第24話 人の手による終焉

【空間転移ポートから2番目に近い恒星系、便宜上アルファ2】


「ここは白色矮星か?」


イシュメラーナ星系は数万年後なる、焼き尽くされた恒星系だな。


「メルク子機、文明品の反応はあるかな?」


≪2ヶ所で反応を確認しました≫


「とりあえず、近い方から誘導してくれるかな?」


≪了解、こっちです≫


「これは・・・クリサリス・・・・だよね?」


≪そうです。回収しましょう≫


「前回の事があったから少し警戒してしまったよ」


そうだよな、そんな事が度々あるはずが無い・・・・・




「メルク子機、ごめん・・・あれ何?」


大きな黒いクリサリス、全長10mはあるぞ・・・・・まさか?


「もしかして・・・中に巨大な種族が入ってるの?」


≪すみませんマスター、私の記録の中にも開発計画しか残って無かった

代物だったので検索出来ませんでした。

あれは【アウタセル】クリサリスの強化装備として作られた物です≫


「そうか、良かった。中に巨人でも入っているのかと思ったよ」


≪計画ではクリサリスの単独行動能力の強化と転移能力の付加を行う予定でした、

転移装置を積み込んだところで計画が中止になったと記録には残っています≫


「どうして、中止になったの?」


≪転移装置のエネルギーを充填するジェネレーターの開発に失敗したらしいです。

クリサリスからの供給では5回の転移で

クリサリス側のエネルギーが枯渇こかつしました≫


「だめじゃん」


≪開発中止のはずの【アウタセル】がここにある以上、

 使える様に何か対策がされているとは思いますが、

 こればっかりは修復してみないと分かりませんね≫


「わかった、とりあえず回収するね」


≪ええ、修復が楽しみです≫


【アウタセル】を回収して僕はシルキスタの制御室に戻った。


「メルク子機。これで、探索は最後かな?」


≪他に反応は見当たらりません≫


「ブランシェ。この恒星は使えそうかな?」


『十分、使えると思うよ。マスター』


「シルキスタ、この恒星でいいかな?」


『はい、マスター』


「ブランシェ、白色矮星のエネルギー充填は初めてなんだ。


 安全に近づける所まで近づいてもらっていいかな?」


『マスター了解しました。白色矮星から5光分の位置まで接近します。

 およそ1時間で予定位置に到着します』


「ありがとう、じゃあ僕は格納庫でジェネレーターの牽引を準備してくるよ」


『了解です。マスター』


そうして、一人格納庫に向かった。




【ブランシェ格納庫】


「ルジェ【装】」


『了解』


ルジェを纏う


「ルジェ、恒星炉を牽引準備してくれ」


『了解しました』


「ブランシェ、ルジェに突入コースを送っておいて」


『了解です。マスター』


「制御室、メイを部屋に連れて行ってくれないか?」


『わかったわ、アースライ君。気をつけてね』


そうして、目的の場所に到着したブランシェから恒星炉を牽引して僕は出発した。


「ルジェ、コントロールは任せた」


「了解です、マスター」




【ブランシェ制御室内】


「ねえ、セシィ」


「なんでしょう殿下?」


「おそらく、このジェネレーターに恒星を利用してエネルギーを充填する

と言うのが機密情報なんだけど、メルに見せられないくらい

気を遣う内容なのよね?」


「しかも、アースライ君の深刻さも、ただ事では無かったですよ」


「そうなのよ、アリシアは口に出来ないように契約がされているみたいだし

 私達も心の準備をしないといけないんだけどね」




【アルファ2恒星系中心付近】


そのまま、ルジェは白色矮星に向かって加速を続けた。


どれだけ加速しただろうか・・・


『マスター、そろそろ恒星炉を切り離すポイントに到達します』


「わかった、到達しだい切り離して恒星から離脱する」


『了解しました。予定通りの行動を行います』


これが必要な事だと分かっていても、切り離しの瞬間には躊躇う僕がいる。


その感情を押し殺しながら僕はブランシェに帰還した。




ブランシェの制御室に戻って


「【解】 ブランシェ、ジェネレーターはどうだ?」


『マスター、まもなくジェネレーターが白色矮星に到達します・・・・

 今、到達しました』


「ありがとう、ブランシェ。すまないが、自室で少し休んでくるよ」


『お疲れ様ですマスター、お休みなさい』




自室で横になったが眠れそうに無い。


『マスター、精神負荷が高くなっています。

こちらで睡眠状態にもっていきましょうか?』


「ルジェ、すまないがお願いできるかな」


『了解しました。お休みなさいマスター』


そうして、僕は無理矢理意識を閉ざした。




どれだけ時間が経ったろうか、柔らかい感触で僕は目を覚ました。


『あっ・・・』しっとりした女性の声?


「あれ?」


エルネシアさん?が全裸で僕に抱き着いていた。


『マスター、もっと』


僕は無実です


「エメリア、お願い。服を着て」


『マスター、まだ疲れが取れていません。

あと5時間くらい、この状態でいてください』


「そんな事をしたら、僕がエルネシアさんに撲殺されるから、

 やめてもらえるかな?」


『では、もう30分だけ、こうしていましょう』

「エメリア、もぞもぞ動くのやめて、お願い」


『朝目覚めた時、どういう事をすればマスターは喜んでいただけますか?』


「せめて服を着ていてくれないだろうか?」


『それは不可能です』


「不可能なんだ・・・でも、ありがとうエメリア、

 おかげで目が覚めたよ。だから服を着て」


『残念です。おはようございます。マスター』




ブランシュの制御室にむかう


エルネシアさんとセシリアさんはじっと白色矮星を見ている。


「ブランシュ、コクーンに回収したクリサリスの装着者に何か変化はあるかな?」


『いえ、変化はみられません。クリサリスの方も変化ありません』


「わかった、何か変化があったら教えてくれ」


どれくらい時間が経ったろうか。白色矮星を見ていたセシリアさんが声をあげた


「え?」


「どうしたのセシィ?」


「殿下、気のせいでしょうか。恒星が小さくなっていませんか?」


「・・・・・・・・そうなの、アースライ君?」


「まだ、大した変化じゃありません」


「恒星の縮小が大した変化じゃ無いの?」


「そうなりますね」


「アースライ君、あの恒星は・・・この後どうなるの?」


「ジェネレーターに、恒星炉に吸収されて消滅します」


「それが機密事項?」


「はい、アリシアに家族にも秘密にしてもらった機密事項です」


「それで、メルには見せなかったんだ」


「星の終焉なんて・・・しかも人の手で行われる終焉なんて

 子供に見せるものでは無いですよ」


セシリアさんが焦ったようすで


「殿下もアースライ君も、恒星の消滅に何故落ち着いてられるのですか?」


「セシリア、アースライ君がここまで秘密にしたがっていた事よ、

 公に出来ない内容なのは予想してたわ。確かにこれは公表できないわね」


「はい、それにこれは恒星が自然現象で消滅した訳では無く、

 僕の意志で消滅させたのですから、それについても公表は出来ないでしょうね」


「恒星の利用なんて事、連邦に相談してたら各国の思惑が絡まって

 何百年経っても結論は出ないでしょうね」


「はい、それにこのエネルギーの運用方法からソルコアイト文明は

 他の文明圏から【星喰い】と呼ばれていたようです。

 もっとも、敵対していた文明圏が【人喰い】という

 知的生命体を捕食するような相手ですから。

 僕としては、どちらと手を結ぶか考えるなら【星喰い】の方だと思いますね」


「これが【星喰い】の正体なの?」


「はい、あの【星喰い鬼】そっくりな種族の情報も見ました。

 ソルコアイト文明に属していた種族の1つのようです」


「歴史の真実か」


「もしかすると、今コクーンで治療しているのが【星喰い鬼】の

 可能性もあるんですが?」


「本当の歴史の生き証人の可能性もあるわね」


「どうやって隠すか悩む方が先だと思いますが」


「どっちにしても、回復してからでしょう」


「そうでした」



『マスター、まもなく恒星炉への充填が完了します』


「ブランシェ、ありがとう。さて、恒星の終焉です」


既に白色矮星に光は無くなっていた。


『充填完了しました』


「ルジェ 【装】、恒星炉を回収に向かう」


『了解しました』




【ブランシェ制御室内】


「ねえ、セシィ」


「はい、殿下」


「涙を拭きなさい」


「すみません、どうしてもステラファスの恒星とイメージが重なってしまって」


「あれは白色矮星で、我々の恒星とは似ていないでしょうに、それでもなの?」


「恒星の消滅がこんなに恐ろしい物だとは想像もしていませんでした」


「あなたでそうなら、メイにはとても見せられないわね」




そうして、僕は恒星炉を回収してブランシェに帰還した。


ブランシェの格納庫で恒星炉を見ながら


僕はそこで待っていたシルキスタに語りかけた


「これで一緒に旅が出来るね」


『絶対にマスターから離れませんからね』


「覚悟しておくよ」


『私と一緒はお嫌ですか?』


「そんなことは無いよ、さあ、シルキスタ、この恒星炉を取り付けに戻ろうか?」


『はい、マスター』



ブランシェの制御室に戻った僕は


「ブランシェ、空間転移ポートへの転移を開始してくれ。

それからエルネシアさん、転移が完了したらメイ王女を部屋から

出してあげてもらえますか?」


『マスター了解です』


「分かったわ、ここに連れてくるわよ」


「これからの予定ですが空間転移ポートに移動、

空間転移ポートでパラキス星系に転移、

ステラファスに転移してシルキスタに恒星炉を接続します。

その後はシルキスタに取り付けた恒星炉の習熟も兼ねて

イシュメラーナ星系に今回見つけた物の中で持っていける物だけを持って行きます」


リング付近に転移した頃、エルメシアさんに連れられてメイ王女がやってきた。


「メイ王女、ごめんね」


メイ王女は、僕の顔を見てから、こちらに歩いて来ていきなり抱き着いた。


「どうしたの、メイ王女?」


「騎士様が一番つらそうな顔をしてる」


「そうなのかな? 心配してくれてありがとうね」


メイ王女は抱き着いたまま、離れようとしない。


「メイ王女、そろそろ離れてくれないかな?」


「メイと呼んで下さい騎士様。あと私は4日も騎士様と離れていましたから

 シルキスタみたいに騎士様に抱き着いていてもいいんです」


「あれは、クリサリスの機能上の問題なので、

 人間のメイ王女がすると問題にしかならないのですが?」


「大丈夫です。ここには家族以外いません。問題はありません。それからメイです」


「メイ、大問題よ、ここに婚約者がいるのよ。

 姉の婚約者に抱き着いてはいけません」


「姉さま、騎士様はステラファスの騎士ですから問題ありません」


うん、姉妹のコミュニケーションはしばらく終わりそうに無いな。


「では、ステラファスに帰りますか、ミーシアも待たせたままですし」


「アースライ、メイを抱きつかせたまま何も無かったように話を進めないで」




【ステラファス星系】


「それでは、ブランシュ。シルキスタに接近してくれ。

 僕は恒星炉を運ぶからシルキスタは接続作業に入ってくれるかな?」


「アースライ君、王宮からも一度帰って来る様に通信が入っているわよ。

 特にメルは黙って出てるからねすぐに帰って来なさいだって」


「いや、ここに居る」


「メル、私達もアースライも王宮には行くわよ、


 あなた1人ブランシェに残るつもりかな?」


「・・・・・・・・」


「アースライ君、お父様が痺れを切らしているからメイだけ連れて行くわね」


「はい、メイ王女。では後でね」


「はい、騎士様」


「それでは僕はシルキスタに向かいます」




シルキスタの格納庫に到着した僕は声を掛けた。


「シルキスタ、お待たせ。恒星炉の接続を始めてくれるかな」


『はい、マスター。直ちに取り掛かります。これからも末永くお使いください』


「ああ、よろしく頼むよシルキスタ」

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