第19話 希望の卵

【ファクマス星系第4惑星】


ブランシェがファクマス星系の第4惑星の衛星軌道に到着した。


見た目は真っ黒な岩石の塊にみえる表面には多数のクレーターが存在している。


衛星は大小2つか?


「ルジュ、【そう】」


ルジュをまと


「それじゃあ、いってくるよ」


僕はエッグを抱えてブランシェから第4惑星の北の極磁点を目指した。


いびつに歪んでいたエッグは修復されて、今は緑色の大きな卵にしか見えない。




第4惑星の地表に降り立つ


「それで、ルジュ・・どうしたらいいかな?」


『マスター、エッグを地表に置いてください。


 こちらから、エッグに起動キーを送ります』


「ああ、わかった」


 僕は黒い地表に緑のエッグを置いた。


「ルジュ、頼む」


『了解、エッグを起動します』


するとエッグが溶けるように地表に潜っていった。


『エッグの起動を確認しました』


「よし、ブランシェに帰ろう」




【ブランシェ制御室】


さて、エッグによるテラフォーミングの完成時期は、まだ予想もつかない。


受け入れ先が決まっているのは後8000万人分、その後は未定だ


今1000万人を輸送するのに、人の乗降時間を含めて往復5週間、


つまり、あと40週で、送り先が無くなる


それまでにテラフォーミングの目途がつけばいいんだが


今考えても、仕方のない事が最悪の予想として頭の中に浮かんでは消えていく


「アースライさん、少し良いですか?」


ミーシアさんが来たのに気が付かないとは、


僕も案外プレッシャーに弱いみたいだ。


「何かな? ミーシアさん」


「あのエッグって何なんですか? 誰に聞いても教えてくれないのですが? 」


「ああ、確かにミーシアさん教えて、変に希望を持たれても困るし、


 後で絶望されても困るからね、みんな答えにくいと思うよ」


「希望と絶望ですか? この状況で」


「あのエッグは古代遺跡文明のテラフォーミング装置だからね、


うまくいけば、あの星が居住惑星になる」


「え?」


「しかし、居住惑星になるのは、惑星が焼き尽くされた後になる可能性の方が高い」


「そんな」


「だから、誰も言い出せなかった」


「そんな物を持っていたなら、何故もっと早く?」


「エッグの修復が完了したのが、カルツナック星系に到着した後なのもあるけど。


 僕が、こんなモノを持っているとバレたら、イシュメラーナ星系の為にに使うのを


 反対されただろうから黙って使ったんだ」


「イシュメラーナ星系の為に使うのを・・・反対される?」


「間違いなく、連邦中の代表が反対するだろうね。


 間に合うかどうかも分からない星の為に使うなんて」


「イシュメラーナは、どうなってもいいという事ですか?」


「そうだね、もし同じ事が他の星系で起きたら、きっと同じことを言われるね。


『間に合うか分からない星の為に使ってしまうなんて。


アレがあったら、確実に助かったんだ。この星はどうでもいいのか? 』


まあ、そんな事を言われても、もう手元に無い持ってないけどね」


「イシュメラーナは、それだけの責任を背負ったという事ですか? 」


「いや、そんな事を言って大事に倉庫たからばこに眠らせていても仕方ないからね。


せっかくだから『イシュメラーナは幸運だった』って言って欲しいね」


「アースライさん、さっき何を考え込んでました?」


「何かな、いきなり?」


「見た事も無い位深刻でしたね?」


「そうだったかな?」


「教えてください」


これは答えないといけないか・・・・・・


「えっと、この機動衛星は1000万人の人間を運べる、これはわかるね?」


「はい、もちろんです」


「今、後8000万人の行き先が決まっている」


「はい」


「イシュメラーナ星系と行き先の星系の往復は、人の積み下ろしの時間を含めて大体5週間だ」


「そうです」


「つまり40週先には積み込んだ人の受け入れ場所が無くなる」


「え? 連邦で探してくれているんじゃ無いんですか?」


「ミーシアさん、本気で言ってる? 


 おそらく白銀の騎士ぼくに近づく口実の少数受け入れだよ。


 纏めてもいいところ2000万行くかどうかでしょう」


「どうしたら」


「いま僕たちが出来る事は少しでも多くの人を救う事、エッグの状況を見る事。


 そして、他に方法が無いか黙って探す事」


「黙ってですか?」


「この事がバレた時点でイシュメラーナで暴動が起きるよ、


 だから5週間で1000万人のペースも、なるべく落としたくないね」


「アースライさん、私が聞かなければ、この話黙ってましたね?」


「必要無いでしょう、こんな話」


「一人で悩んでましたね?」


「人に言える話じゃ無いですよ」


「一人で抱え込まないでください」


「何を言っているんですか。絶望に耐えているのはイシュメラーナの人達ですよ」


「アースライさんだってつらそうじゃないですか」


「ステラファス星系にお願いして、もう1000万受け入れて貰えば、


それだけで5週間猶予が出来るんですよ絶望している暇があるなら動かないと。


助ける側が絶望するなんて、そんな贅沢はできません」


「贅沢なんですか?」


「ええ、贅沢ですね。絶望はの特権ですよ」





そうしてイシュメラーナ星系に行く前にファクマス星系に立ち寄っては


テラフォーミングの状態を確認していった。


1回目、惑星の自転速度に修正が加わったようだ


2回目、炭酸ガスの大気の層が出来たようだ


3回目、クレーターに水が溜まっているようだ


4回目、大気に雲の発生が確認された


5回目、海岸近くが地衣類で覆われている


6回目、地上の平均気温が下がって植物の育成が始まった


7回目、植物が地面を覆って気象が安定し始めた


8回目、水中生物の発生が確認された



≪マスター、地殻内のエッグから惑星環境状態についてログが送られてきている。


やっと大気の状態が安定したようだ。


現在、惑星生態系の進化プロセスが途中だが、移住を開始しても大丈夫だ≫


「ありがとう、メルク。ミーシア、イシュメラーナの人たちにプレゼントだ」




『イシュメラーナ星系の皆さんミーシア・サンサードです。


 実は皆さんに報告があります。


 皆さんに内緒でイシュメラーナ星系近くの恒星系で


 テラフォーミングを行っていました。


 間に合うかどうかが不明だったため秘密にしておりましたが


 やっと惑星の気候が安定してきました。


 ここが新しい母星になります。


 それではその場所を発表させて頂きます。


 ファクマス星系第4惑星です。


 このイシュメラーナ星系から、およそ8光年の位置にあります』


どうしてだろう、聞こえないはずなのに大勢の人の歓声が聞こえた気がした。




『これより、この医療拠点艦ブランシェは連邦に輸送業務の誘致に行ってきます。


このイシュメラーナ星系まで片道4ヶ月使っても


30億以上の人間と大量の物資を、8光年の距離で行う往復輸送なら


誘致に乗ってくる企業は多いでしょう。


その規模に見合った設備も必要になってきます。


誘致に行っている間、機動衛星の運営を政府にお任せしますので


小型宇宙船と居住設備と人の輸送をお願いします』




「さ~て、連邦にお願いに行きますか」


「アースライ、連邦も特需景気になるでしょうね」


「連邦議会では、脅されたから、やり返したけど。味方は多い方が良いからね」


≪ところで、マスター。空間転移ポートのコア修復が完了したがどうする? ≫


「え?メルク。あれって、リングとセットじゃないの? 」


≪リングはコアで生成されるから大丈夫だ≫


「そもそも起動して、もう片方が無事かどうかはどうやって確認するの? 」


≪もう片方が無事で無い場合は、そもそも起動しない≫


「どうやって使うのかな?」


≪転移装置との同調が必要なので起動式をブランシュに送っておくよ≫


「ああ、それじゃあ機動衛星にコアを受け取りに行くよ」


≪ついでにリングの向こうで文明品を探すのに私の子機を持ってくれ≫


「分かった、それも受け取るよ」




【ガルチノス星系 主星 ガルチノア】


『こちらはステラファス星系の騎士アースライ・グランクラフトだ、


 その節は大変お騒がせした。


 実は皆さんに儲け話を持ってきた。


 3000光年先のイシュメラーナ星系から、


 その隣、8光年離れたファクマス星系の第4惑星まで


 人と物資を運んでもらいたい。


 ファクマス星系の第4惑星のテラフォーミングは既に完了している。


 人は30億以上、物資に関しては想像もつかない量になるだろう。


 イシュメラーナ星系まで片道4ヶ月を使っても、後は8光年の往復だけだ。


 せひこの機会に儲けてくれたまえ。


 イシュメラーナからの移住は開始したが、


 おそらく居住施設と建設機器人が優先で、他には手が回らないと思う。


 もちろん、この儲け話に乗る乗らないは自由だ。


 向こうの政府に機動衛星を貸してきたが、星の引っ越しにはまるで足りない様だ。


 運ぶ物は大量にあるぞ』




こうして声を掛けた結果、各国所属の大型輸送船がイシュメラーナ星系を目指し


連邦内の流通に負荷がかかる事態になった。


特にファクマス星系に今後必要になるだろう推進剤精製施設や備蓄施設、


航行指示施設などの設置には、どの企業が携わるか連邦で競争入札になり。


これだけ多くの宇宙船が集まれば当然ながら大量の物資が集まる事になった。


こうして、イシュメラーナ星系からファクマス星系への移住の動きは


ファクマス星系特需とも言うべき流れになっていった。



そして、それは移住開始から3年後。


イシュメラーナ星系から最後の輸送船が出発しても、


その流れは変わらなかったという。

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