機になるのかな」


『アリシア王女、シルキスタです』


「この女性がシルキスタなの?」


『はい、艦内でマスターのお世話が出来る様に、

 子機をサポート形態で使用しています』


「それじゃあ、私の装着しているクリサリスも分離できたら、

 私のお世話をしてくれるのかな?」


「王女のお世話は私の仕事なのですが?」


「セシィ、ごめん。言ってみただけだから。お願い落ち込まないで」


こうして、シルキスタで出発した僕は、航行中にアリシアから

騎士についての説明を受ける事になった。






【シルキスタ艦内 マスタールーム】


僕はベッドの上で、また暖かい感触で目が覚めた。


「またルジェか」


あれ? 


目を開けると腕の中に銀色の髪の美女がいた。


「すまない、シルキスタ。なぜ君が僕のベッドにいるのか

 説明を貰えないだろうか?」


「朝までマスターのお世話をする為ですが?」


「ルジェからクリサリスの基本機能でと聞いたのだが?」


「停止は出来ませんが、他のユニットによる代行は可能です」


「体温調節もかな?」


「当然です」


「シルキスタ、お願いだから服を着てくれないか」


「マスター睡眠時間が少し不足しているようです。あと90分の睡眠を推奨します」


「この状況で眠るのは無理だよ。シルキスタ、お願いだから服を着て」



そして出発してから45時間後・・・・




【シルキスタ制御室】


「本当にステラファス星系に到達した」


セシリアさんが呆然とした顔でつぶやいた。


アリシアは笑っている。


「アースライ、私の騎士になってもらうわよ」


「どちらにしても、シルキスタの登録でアリシアを頼る事になるからね。

 僕が何をすればいいのか分からないけど君の騎士になるよ」


「ありがとう」


星系内に入った事で星系警備の艦艇が近づいてくる。


『所属不明の宇宙船に告ぐ、ここはステラファス星系の勢力圏だ

 所属と目的を明らかにせよ』


「警備、ごくろうさま。

 ステラファス王朝、第3王女のアリシア・ステラファスです。

 旅先で私の騎士を見つけてきたの。

 この宇宙船は私の騎士の船なので惑星ステラまで先導をお願い」


『アリシア王女でしたか、先導させて頂きます』


「ええ、よろしくね」



【ステラファス星系 第4惑星 ステラ 中央大陸 王都 ライテスタ 王宮】


「国王陛下、報告します。出奔中のアリシア王女が騎士をつれて戻られました」


「なんだと」

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