第6話 生存者

こうして船を手に入れた僕が、まず考えたのが


カーモンド・ファミリーに対する意趣返し復讐だった。


とりあえず炭にされた右足の分と、


穴だらけにされたポッドの恨みくらいは返しておこう。


もっとも、あのモーリタニア号のような情報収集もせずに航路を離れて


カーモンド・ファミリーの支配地域に入り込むような


バカな船はそうはいないだろうけどね・・・・・・いたよバカが。


シルキスタの外観を岩に偽装して隠れてたんだが・・・・


目の前で中型の貨客船が襲われている。


貨客船はもう原型が分からないほど破壊されていて、


今は、もうポッドを狙っている最中か。


あの時の記憶が蘇って来た。


あの時は船の数は判らなかったけど、中型の戦闘艦が1隻に小型が3隻のようだ。


「小型は殲滅、中型は推進装置ベクトル・ユニットを潰すか。シルキスタ、グラベルを撒いてくれ」


『了解』


グラベル砂利はエネルギー発射機能を持った使い捨て砲台だ。


特定範囲にばら撒いて、相手の死角から攻撃する


相手から見えず、こちらから一方的に攻撃するための兵器だ。


『グラベル、散布完了しました』


「攻撃開始」


『了解』


一瞬で3隻の小型艦が爆散して、中型艦の後部で爆発が起きている。


「さて、これで中型艦の動きは止めた。

 シルキスタ、中から艦載機が出たら攻撃しておいて。

 後は、カーモンド・ファミリーが仲間を助けに来るのを待たせてもらうかな」


『マスター、被弾したポッドの中に生命反応が僅かにある物がありますが、

 どうしますか?』


「僕と同じ立場か、治療が出来る訳では無いけど、同じ目に会った者同士だ

 遺言ぐらいは聞いてやるか。ルジュ【装】」


『マスター』

ルジュが背中から抱き着くと変形して僕の全身を覆う


「ルジュ、被弾したポッドに向かう、位置を指示してくれ」


『了解、こちらです』


ルジュでポッドに到着したが、僕の時と同じく穴だらけになっている。


ポッドに開いた穴から、何か金色の物が見えた気がした。


中を覗き込んだが、生きている者はいない様に見えた。


「少し遅かったかな」


『マスター、まだ生命反応があります』

声に反応したのか、僅かに動く物があった。


「た・・・たすけて」かぼそい声だ・・・


しかし、声の方を見た僕は声を失った。


おそらく、ライフスーツを着た少女のだろう。


しかし、その下半身は炭化していた。


ルジェを装着した僕に驚いた様子もない、


もう目を開ける気力もないのかもしれない。


「すまないが、僕には君を助けられそうに無い。遺言ぐらいは聞いてあげるよ」


少女は絶望した様子で

「お願い、何でもする。私は今、死ぬわけにはいかないの」


「そうは言っても」


『マスター、クリサリスを使用すれば生命維持出来る可能性がありますが?』


「しかし、これは秘密にしないと、こちらが危ない」


『クリサリス装着時に契約を設定すれば、使用者に秘密を厳守させられますが?』


「そうか? 君、僕と契約を結べば生命維持が可能かもしれないけどどうする? 

 僕と契約を結ぶなんて、悪魔と契約を結んだ方がマシかもしれないよ?」


「それでもいい、あとで私の魂をあげてもいいからお願い」


「わかった。シルキスタに連れて行こう」


僕は少女を抱えてシルキスタの格納庫に戻って来た。


「メルク、修復したクリサリスを出してくれ」


『了解』

床からクリサリスが出てくる


「ルジュ、設定ってどうやるんだ? 」


『こちらで、やっておきます』


クリサリスの表面に青い珠が浮き上がった。


「この青い珠に触れれば、僕と同じクリサリスに保護されて

 生命維持が可能になるはずだ、しかし僕との契約に縛られる事になる。

 どうする?」


「私は今、死ぬわけにはいかないの」


少女は必死に目を見開いて腕を伸ばして青い感応核に触れた。


クリサリスが広がって少女を包み込む。


「これで死ぬことは無いだろう、少し休みなさい」


「待って、私の名はアリシア・ステラファス、あなたは?」


「僕の名はアースライ・グランクラフトだよ、おやすみアリシア」


アリシアはそれから10時間程経った頃に目を覚ました。


丁度、助けに来た中型艦2隻を行動不能にした頃に意識を取り戻したらしい。


ルジュがアリシアの意識が戻った事を教えてくれた。


「やあ、おはようアリシア」


アリシアはクリサリスに覆われた体で起き上がった。そして不思議そうに


「え~と アースライ。私の下半身が酷い事になってた記憶があるんだけど、

 どうして問題無く動けるの?」


「そのクリサリスが君の思考を読みとって行動を補助しているらしい、

 感覚は無いだろうけど下半身の修復も始まっているはずだよ。

 それと装着時は痛覚の遮断以外に呼吸や栄養補給なんかも

 クリサリス側でやってるから食事の必要も無くなる、だから解除しないでいてね」


「わかったわ、ところで、ここで何をしてたの?」


「ああ、僕も君と一緒でね、

 あいつらカーモンド・ファミリーに炭にされた恨みがあってね、

 今は仕返しをしている最中だ」


「仕返し?」


「奴らの中型艦を動けなくして。

 今、助けに来た中型艦2隻の推進機ベクトル・ユニットを潰したところ。

 さてカーモンド・ファミリーって何隻くらい船を持ってるのかな? 楽しみだ」


「あなたも、撃たれたの?」


「ああ、念入りにね。僕もクリサリスを見つけてなかったら確実に死んでたよ」


「そうだったんだ」


「ところで、アリシア。

 僕の乗ってた船は推進剤を節約しようとして航路をショートカットして

 カーモンド・ファミリーの勢力圏に入り込んだんだけど、

 君が乗ってた船もそうだったの?」


「いいえ、あの時の船内アナウンスからすると、

 どうやら航路管理責任者が買収か何かされてたみたい」


「あんな馬鹿な船は他に無いと思ったけど、そうだったんだね安心したよ」


「結局、襲われたのは一緒よ」


「しかし、そこまでする組織なら、この意趣返しにも意味がありそうだ。

 何隻助けに来るか、途中で見捨てるのかは分からないけど」


「ねえ、アースライ。あの最初に動けなくした中型艦って、

 私の乗ってた船を襲った奴かな?」


「そうだよ」


「それなら、あの中型艦を見捨てないと思うよ。

 私の乗ってた船に実はお忍びで偉い人が乗ってたらしくて、

 最初に人質になってたから」


「その情報は、ありがたい。

 うまくすれば、カーモンド・ファミリーを壊滅できそうだ。

 さて、その後は軍に座標を通報して逃げるかな」


「軍に引き渡せば、カーモンド・ファミリーの報奨金も出ると思うけど」


「この船も拾い物だからね。連邦に船籍を登録していないし、

 僕も船の運航に関しての資格を何も持ってないんだ。

 別に悪い事をしたつもりはないけど、軍と接触して逮捕されるのも、

 指名手配されて逃げるのも困るかな」


「それなら、私の方でなんとか出来ると思うわ。軍に通報してもらっても大丈夫よ」


「そうなの? アリシア、君っていったい?」


「私はアリシア・ステラファス、未だに王制をやってるステラファス星系の王族で

 第3王女という立場になるわ。

 お忍びで出かけて、こんな目に会っちゃったけどね。

 ちなみに今人質になってるのは私の影武者だったりするの」


「そいつは驚いた。

 すまないが上流階級の礼儀には疎くてね、ご勘弁願いたい。

 今は1ダルスも持ってないから報奨金が受け取れるのはありがたい。

 ああ、今度は5隻か来たみたいだな」



今度は5隻現れた、なんと1隻は全長1000mを超える、いわゆる大型艦だ。


「シルキスタ、グラベルの中に入ってきたら容赦無く推進装置ベクトル・ユニットを破壊してくれ」


『了解しました』


複数の船で救助迄の時間を稼ごうとしたんだろうが、意味が無かったな。


それぞれの船の後部で爆発が起きる。


「アースライ、連邦軍と連絡を取るのに顔を見せた方が良いのだけど、

 クリサリスって顔か上半身だけでも解除出来ないのかな?」


「ルジュ、部分解除は可能かな?」


『数時間でしたら可能です。

 ただし、あまり長期間ですと下半身の修復に影響が出ますのでお勧めしかねます。

 では上半身のみ解除します。』


アリシア王女を覆っていたシルキスタの上半身が解除されて、


あの時見えた金色の髪が現れた。


「クリサリスに覆われていても違和感は無いけど、解除されると解放感はあるわね」


「シルキスタ、連邦軍に通信を送る。

 ここの座標とカーモンド・ファミリーの戦闘艦8隻の確保依頼かな?」


「ええ、私の名前を出してくれたらいいわ」


「了解、シルキスタ通信を送ってくれ」


『了解です』


『連邦の戦艦から通信、5時間後にここに到着予定だそうです』


「わかった、シルキスタありがとう。

 もしあらたにカーモンド・ファミリーの船が来たら教えてくれ」


「あと5時間ね、ヒマになったわね」


「アリシア王女様、実はクリサリスを創った文明の

 フード・クリエイターがあるんだが、

 遺跡文明の食事や飲み物を試してみるつもりはあるかな?」


「正式な場以外はアリシアで良いわよ。どうして今まで試して無かったの?」


「ああ、船が修復出来るまで、

 僕も3週間くらいはクリサリスに覆われたままだからね」


「何か分からない物を口に入れるのは怖いわね」


「だからガイドを頼むさ」


「ガイド?」


「ルジュ、【げん】」


僕の後ろにルジュが現れる。


「マスター、御用ですか?」


「ルジュ、フードクリエイターを使用したいんだが説明してもらって大丈夫かな?」


「了解、マスター」


アリシアが驚きながら


「アースライ、その赤い髪の女の子、彼女は何?」


「僕の装着しているクリサリスのサポート形態らしい、

 解除時に一緒に居ても違和感の無い形状になるらしいよ」


「じゃあ、私が装着しているクリサリスも解除したら人型になるの?」


「たぶん、そうなるよねルジュ?」


「はい、現時点では生命維持優先で解除出来ませんが、

 装着者と同種属が選択されます」


「だって」


「それは・・・・楽しみかもしれない」


「でもアリシアの方が僕の時より重症だから治療に時間は掛かると思うよ」


白いサイコロの様なフードクリエイターの前に来た。


「ルジュ、まずは何か飲み物を頼みたいんだけど。おすすめはあるかな?」


「まずは、種族特性の無い物で成人指定の無い飲み物が25種類あります。

 そのうち定番5種から選ばれるのが良いかと思われます」


白・黒・赤・黄・緑の五種類か

「アリシア、先に選ばせてあげようか?」


アロシアは少し考えながら

「ルジュ、甘いのはどれかな?」


「黒と赤ですね」


「じゃあ、黒をお願い」


ルジュが操作すると、透明の容器に入った黒い液体が出てきた。


「どうぞ」


「ありがとう」


黒い液体に口を付ける。


「甘いわね、でもこれ悪く無いわ」


「じゃあ、僕は白をお願い」


またルジュが操作すると、今度は白い液体が出てきた。


「どうぞ」


「ありがとう」


意を決して口を付ける。これは


「おいしいけど、これ何かのミルクだね。

 味覚については、そんなに大きな変化はなさそうだ。

 安心して試せそうだな。次は何か軽く食事でも出してもらおうか?」


「そうね、でも遺跡文明のフードクリエイターか。

 私の姉に見つかったらココに入り浸るかもしれないわね」


食事を終えて、アリシアに完全装着状態に戻ってもらう。


後は連邦軍が到着してから部分解除してもらおう。


『マスター、軍の戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦3が、この星域に到着しました』


「そうか、アリシア、部分解除して制御室に行こうか」


「ええ」

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